最後に残された最上級の熱帯林が緊急に保護の必要があることが、最新の研究により明らかとなる
和訳協力:清水 桃子、校正協力:伊川 次郎
2020年8月10日 PHYS ORG News
Nature Ecology and Evolution誌に本日発表された論文によると、世界の"最後に残された最上級の"熱帯林が消失の重大な危機にあるとのこと。
炭素貯蔵 、病気の伝染防止そして水の供給を含む、主要な生態系サービスをもたらすこれら原生林のうち、正式に保護されているのはわずか6.5%にすぎない。
この研究では、United Nations Development Programme (UNDP:国連開発計画)、National Aeronautics and Space Administration (NASA:アメリカ航空宇宙局)、Wildlife Conservation Society (野生生物保護協会) と8つの主要研究機関の科学者ら-Northern Arizona University' School of Informatics, Computing, and Cyber Systems(北アリゾナ大学情報学・コンピューティング・サイバーシステム学部)のScott Goetz教授、Patrick Jantz研究教授、Pat Burns研究員を含む―は、国際的な森林保全戦略に重大な欠陥があるとした。
現在の世界的な目標は単に森林の広がりだけに焦点を当てており、森林の完全性または構造的な状態の重要性を考慮しておらず、人類と地球の幸福に必要な生態系を保護する活動に危機的なずれが生じているとしている。
地球上の貴重な湿潤熱帯林を保護するため、森林の質を認識した新たな目標が早急に必要とされている。
生態学的価値の高い森林を維持するための協調戦略を推進するため、この研究では世界の190万haの湿潤熱帯林のうち、41%の地域の新たな保護、7%の地域での積極的な回復、19%の地域での人間による経済活動の削減を提唱した。
「UNDPは、世界最高の科学者らと各国政府とを結集させる招集者として役割を果たすことで、最先端の研究を、鍵となる国際協定の策定とその国家レベルでの実施に関与させることを保証する上で、重大な役割を果たすのです」と、国連事務次長補兼UNDP政策・プログラム支援局長であるHaoliang Xu氏は語る。
研究者らは、UNDPの各国事務所ならびにブラジル、コロンビア、コスタリカ、コンゴ民主共和国、エクアドル、インドネシア、ペルー、ベトナムの主要な利害関係者らと協力し、最近制作された世界の湿潤熱帯地域の森林構造と人間の経済活動の高解像度地図を使用して、質の高い森林の配置図を作成した。
Nature Ecology and Evolution誌に掲載された論文によると、地球上の湿潤熱帯林のうち、生態系の健全性が高く保たれている森林はそのわずか1/2に過ぎず、主にアマゾンとコンゴ盆地に限定されている。
これらの森林の大部分は正式には保護されておらず、近年の森林損失率を考えると、重大な危機にさらされている。
危機に瀕しているこれらの"最後に残された最上級の"森林の急速な消失に伴い、本論文は、それらの森林の保全と回復に関する政策主導の枠組みを提供し、保護を維持すべき場所、新たに保護すべき場所、森林構造を回復すべき場所、人間の経済活動を緩和すべき場所を推奨している。
来年は生物多様性のいわゆる「スーパーイヤー」であり、今後30年にわたる地球規模の活動を形作る、自然に対する新たな取り組みについて、世界的な合意がなされるだろう。
また、パリ協定発効前に、各国は温室効果ガス排出量削減のための貢献を見直す最終的な機会がある。
これらのマイルストーンはいずれも、自然に基づく持続可能な開発のための2030アジェンダを推進するための取り組みに影響を与える。
「この論文で報告された研究は、世界の熱帯林の状況を評価する長い過程を経た結果です」と、論文の共著者であるGoetz教授は語る。
「ここでの突破口としては、森林樹冠だけでなく、3次元の森林構造の状態を初めてしっかりと推定するために、衛星データを使用できるようになったことです」。
「NASAと協力機関によって開発された地球観測機器とその方法論の進歩は、北アリゾナ大学のMonsoonやGoogle Earthエンジンなどの非常に強力なコンピューティングシステムの利用と相まって、熱帯林の質に関するほぼ全世的な地図の作成を可能にしました。我々は地球上の熱帯林の変化する状況を地図化するために、入手可能な最高の地球観測データを統合しました。その結果、最も質の高い熱帯林のうち、正式に保護されているのはわずか6.5%に過ぎないことがわかりました。この国際的な取り組みの一環として提案された保全戦略が、質の高い森林の保全、ならびに劣化した森林の回復を進めるための一歩となることを願っています」と、Burns氏は続けた。
「古くからあり、構造的に複雑な森林が生物多様性、炭素貯蔵、水資源、その他多くの生態系サービスに貢献しているという新たな側面が、毎年、研究により明らかになっています。今我々が、このような森林を詳細に地図化できるようになったということが、森林保全の取り組みにおける重要な前進なのです」とJantz研究教授は語った。
ニュースソース:
https://phys.org/news/2020-08-global-tropical-forests-urgently.html
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