新型コロナウイルス感染爆発終息以降の景気刺激策は気候変動に拍車をかけるか、それとも今後数十年にわたり化石燃料を封じ込められるか
和訳協力:兵頭 正志、校正協力:佐々木 美穂子
200名を超える世界の著名なエコノミストらが、コロナウイルスからのグリーン・リカバリーを提言
2020年5月12日 Anthropocene News
この先数か月以内に、世界各国の政府は、コロナ危機で沈んだ国内経済を復興する刺激策を打ち出し始めることが予想される。
いずれにせよ、そうした政策が気候変動についての長期的な展望も決定づけるに違いないと、イギリスおよびアメリカの、とあるエコノミストグループは口にする。
その理由は、感染爆発で生じた経済的損失があまりに深刻なため、復興策を万遍なく大規模に行う必要があるからだ。
その大規模な景気刺激策により、今後数十年間の経済が形作られることになるだろう。
これらの政策が化石燃料を奨励すれば将来の炭素排出量の制限につながるが、よりクリーンなエネルギーを奨励すれば、ゼロエミッションを目指す世界を構築できるだろう。
ただし各国は、気候に配慮した政策を自国のためだけに追い求めるべきではない。
エコノミストらの分析によると、温室効果ガス排出と経済活動との関係性を断ち切るために役立つ「グリーン」な政策が、化石燃料の現在の地位を強化する「ブラウン」な政策よりも、実のところ経済活性化に寄与できる可能性があることが判明している。
エコノミストらは将来予測をするにあたり、近年に目を向けた。
10年前の世界金融危機を契機に導入された景気刺激策のうち196例について評価したのだ。
その結果、63例がグリーン、16例がブラウンで、117例は「無色」、つまり長期的な温室効果ガス排出の動向に与える影響力はほとんど持たない政策であった。
「世界金融危機から得た教訓なのですが、グリーンな景気刺激策は従来の景気刺激策よりも利点があることが多いのです」と、研究者らはOxford Review of Economic Policyに掲載予定の記事に書いている。
一例を挙げると、再生可能エネルギープロジェクトは短期的に需要がある場合にはたくさんの雇用を生み出すことなどがある。
しかし長期的な維持管理には多くの人員を必要としないため、経済が復興するにつれて、新しい仕事につけるよう人員整理を行うことになる。
次にエコノミストらは、2008年から2020年にかけて、世界の経済大国のうち20か国から構成されるG20の参加国が提案または導入した、700を超える景気刺激策に関する情報を収集した。
彼らはそれらの政策を、事業税の軽減から医療への投資、労働者の再教育まで、25の異なる「型」に分類した。
さらに研究者らは、G20参加国すべてを含む53か国の、財務関係省庁の幹部および中央銀行職員、経済の専門家ら231名にもアンケートを送付した。
アンケートの内容は参加者に、政策の各型について、導入スピード、長期的な経済的利益、気候への影響、そして総合的好感度の観点から評価してもらうよう依頼するものであった。
アンケートの回答と文献の再調査に基づくと、気候と力強い経済復興のどちらにも優れた刺激策はごくわずかであった。
そのわずかな政策は、しばしば専門家が選ぶ総合的に見た最良の刺激策としてのトップ10リストに挙げられているものだった。
気候変動対策と経済復興の双方にとっての最善策としては、クリーンな物理的インフラ(再生可能エネルギーの生成、保管、電力網の近代化など)、効率的な改良工事、グリーンな職種に就職支援のための教育および研修への投資、自然資本への投資(気候に配慮した農業、炭素に富んだ生育・生息地の再生など)がある。
高所得国では、クリーンテクノロジーの研究開発に対する投資も役立つかもしれない。
地方支援を目的とした政策は、多くの低所得国ならびに中所得国において功を奏する可能性が高い。
最も窮地に立たされている航空業界には緊急財政援助が無条件で行われる。
苦境にあえぐ航空会社への支援は、炭素を大量に排出する悪評高い業界をゼロエミッションに向けて前進できるよう促すための条件や評価基準を付帯する必要がある、と研究者らは示唆する。
「研究結果から言えるのは、コロナ危機以降のグリーンな景気刺激策が、ワンランク上の経済復興を推し進める手助けとなり得ることです」と、研究チームに属する2人のメンバーがCarbonbrief.orgに書き込みをしている。
しかしながら、自然にそうなるとは考えにくい。
例えば、エネルギー需要の低下は再生可能エネルギープロジェクトが削減されていることを意味している。
一方で、原油価格の暴落は、特に新興経済国では化石燃料プロジェクトが、復興策が進むにつれて魅力的な掘り出し物のようにとらえられる可能性を示している。
その状況がリカバリーパッケージにとってのリスクを高めることになるため、「気候変動が進むかどうかは、この先6か月にどのような政策を選択するかによって大きく変わるでしょう」と研究者らは記している。
ニュースソース:
https://www.anthropocenemagazine.org/2020/05/the-economic-case-for-a-green-coronavirus-recovery/
★ニュース翻訳を続けるためにご協力ください!
→JWCSのFacebookでページのイイネ!をして情報をGET
→JWCSのメーリングリストに登録してさらに情報をGET
→JWCSの活動にクレジットカードで寄付
« 国際的規制当局の世界最大のマグロの売り尽くし方 | トップページ | 次のパンデミックを防ぐために:人畜共通感染症と感染の連鎖を断ち切る方法 »
「39 気候変動」カテゴリの記事
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の先にある未来には地球の健康の再生が必要(2021.12.28)
- 食料安全保障と大災害・パンデミックからの回復力を促進(2021.12.21)
- 新型コロナウイルス感染爆発終息以降の景気刺激策は気候変動に拍車をかけるか、それとも今後数十年にわたり化石燃料を封じ込められるか(2021.07.27)
- 海鳥の保護が気候変動からサンゴ礁を守る助けとなる可能性(2021.01.19)
- 地球規模の生物多様の新たな研究が、陸と海の生命の統一マップを利用可能に(2020.12.22)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント