コロナ禍でのトロフィー・ハンティングの禁止がアフリカの野生動物と人々の生計を脅かす
和訳協力:大前 美子、校正協力:黒木 摩里子
2020年6月29日 PHYS ORG News
グリフィス大学の科学者らは、トロフィー・ハンティングの禁止がアフリカの野生動物保全と人々の暮らしに与えるであろう極めて深刻な影響を明らかにした。
問題となっている行為ではあるが、トロフィー・ハンティングの習慣が行われていなければ保護されない土地が存在するのだ。
Environmental Futures Research Institute(環境未来研究所)のResilient Conservation Research Groupを率いているDuan Biggs博士は、国際団体と共同で、トロフィー・ハンティングを禁止が、アフリカの狩猟市場の大半を担う南アフリカの土地所有者に対して与える影響を調査した。
『The Conversation』誌の今週の記事の中で、研究者らは、アフリカの旅行産業に壊滅的な被害を与えているCOVID-19の世界的な感染拡大に焦点を当て、調査報告の適時性と重要性を強調している。
「トロフィー・ハンティングは残虐で非倫理的だという認識から、多くの団体が完全に禁止することを求めていて、大きな抑圧に直面しています」とBiggs博士は述べている。
米国、ロシア、スペインなど、世界中の国々から来たハンターたちは、小さなレイヨウ類から体重200kgの雄ライオンまで、様々な動物の狩猟を目的にアフリカ大陸全土を旅する。
Biggs博士と共同研究者らは、トロフィー・ハンティングには良くないイメージがあるが土地の保護の一翼を担っており、それがなければ広大な大地が保存されていないだろう、と提唱している。
トロフィー・ハンティングのおかげで保護されている土地は、アフリカ経済に年間約2億USドル(約210億円、2020年9月18日付換算レート1USドル=104.83円)をもたらし、何百万人もの生計を支えている。
「調査では、いくつかのNGO団体や国際的な政治組織がロビー活動を行っている法的な狩猟禁止に対して、民間の土地所有者がどのような反応をするかを調べました」と、ステレンボッシュ大学のCenter for Complex Systems in Transition((仮)複雑系遷移システム研究センター)のメンバーであるHayley Clements博士は語った。
「トロフィー・ハンティングが行なわれる民間の保護区は、南アフリカのおよそ14~17%を占めていて、国立公園で保護区より広いのです」と、調査を共に行ったロードス大学のAlta De Vos博士は述べた。
「ハンティング用の土地は、民間と公共の保護地域を結びつけ、更に保全へ取り組むための資金を供給しているので極めて重要です。トロフィー・ハンティングが禁止されれば、南アフリカの土地所有者の2/3が、野生動物が暮らす土地を手離すだろう、ということが明らかになっています」とBiggs博士は話した。
Biggs博士と研究者らは、その後、エコツーリズムがトロフィー・ハンティングの代替となる成長事業にならないか、土地所有者たちに尋ねた。
南アフリカの保護区を所有する民間人を対象にした調査では、写真撮影などをするツアーの市場は既に飽和状態で、その市場への参入と競争に関わる資金的な制約のため、大半の人にとって代替として不適であることが分かった。
「写真撮影などをする高級なサファリツアーがトロフィー・ハンティングの代替としてよく勧められるのですが、写真撮影するサファリへ移行したり、または既に実施している野生生物の観察ツアーを強化する、という意思を示したのは22人の回答者のうち、わずか1/3でした」と、共同で調査を実施したロードス大学のKim Parker氏は述べた。
「ハンターたちは、狩猟するために政治的に不安定で危険な土地へと旅行するという調査結果があります。既にCOVID-19により切迫した状況にある状況で限られた資金を制限することとなれば、アフリカの多くの地域で野生生物の保全と人々の暮らしの両方が壊滅的な状況になることでしょう」とBiggs博士は話した。
「トロフィー・ハンティングの全面的な廃止を迫っている政策提言団体や政策立案者たちは、COVID-19が大流行している現在の状況下では、ハンティングの禁止が引き起こす可能性のあるこれらの影響について、特に考える必要があるでしょう。いかなる禁止令であってもそれを施行する前に、保護区としての土地利用と人々の生計の両方を持続させるため、ハンティングを重要な収入源としている土地所有者とそのコミュニティと一緒に、代替となる収入を得る手段とその手段への移行計画を策定しなければなならないのです」。
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