空輸による動物密輸と人獣共通感染症拡散の防止
和訳協力:中村 智子、校正協力:真井 悠美子
C4ADS News
動物から人間に伝播する病原体は、パンデミックなど伝染病の流行を突然引き起こすことがある。
こうした病原体の伝播を促進する人間活動には、森林伐採や採掘に加えて、感染した動物やそれを原料とする動物製品への直接的な接触などが挙げられる。
航空業界には動物や動物製品の合法的な空輸による人獣共通感染症の蔓延を軽減するためのプログラムが――法律の制定と執行を求める動きに応じて――複数存在するものの、違法な空輸でも公衆衛生は危険に晒される。
(貨物や乗客による)違法な空輸は規制や取り締まりの目を欺いて行われるため、密輸された動物は新たな生息環境と新たな動物相の中に移入される。
また、密輸された動物や違法な動物製品は、輸送の前後および途中に窮屈な状態で保管される場合があり、病原体に接触する可能性が高まる一方で動物の免疫反応は抑制されてしまう。
このように、違法なサプライチェーンが潜在的な媒介動物を生み出し、その動物の体内で突然変異を起こした人獣共通感染症が人間に感染して、公衆衛生はあっという間に危機的状況に陥る。
C4ADSがROUTESパートナーシップ注1)と共同で発表した最新の報告書では、空路で密輸される動物がいかに人獣共通感染症を拡散させ、パンデミックを引き起こすリスクを増大させているかを調査している。
C4ADSのAir Seizure Database((仮)空港押収品データベース)を参照すると、人獣共通感染症のリスクが高い動物の密輸は、明らかになっている事例だけでも、南極を除く大陸を横断し、世界100カ国以上の間で起こっていることが分かる。
これらの事例には――氷山の一角である可能性が高いが――家畜および野生動物の密輸も含まれている(新興感染症に関しては野生生物の密輸のほうがより重大なリスクを孕んでいる)。
個々の事例の検査で得られた証拠により、押収された複数の野生動物から病気の原因となる複数の病原体が確認された。
航空業界も、行政や動物衛生の利害関係者と同じく、データに基づいた方針をたて、取り締まり手続きを行うことより将来のパンデミック発生を予防することで法施行当局の支えとなり得る。
人と物の合法的な流通を目的にした航空業界の規制、方針、取り締まりは、動物の違法取引の撲滅の取り組み、すなわち、野生生物の違法取引を減らすために航空業界が既に着手している取り組みを拡大する形で、補う必要がある。
リスクを軽減するために航空業界関係者ができることは、従来の野生生物の違法取引撲滅のために活動する利害関係者および行政、動物衛生の研究者らと共に、産業セクター横断的な協働に参画し、人獣共通感染症と動物の違法取引に関するデータに基づく包括的な対策を実施することである。
本概要報告書では、航空会社、空港、法施行当局に対して各々の機能と役割に基づく熟慮を求めて以下を提言している。
すべての関係者
動物の違法取引撲滅のための取り締まり手続きの体系化とその実施に、人獣共通感染症の拡散についての取り組みを考慮した要素を盛り込む。(例:取引業者と密輸品双方に対する検疫および人獣共通感染症検査の実施)。また、違法取引対策で補う。
動物衛生当局と連携して野生動物の違法取引対策に関連する活動を調整し、動物の病気のリスクを最小化する。
航空会社および空港
動物の密輸が公衆衛生に及ぼすリスクに関して、乗客への積極的な啓蒙活動を強化する。
動物衛生および公衆衛生に関わる機関と連携して、リスクの高い種や航空ルートに注意喚起を促す活動に注力する。
動物および個人消費用のブッシュミートなどを含む動物製品の密輸の動向を示すデータを用いて、密輸対策および人獣共通感染症の拡散を防ぐ取り組みに関する方針および取り締まりに情報を提供する。
施行当局
押収品に関して、押収した場所、航空ルート、輸送方法、押収品の詳細などを含む一般報道を増やす。
生物学者、検疫機関、航空業界の利害関係者との協働を増やし、押収された動物や物品の病的異変を監視する。
これにより、人獣共通感染症のリスクが高い動物の密輸の促進要因と密輸手法に関して理解を深めることができる。
(貨物や乗客による)動物と動物製品の密輸を輸送前に阻止する法執行に対する報奨を強化する。
自動検出など新興技術の開発状況を注視し、空港の検査システムにおいて違法に持ち込まれた動物または動物製品を識別する能力を構築する。
注1:絶滅のおそれのある種の違法な輸送削減に関する取り組みとして2015年に立ち上がった、輸送セクターを支援するパートナーシップのこと。
ニュースソース:
https://c4ads.org/routes-zoonotic-spillover
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