キツネザル類のほぼ3分の1とタイセイヨウセミクジラが絶滅危惧IA類に―IUCNレッドリスト
和訳協力:坂本 義教、校正協力:花嶋 みのり
2020年7月9日 IUCN News
本日公開された「絶滅危惧種に関するIUCN(国際自然保護連合)レッドリスト」の更新版によれば、マダガスカルのすべてのキツネザル類のほぼ1/3(31%)が、今や絶滅の一歩手前の絶滅危惧IA類であり、またキツネザル類のうち98%が絶滅の危機に瀕しているという。
今回の更新版ではアフリカの全霊長類の評価の改訂が完了しており、アフリカのマダガスカル以外の地域の全霊長類種の半分以上の種が危機に瀕しているとの結論が出されている。
また、North Atlantic Right Whale(タイセイヨウセミクジラ)とEuropean Hamster(クロハラハムスター)がともに絶滅危惧IA類に指定されたことも明らかになった。
IUCNレッドリストの掲載種は現在120,000種を超えており、120,372種が評価されている。
このうち32,441種が絶滅の危機に瀕している。
IUCN事務局長代理のGrethel Aguilar博士は「このIUCNレッドリストの更新は、アフリカ全域の霊長類がどれくらいの脅威に直面しているかの真の姿をあらわにしています。また、人類が総じて、他の霊長類や自然との関係を根本的に変える必要があることも明らかになりました」と述べている。
「この危機の核心となるのは、森林破壊と野生動物の持続不可能な利用に依存している現状を変え、代替となる別の持続可能な生活手段が大至急必要だということです。こうした調査結果は、効果的な保全活動を推進する野心的なポスト2020生物多様性世界枠組みが緊急に必要であることを、我々に痛感させます」。
「今回更新されたIUCNレッドリストで示された、タイセイヨウセミクジラなどの種の激減は、絶滅の危機の深刻さを裏付けるものです」と、IUCN生物多様性保全グループのリーダーであるJane Smart博士が言う。
「急増する絶滅危惧種を絶滅から救うには、国内レベル・国際レベルの協定を実行するための、行動を伴った変革が必要です。世界は、種の個体群の減少を止め、人為的要因による絶滅を防ぐために迅速に行動する必要があります。それは、野心的なポスト2020生物多様性世界枠組みとともに進めるもので、次回のIUCNの世界自然保護会議がその決定に役立つことになるでしょう。」
キツネザル上科の種のほぼ1/3が絶滅寸前の状態に
本日公開された更新版から、主にマダガスカルでの森林破壊と狩猟により、33種のキツネザル上科の種が絶滅危惧IA類となり、現存している107種のうち103種が絶滅の危機にあることがわかった。
13種のキツネザル上科の種は人間からの影響が大きくなった結果、より上位のカテゴリーに変更された。
新たに絶滅危惧IA類に指定された種の中には、Verreaux's Sifaka (ベローシファカ、学名:Propithecus verreauxi)や世界最小の霊長類であるMadame Berthe's Mouse Lemur(マダムベルテネズミキツネザル、学名:Microcebus berthae)が含まれており、以前はいずれも絶滅危惧IB類として記載されていた。
これらの種はその生息地の森林が、木炭や薪のための伐採に加えて焼畑農業で破壊され続けていることから、相当な数が減少している。
狩猟は、その生息域の多くで違法であり、禁忌(マダガスカルでは「fady」と呼ばれる)と認識されているにもかかわらず、ベローシファカをさらに脅かしている。
アフリカの他の地域では、霊長類種の推定53%(103種中54種)が現在、絶滅の危機に瀕している。
この中にはアカコロブス属全17種が含まれており、アフリカ大陸では、真猿型下目に含まれるいわゆるサルの仲間の中で、最も絶滅が危惧される属となっている。
今回、絶滅の脅威が高まった霊長類の中には、アフリカ西海岸に生息するKing Colobus(キングコロブス、学名:Colobus polykomos)がおり、絶滅危惧II類から絶滅危惧IB類となった。
その多くが違法とされているブッシュミートを求めての狩猟や生息地の喪失が、アフリカ全域の霊長類に最も差し迫った脅威をもたらし続けている。
IUCN Species Survival Commission(IUCN-SSC:IUCN種の保存委員会)霊長類専門家グループ議長のRuss Mittermeir氏は「IUCN-SSCの霊長類専門家グループが策定した、IUCN Lemur Conservation Strategy(IUCNキツネザル種保全戦略)が大成功を収めたおかげで、私たちはIUCNの「SOS Lemurs」イニシアティブのために750万USドル(約7億9,000万円、2020年10月2日付換算レート:1USドル=105.3円)以上の資金を調達することができました。地元の組織はこれらの資金により現在、エコツーリズムの促進、コミュニティに基づく新たな保護地域の創出のほか、パトロール、再森林化、マダガスカルの宝であるキツネザル類の保護の必要性に関する学校や地域社会の意識啓発に絶え間なく取り組んでいます。キツネザル類の大半にとって状況は依然、非常に深刻ですが、個体数が激減したNorthern Sportive Lemur(キタイタチキツネザル、学名:Lepilemur septentrionalis)などの一部の種は、この投資がなければ既に絶滅していたかもしれない、と言っても差し支えないでしょう」と述べている。
タイセイヨウセミクジラは絶滅の一歩手前
North Atlantic Right Whale(タイセイヨウセミクジラ、学名:Eubalaena glacialis)は、IUCNレッドリストで絶滅危惧IB類から絶滅危惧IA類へとカテゴリーが移された。
2018年末時点における推定生存成熟個体数は250頭未満で、総個体数は2011年以来およそ15%の減少となった。
この減少は漁具の絡まりや船舶との衝突による死亡数の増加と、以前に比べて繁殖率が低くなったことの相乗効果によるものだ。
2012年から2016年の間に人為的要因により死亡したり重傷となったりしたことが確認されたタイセイヨウセミクジラ30頭のうち、26頭の原因は漁具の絡まりであった。
気候変動により、タイセイヨウセミクジラに対する脅威が悪化しているようだ。
海水温が上昇したことから、セミクジラの主要な獲物が夏の間にセントローレンス湾へと北上したと思われ、同湾ではクジラと船舶との偶発的な衝突がより多く、またカニ捕獲カゴのロープへの絡まりの危険性もまた高くなっている。
クロハラハムスターは絶滅危惧IA類に
かつてはヨーロッパとロシア全域に多数生息していたEuropean Hamster(クロハラハムスター、学名:Cricetus cricetus)は、全生息域で個体数の深刻な減少に見舞われており、今回、IUCNレッドリストに絶滅危惧IA類として記載された。
調査によると、個体数の減少は繁殖率低下による可能性が高い。
雌のハムスターは、20世紀の大半の期間で年平均で20匹より多くの子を産んでいたが、現在は年間5~6匹の子しか産まないことが判明している。
繁殖率低下の原因はまだ十分にはわかっていないが、単一栽培プランテーション、産業開発、地球温暖化、光害の拡大などが考え得る原因として調査中である。
結果として、この齧歯類はフランスのアルザス地方では元の生息地の3/4から、ドイツでは生息域の少なくとも1/3から、東ヨーロッパでは生息域の75%より広い地域から姿を消してしまった。
何も変わらなければ今後30年以内に絶滅すると予想されている。
世界で最も高価な菌類が絶滅の危機に直面
世界で最も高価な菌類であるCaterpillar Fungus(シネンシストウチュウカソウ、学名:Ophiocordyceps sinensis)が絶滅危惧II類としてIUCNレッドリストに記載された。
この菌類は漢方薬で高く評価されており、腎臓や肺に関連する疾患などの多くの疾患の治療のために2,000年以上に渡り使用されてきた。
この菌類に対する需要は1990年代から急増している。
シネンシストウチュウカソウはチベット高原にのみ生育し、コウモリガ科のガの幼虫が地中に埋もれている間に寄生する。
その後、幼虫の身体から栄養を吸収して成長し、幼虫の頭から地表に現れ、そこで収穫される。
過去20年で、この菌類はその生育場所で数千人の主要な生計をたてる手段となってきた。
シネンシストウチュウカソウの個体数は乱獲の結果、過去15年間で少なくとも30%減少している。
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