海鳥の保護が気候変動からサンゴ礁を守る助けとなる可能性
和訳協力:手塚 珠真子、校正:JWCS
海鳥の大きな繁殖コロニーがある島の周辺のサンゴ礁は、死滅の原因となる気候変動がもたらす危機から比較的早く回復する可能性があり、危機的状況にある海鳥の保護が、サンゴ礁も保護する現実的な対策となり得る。
2019年7月17日 Anthropocene Daily Science News
生涯、もしくはその大半を海で生きる海鳥は、周辺環境で最も危機にさらされている動物だ。
20世紀半ば以降、海鳥たちは個体数がおよそ2/3減少しており、その保護は急を要する人道的課題となっている。
そしてそれは、気候変動からサンゴ礁を守ろうとする人々にとっても、現実的な対策になり得るかもしれない。
島に近いサンゴ礁の環境耐性を、島に海鳥の大きな繁殖地があるかないかで比較したところ、海鳥の繁殖地がある島の方がサンゴ礁が白化現象からより早く回復することがわかった。
白化現象は、海水温の上昇により、サンゴの体内に生息する藻類が抜け出すことによるものである。
サンゴはこの藻類に依存して生きているため、多くのサンゴはやがて死んでしまう。
白化現象はより頻繁に起き、またより規模が大きくなりつつあり、地球のサンゴ礁を待ったなしで脅かしている。
だが、科学雑誌「グローバル・チェンジ・バイオロジー」に掲載された、ランカスター大学の生態学者であるCassandra Benkwitt氏とNicholas Graham氏を代表とする研究者たちが書いた論文によれば、海鳥が「サンゴ礁の回復を促進する」可能性があるという。
海鳥の保護は、特効薬にはならないが助けにはなるだろうというのだ。
Benkwitt氏とGraham氏はモルディブの約500km南、西インド洋に浮かぶ環礁のひとつ、チャゴス諸島で活動している。
そこにはカツオドリ類、ミズナギドリ類、クロアジサシ類およびアジサシ類などの17種の海鳥が繁殖しているが、18世紀および19世紀に入植した人間が外来種のネズミを島に持ち込んだことで、多くの海鳥が餌食となった。
しかし、なかにはネズミが侵入せず海鳥の繁殖が盛んな島もあり、チャゴス諸島はネズミの有無による生態学的影響を研究する上で理想的な環境となっている。
研究の初期段階で、研究者は海鳥が捕食した魚由来の窒素と燐を含んだ糞がどのように作用するかをまとめている。
海鳥が魚を捕る海は、栄養が豊富で、無脊椎動物や魚の群れがたくさんいる場所だ。
ネズミが多く生息する島周辺のサンゴ礁はそうした栄養分が不足しているため、比較的サンゴの密度が低かった。
最新の研究で、Benkwitt氏とGraham氏、そして西オーストラリア大学の生物学者であるShaun Wilson氏は、2015年と2016年に大規模白化現象を引き起こすきっかけとなった異常な海水温上昇に見舞われた時、それ以前と直後で12の島の周辺の海洋生物を調査した。
そのうち6島には海鳥の大きな繁殖コロニーがあり、1ha当たり1,200羽以上が生息していた。
残り6島には1ha当たり2羽いるかいないかだった。
調査対象のすべての島の周辺でサンゴ礁の深刻な白化現象が起こった。
サンゴの生息域はおよそ2/3に縮小した。
しかしその後、海鳥が多く生息する島の周辺のサンゴ礁だけで、健康なサンゴ礁を形成する基盤となる、硬い外皮を持つ種のサンゴ藻が劇的に増えた。
草食性の魚類と魚を捕食する魚類のどちらにとっても、海鳥の島周辺は良い餌場となっている。
草食性の魚類は、湾内でのサンゴ礁を作るのに役立つ藻類を寄せ付けないようにするのに役に立つ可能性がある。
魚を食べる魚類の糞は、海鳥の糞とともに海の栄養となり、サンゴのポリプがこの先何年もかけて新しいコロニーを形成するための養分となる。
Benkwitt氏とGraham氏は次のように記述している。
「たとえ海鳥がもたらす栄養分がサンゴの白化現象に抗う力にはならないとしても、その先何年にもわたってサンゴ礁が回復していく助けにはなるでしょう。回復するかどうかは生き残ったコロニーの成長と、新たな幼生の供給にかかっているのですから」。
海鳥のコロニーと海鳥がもたらす栄養分は、ネズミを島から根絶した後、10年から20年以内に回復可能だと、研究者たちは指摘する。
もともと島にはいなかったネズミの駆除が、比較的早期に、費用をかけずに、島の生物の多様化と、サンゴ礁の健全性を促進する手段だと言う。
「もし世界中の島々で海鳥の個体群を回復させることができれば、広範囲に渡る沿岸のサンゴ礁が恩恵を受けるでしょう」と、Benkwitt氏は述べている。
外来種のネズミが侵入するより前、独自の生態系が形作られていた島々では、ネズミはとりわけ大きな問題ではあるが、海鳥は他にも複数の危機に直面している。
中でも最も深刻なのは魚の乱獲だ。
産業規模の海洋漁業が海鳥から食物を奪っているとの研究結果が数多く報告されている。
海洋汚染と生息地破壊が追い討ちをかけ、20世紀半ばを基準とした現在の海鳥の急激な減少は、産業革命以前の時代から激減した数値に相当すると見られている。
海鳥の個体群が回復すれば、島々の周辺ばかりか、海鳥が訪れる大陸沿岸のサンゴ礁にも恩恵をもたらすと考えられている。
この研究は特に海鳥に焦点を当てているが、生命の基盤となる要素を水域と陸域を横切って広げる生物が生態系の回復力を高める、という基本原則は、ほかの様々な種や生態学的な要素にもあてはまるだろう。
「栄養基盤を維持することで、気候変動に対応できる生態系を形成することが重要だと思います」と、Benkwitt氏と研究チームは誌上で述べている。
論文: Benkwitt et al. “Seabird nutrient subsidies alter patterns of algal abundance and fish biomass on coral reefs following a bleaching event.” Global Change Biology, 2019.
ニュースソース:
http://www.anthropocenemagazine.org/2019/07/seabirds-coral-reefs/
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