2011年3月22日 IUCN News story
翻訳協力:古俣友美子 校正協力:山口絵美
ホオアカトキ(The Northern Bald Ibis Geronticus eremita)は、世界的な「絶滅寸前種(Critically Endangered)」として、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに掲載されている。この種は2002年4月に、この地域でのUN/DGCS (Italian Development Cooperation) 総合動物相調査の中で、地元のハンターとベドウィンの遊牧民族から提供された手がかりを追って、シリア砂漠の人里離れた断崖で再発見された。この鳥は突然、中東で最も希少で、最も絶滅の危機に瀕した鳥となってしまったのだ。
この鳥の魅力は、数千年の間につけられたシンボル的価値だけではない。近くで見ると分かる、しわの寄ったところと毛のないところの外見のコントラスト、そして砂漠の地平線の上を飛ぶ、威厳のある気品と美しさを備えた姿もまた魅力なのだ。
「IUCNとバードライフ インターナショナルは、この鳥の救済に乗り出すことにしました。それはこの鳥が、多くの人を飢餓と苦難に陥れている、広まる生態系の崩壊とシリアの草原の砂漠化の象徴であり、最も重要な存在だからです」と、IUCN 西アジアの地域理事であるOdeh Al-Jayyousi博士は述べた。
しかし、長距離を移動する渡り鳥の絶滅を、わずかしか生き残っていない個体をもとに防ぐという試みに成功しているのは、今のところアメリカのみである(アメリカシロヅル(Whooping Crane)の例が有名)。絶滅危惧種でも、定住性の鳥を救う方がはるかに簡単なのは明らかだ。例えばトキ(Crested Ibis)は1980年代に中国で再発見され、この30年の間に絶滅から救済することができた。興味深いことに、このトキはまるでホオアカトキの「写真のネガ」のようだ。
2006年、シリアの大統領夫人であるAsma Al-Assad氏が、衛星追跡による鳥の渡りのルート解明の実現において重要な役割を果たした。そしてこれにより、トキがシリアの砂漠からエチオピアの高地を渡りで移動する間、年に2回8カ国にわたって旅をすることが明らかになった。
シリアの繁殖地における狩猟は、General Badia Commissionの努力のおかげで制限された。毎年、この鳥に興味を持った多くの観光客やエコツーリストが訪れるため、繁殖期間中に人間から妨害されるのを最小限にとどめる努力は現在も続いている。IUCNは、シリアのGeneral Badia Commissionが国際水準に従って Palmyra(パルミラ)でトキの保護区を設置する手助けをしている。また他方では、Ethiopian Wildlife and Natural History Society の大きな協力のおかげで、すぐには危険の及ばないエチオピアの越冬地の環境がこの数年間で整ったことが確認された。
衛星追跡によって、西アラビア半島沿岸でトキの若鳥の死亡率を高めている、2つの最も深刻と思われる絶滅の脅威が明らかになった。狩猟、そして電線による感電死だ。西アラビア半島沿岸のトキの渡りのルートは、他の絶滅危惧種の鳥(マミジロゲリ(Sociable Plover)、シロハラチュウシャクシギ(Slender-billed Curlew)、カラフトワシ(Greater Spotted Eagle)、カタジロワシ(Imperial Eagle)、ヒメチョウゲンボウ(Lesser Kestrel)、ウスハイイロチュウヒ(Pallid Harrier))、及びその他の個体数が減少している種(アネハヅル(Demoiselle Crane)、クロヅル(Common Crane)、ソウゲンワシ(Steppe Eagle)、コウノトリ(White Stork))が越冬地への行き来に利用するルートでもあるため、この発見は重要かつ総合的な自然保護の意味を持つ。
2009年7月、衛星送信機がパルミラで2羽の若鳥の姿をとらえた。このうちの1羽は2009年初春にこの群を訪れていたIUCNのJulia Marton Lefevre事務局長に敬意を表し、Julia と名付けられていた。移住の最初の日である2009年7月20日の終わり、鳥たちが北サウジアラビアのタバールジャルの村に着くやいなや、トキのJulia は射殺された。
Saudi Wildlife Commissionは協力の体制を整え、IUCNとバードライフの技術サポートを得て、サウジアラビアでのトキの渡りのルート観察を率先して行った。2010年3月に行われた調査旅行の間に、ホオアカトキのプロジェクトチームは2009年7月にトキのJulia を射殺したハンターに会い、この絶滅危惧種の鳥についての意識向上を促すためのいくつかの資料と写真を渡した。また、シリアのGeneral Badia CommissionとSaudi Wildlife Commissionが2010年夏に共同で衛星追跡を行い、これも成功を収めた。
トルコの大統領夫人とトルコ林野省が、トキについてトルコとシリアの国境を越えた重要な協力に向けて動き出すきっかけを作ったのは、またもシリア大統領夫人だった。これにより昨年の夏、シリアのパルミラにある繁殖地で、念願の補給テストが行われることとなった。このテストは中東では初めて行われるもので、Waldrappteamの経験から実行が可能となった。
シリアで生まれたものと同じ遺伝材料を持つ、トルコの檻の中で生まれた2羽のひなは、パルミラの野生群に放された。驚いたことに、この2羽は野生の成鳥のうちの1羽の後を追って、南サウジアラビアに向かう渡りのルートを1500km近くも飛んで行った。
「この重要な活動を繰り返し行い、改善していきたいと考えています。中東で最後の現存する野生のトキの群を増強するために、これは間違いなく重要なことですから」とIUCN西アジア保護地域(IUCN West Asia Protected Areas)のプログラムオフィサー(Programme Officer)であるKhaldoun Alomari氏は語った。
数日前、群では初となる、雌の成鳥のZenobiaがパルミラに無事に到着し、General Badia Commissionのレンジャーたちの歓迎を受けた。Saudi Wildlife Commissionの委員長であるHE Prince Badar bin Saud氏本人が述べた内容によると、2009年にトキのJuliaを殺したハンターと同じグループのハンターが、シリアに到着する数日前に、広大な北サウジアラビアの砂漠の真ん中でZenobiaに遭遇した。しかし今回は襲撃するのではなく、絶滅危惧種のホオアカトキであると認識し、ただ写真を撮るだけにとどめたのだ。
「トキの渡りのルートにいるハンターの意識を高めることは、短期間で行わなければならない最も緊急の優先課題です」とAlomari氏は付け加えた。
最後に残った数羽の東洋のホオアカトキを救える望みは薄いが、このプロジェクトのパートナーたちは、この困難な保護作業に意欲を燃やし続けている。
原文 http://www.iucn.org/about/work/programmes/species/?7137/Few-hopes-to-save-the-most-threatened-bird-in-the-Middle-East
NPO法人 野生生物保全論研究会のHP http://www.jwcs.org/
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