海鳥のグアノ、毎年4億7000万ドル相当の価値を生み出す
2020年8月12日 Anthropocene news
和訳協力:佐藤 正根、校正協力:清水 桃子
海鳥のフンは重要な資源である。
土壌を豊かにする栄養を豊富に含んでいるため、少なくとも数世紀に渡りインカ族の農業を発展させただけでなく、ヨーロッパから入植者がやってきた後もグアノ(フンなどが含まれた化石)を利用した農業は非常に盛んだった。
現在でも有機肥料として売買されている。
フンもたらす恩恵により、研究者らはこれまで以上に海鳥を高く評価しようとしている。
最近、Trends in Ecology and Evolution誌に掲載された論文では、今日、年間に産出されるグアノが生態系サービスの見地からどれほど価値があるものかを明らかにした。
著者らは、フンはお金になるというこの分析結果が、生存の危機にある多くの海鳥を人々が見直す手助けになるだろうとしている。
評価するに当たり、研究者らは海鳥のグアノを2つに分類した。
一つ目は肥料として販売される商用グアノで、3種の海鳥―Guanay Cormorant(グアナイウ)、Peruvian pelican(ペルーペリカン)、Peruvian booby(ペルーカツオドリ)―によるものが大部分を占める。
このグアノの価値を計算するのは難しいことではない。
年間の総産出量を計算し、市場価格を掛け合わせるだけだ。
これは1940万ドル(約21億円、2021年9月14日付換算レート:1USドル=109.52円)となる。
2つ目はもっと複雑だった。
論文の著者の1人で、ブラジルのゴイアス州連邦大学大学院生のDaniel Plazas-Jimenez氏は、「海鳥は栄養循環において重要な役割を担っています」と述べている。
商用利用されなかったグアノは自然に海の中へ溶け込み、窒素やリンなどの栄養素を海洋生態系にもたらす。
これらの栄養素は藻類や植物プランクトンなどの一次生産者へ供給され、食物連鎖上の生産性強化につながる。
そのことが魚や我々にとってより大切な(そして経済的に重要な)海洋生物種の生息数の増加につながるだろう。
この生態系サービスの価値を算定するため、研究者らはこれらの栄養の「取替原価」を算出することにした、と記載している。
まず、海鳥が1年間グアノを全く産出せず、人間が自らの努力でリンや窒素を体に取り込む必要がある状況を想定する。
そのコストは年間4億5440万ドル(約500億円、2021年9月14日付換算レート:1USドル=109.52円)かかると計算された。
2つのグアノの価値を合わせると海鳥のフンは年間4億7380万ドル(約520億円、2021年9月14日付換算レート:1USドル=109.52円)の価値となる。
しかし、研究者らは算出された数字は過小評価であると忠告している。
海鳥とそのフンが我々人間にもたらすそのほかの恩恵、例えば漁業やスキューバダイビングなどの観光業などへの貢献については、算出された数字には含まれていない。
しかし、研究はまだ始まったばかりである。
このような手法がどれほどの効果があるのか、環境保護の専門家は次のような議論を繰り広げている。
もし生物がその種であるということだけで本質的に価値のあるものであること以上に、何か価値があることを訴えようとするならば、私たちは修辞力を放棄したり、道徳的な優位性を失ったりすることになるのであろうか?
また、もし我々がこのような方法で利益を数量化するならば、別の手法で数量化ができなくなるのではないだろうか?
海鳥による窓の日よけの被害や、食べ物が奪われる被害が毎年どれほど発生しているか知られているのだろうか?
ともあれ、Plazas-Jimenez氏は保全について論じる時、経済を抜きにしてはならないと言う。
「相手によって、どうやったら重要性が伝わるかを考える必要があるのです」、と彼は言う。
海鳥自体に価値があると思う人達がいる一方、自分にとってそれが何なのかより強く意識する人達もいる。
金額に示すことで、カモメが人間にとってどんな価値があるかを「非常に分かりやすく伝える手助けになるのです」と述べています。
一方で、ただ単にフンが面白いと感じる人もいる。
研究がCNNやNPR(National Public Radio)で取り上げられたり、スミソニアン博物館で展示されたり(さらにこのサイトも読まれてたり)することは、それ自体が良い戦略である。
評価するのは難しいかもしれないが、面白がらせてくれること自体、確実に海鳥から恩恵を受けているのではないだろうか。
ニュースソース:
https://www.anthropocenemagazine.org/2020/08/seabirds-produce-470-million-worth-of-guano-every-year/
★ニュース翻訳を続けるためにご協力ください!
→JWCSのFacebookでページのイイネ!をして情報をGET
→JWCSのメーリングリストに登録してさらに情報をGET
→JWCSの活動にクレジットカードで寄付
« ガラパゴス諸島の貴重な海洋生物を中国の巨大漁船団からどのように守るか | トップページ | 霊長類の保護対策の効果、いまだ不十分 »
「13 鳥類」カテゴリの記事
- 陸棲脊椎動物の絶滅が加速していることが調査により判明(2021.12.14)
- 海鳥のグアノ、毎年4億7000万ドル相当の価値を生み出す(2021.09.28)
- クマに注目―パンデミックでインドネシアのマレーグマの違法取引が悪化する可能性(2021.08.24)
- 海鳥の保護が気候変動からサンゴ礁を守る助けとなる可能性(2021.01.19)
- 有機畜産農業が野鳥を増やす(2020.01.31)
「36 野生生物の利用と取引」カテゴリの記事
- ブラジルの先住民グループが違法伐採をめぐる数十年の争いに勝利(2022.04.19)
- 香港市場に出回る絶滅危惧種であるハンマーヘッドシャークのフカヒレは、主に東太平洋地域産であることが判明(2022.04.12)
- 空輸による動物密輸と人獣共通感染症拡散の防止(2022.01.11)
- 陸棲脊椎動物の絶滅が加速していることが調査により判明(2021.12.14)
- クロマグロ産卵場における致命的な漁具に対するトランプ政権による許可の差し止めを求め複数の団体が提訴(2021.11.02)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント