水銀中毒の恐れで落ち込むイルカ漁
(AP通信,JOSEPH COLEMAN記,2008年1月30日,日本,和歌山県太地町)
毎年秋から冬にかけて、岩場の多い日本の漁村、太地町の漁師たちは何千頭ものイルカを小さな入り江に囲い込み、食用や肥料にするために殺す。海は血で赤く染められる。
外国の動物保護活動家たちは、この虐殺を阻止するために毎年のようにこの町に集まって漁師たちとぶつかり合い、恐ろしい殺害の写真を世界中に発信している。しかし、そのような中でも漁はずっと続けられてきた。
現在、日本のイルカ漁師たちは、新たな手ごわい相手と直面している。水銀汚染だ。日本で最近行われた一連の調査で高レベルの毒性重金属がイルカの肉から検出された。数ヶ月前には、太地町の市会議員のグループが独自調査を踏まえて反イルカ漁キャンペーンを打ち出した。こうしたキャンペーンは前例のないことである。
地元のある大手スーパーマーケットチェーンでは、健康面への懸念からイルカの肉を店頭から撤去した。町のイルカ漁反対者らによると、地元の住民はイルカ肉を避けているという。ゴンドウクジラ(イルカの一種)の肉は、10月には地元の学校給食のメニューからなくなった。
「町長は、イルカ漁反対運動がこの産業に1億円の損害を与えていると言うが、それがどのようにしてはじき出された数字なのか、私には理解できない。」と、漁反対運動を進める山下順一郎町議会委員は言う。「彼らは、太地町にとってイルカ漁は大切だというが、健康の方がもっと大事だと言いたい。」
実際、日本ではイルカ漁反対を訴える動物保護活動の議論が無視され続ける一方で、食の安全に対する人々の関心が急激に高まっている地域では、水銀汚染の脅威が人々に打撃を与えている。
太地町でのイルカ肉による水銀中毒被害はまだ公式に実証されていない。しかし、1950年代から60年代にかけて水俣で何千人もが水銀中毒によって命を落としたり障害を負ったりした歴史を持つ日本では、水銀汚染に対する懸
念は大きな反響を呼ぶ。この汚染の原因は、大量の水銀汚染廃棄物が日本南部のこの町周辺にある漁場へ投棄されたことにある。太地町は日本でイルカ漁が行われている町のひとつだ。今年は、日本全国での漁獲割当量21,000頭のうち、3,015頭がこの町に割り当てられた。実際の捕獲頭数はその年の肉の需要量によって左右されるが、割り当て量より30%ほど少ない。
他の地域では沖合で漁を行うことが多いが、太地町では沿岸地域で行われるためとくに残酷さが目に付く漁のスタイルとなり、世界中の動物保護活動家たちの注目を集めることとなった。
太地町は、こうした注目に憤慨し、何百年もの伝統である漁に対する部外者による干渉を非難している。保護活動家と漁師たちとの間でのにらみ合いは、すぐに激しい議論や騒動へとエスカレートする。町はフェンスを立てシートを広げて、活動家たちが殺された獲物の写真を撮るのを防いでいる。また、外国人が町にいるのを確認すると、その日の漁を中止することもある。
漁についてのコメントを求められたある漁業組合の関係者は、「(コメントは)何もないです。タイミングの悪いときに来ましたね。」と言った。
高濃度水銀の存在が最近明らかになり、多くの人がイルカ肉の消費を控えるようになってきた。北海道医療大学の遠藤哲也氏は、イルカ肉に含まれる水銀の濃度は、政府が多くの魚の許容水銀含有量として定めている100万分の0.4 ( = 0.4/1,000,000)の数倍にも達することを、共同研究で示してきた。
同氏がこれまで測定した最も高い水銀濃度は、バンドウイルカ(太地町で食肉に虐殺されているイルカ)で100万分の100 (= 100/1,000,000) だった。
同氏は「きちんとした調査が必要です。」と述べ、イルカ肉摂取の危険性について政府が徹底的な調査をすることを求めた。「イルカ肉を多く食べる人もおり、この人たちは健康への影響を受けているかもしれないのです。」
しかし、このような水銀汚染の脅威は、山下氏(太地町議員)らが独自の調査を行うまでは、この田舎の町で騒ぎとなることはなかった。太地町では、およそ3億3000万円をかけてイルカの食肉処理施設を建設し、地元で捕ったイルカ肉の利用を学校給食に広めていこうとする計画があり、それに山下氏が反発したのだ。地元で購入したイルカ肉3片を政府系実験施設でテストした結果は、恐れていたことが現実となったと同氏は語った。
ゴンドウクジラ(イルカの一種)のサンプルは、どれも許容限度とされる100分の0.4の何倍も上回る値を示した。
あるサンプルでは、水銀濃度が100万分の11で、さらに日本の規制で上限0.5とされるPCB(ポリ塩化ビフェニル)が2.6を記録した。
山下氏らは、地元新聞を通してこの実験結果を公表し、さらに東京で行われた外国人記者向けの会議にも出席するなど、イルカ漁反対の活動を進めてきた。これに対し地元有力者や漁師らは反発している。
「有力者や漁師たちは、イルカ漁がなくなってしまったら、太地という町そのものが消えてしまうという。でも私は、他の産業の発展に目を向けることが大切だと思う。」と、山下氏は言う。「私がこの実験結果を外部に公表したので、彼らは慌てているのです。」
だが、反イルカ漁の運動も、本質的な課題に直面している。
水銀汚染の問題は、メディアで充分に取り上げられておらず、太地町以外では汚染に対する懸念もまだ広がっていない。そのような地域での消費を見込んで、太地町の執行部(町議会議員のうち、漁に反対しているのは10人中わずか3人)は新たな食肉処理施設の建設にこだわり続けている。また一方で、捕獲されたイルカは国内外の水族館に売られることもあり、多大な利益をもたらしている。
太地町は国とも強力なパイプを持っている。自民党の総務会長、二階俊博氏は、太地町のある和歌山県出身で、ごく最近も太地町を訪れている。また町の至るところで彼のキャンペーンポスターが見られる。
日本政府は公海での捕鯨について国際的な保護活動家たちとの闘争を続けているが、イルカ漁をめぐる論争には関与していない。 2003年の厚生労働省の調査でイルカの体内で高レベル水銀が確認されているのだが。水産省は2005年に、二年前に出された報告の内容からさらに踏み込み、妊娠中の女性は二カ月に一度を超える頻度でイルカを食べないよう呼びかけるものとした。ただ関係者らによれば、いずれにしても100万分の0.4という水銀の許容濃度がイルカ肉に適用されるわけではなく、ガイドラインをこれ以上厳格化する予定はないという。
「われわれも、イルカ肉の水銀含有量が際立って多いことは認識しています」と、厚生労働省で食品安全係長を務める江島裕一郎氏は言う。「しかし、伝統的にイルカ漁を行ってきたような地域を除いて、日本人がイルカの肉を食べることはほとんどありません。」
(翻訳協力:井上拓己・編集協力:石井紀子)
