象牙やサイの角の大物密輸業者逮捕で革命の兆し
和訳協力:加藤 有起枝、校正協力:木田 直子
2019年6月25日 The national magazine of the Sierra Club
6月12日、ウガンダで、「カンパラマン」の呼び名を持つリベリア市民Moazu Kromahが逮捕された。
その翌日、Kromahはニューヨーク市の連邦裁判所の被告席に立ち、裁判官が彼に対する起訴状-740万USドル(約785,584,000円、2020年3月5日付換算レート:1USドル=106.16円)の価値のあるサイの角や象牙を売った罪を含む-を読み上げるのを聞いていた。
これまでにも動物の部位を扱う大物密輸業者が数人逮捕されたことはあるが、専門家はこの事件を、当局と違法な野生生物取引との戦いにおけるパラダイムシフトだと考えている。
これからは、犯罪組織への潜入と解体を積極的に行い、手堅く立件することによって、確実に犯罪組織のメンバーを処罰していくことになる。
「我々は、1回の押収や1つの事件への端緒としての対応ではありません。犯罪組織ネットワークを明らかにし、積極的に彼らを追いつめていきます」と、アメリカ合衆国魚類野生生物局の国際作戦部担当David Hubbard特別捜査官は語る。
「私はこれが、野生生物の密輸の世界における転換点となると考えています」。
申し立てによると、Kromahは同じく起訴状に名を連ねるギニア市民のAmara Cherifというパートナーとともに、アフリカ最大の野生生物犯罪組織のリーダーであるという。
Kromahより数日早くセネガルで逮捕されたCherifは、現在アメリカへの引き渡しは保留されている。
起訴状には、いまだ逃走中のMansur Mohamed SururとAbdi Hussein Ahmedという2人のケニア人の名も挙がっている。
Kromah、CherifとSururはマネーロンダリング、SururとAhmedは転売目的の20lb(20ポンド)以上のヘロイン所持の罪にも問われている。
ケニアの非営利保護団体Save the Elephants(セーブ・ジ・エレファント)のElephant Crisis Fund(エレファント・クライシス・ファンド)のChris Thouless理事によると、これらの追加訴因は、野生生物の違法取引がしばしば異なる形の犯罪とともに行われていることを示す良い例だ。
またこれらの余罪を含めることで、より重い刑を宣告できる。
この事件では、野生生物犯罪の罪状では最大でも懲役5年にしかならないが、薬物所持の罪1件で少なくとも懲役10年、最大で終身刑が科される。
アフリカのサイとゾウにとって、容疑者たちのビジネスは「被害も大きいが儲けも大きい」ものだったとGeoffrey Berman合衆国連邦検事は言う。
起訴状によると被告人らは2012年から違法取引を共謀し、少なくとも200lbのサイの角と10tの象牙を販売してきた。
およそ35頭のサイと1,000頭以上のゾウが密猟されたことになる。
ウガンダに拠点を置き、国境を超えた犯罪活動は東西アフリカの少なくとも7か国におよび、遠く米国や東南アジアにまで顧客を抱えていた。
証拠集めのため、2018年にある内偵者が、マンハッタンのチャイナタウン在住の顧客のために買い付けを行うバイヤーを装って犯罪組織に潜入した。
文字、電話、そして対面での交渉を重ねた後、内偵者はアメリカの銀行口座に複数のサイの角の代金を支払った。
法執行機関はニューヨーク行きの荷物2件を輸送中に押収したが、これらは荷送り人によってアフリカの仮面や芸術品の中に隠されていた。
アメリカ合衆国魚類野生生物局が主導したこの調査は、麻薬取締局、アフリカ諸国の政府や法執行団体などを含む様々な機関との協力を通して可能になった。
多くの非営利保護団体-裁判が進行中の間は匿名でいることを望んでいる-もまた、情報や支援を提供した。
「この事件は、アメリカの法執行機関、我々の仕事のやり方、我々が起訴するためには何が必要かを理解している、一部の信頼できるNGO組織との協力が可能であることを示す一例でした」とHubbard氏は語る。
「これは非常に重要なことです」。
この協力度の高さは、通常は単独の孤立したグループによって追跡が行われていた、過去の野生生物違法取引事件とは対照的なものだ。
「これまで保全のために採用していたやり方は、機能していませんでした」と捜査に詳しい内偵者は語る。
「協働・協力関係を構築し、起訴を目指すプロジェクトのために、資金を確保する必要があります」。
Hubbard氏によると、Kromahとその仲間たちは、ニューヨーク南部地区-アメリカで最も影響力のある連邦地方裁判所の1つ-で起訴されることになる。
有罪になれば、被告人は数十年の懲役もしくは終身刑となる可能性がある。
彼らには、犯罪組織全体の解明に役立つ情報と引き換えに減刑を認める司法取引の機会が与えられるかもしれない。
これも、アメリカで裁判を行うことによる利点の1つだとThouless氏は言う。
「アフリカの裁判所では、それほど長い懲役は科されないでしょうから、彼らがネットワークについて多くの情報を漏らす可能性はずっと低くなります」。
被告人らをアメリカ国内で起訴することは、処罰を逃れるために脅迫や買収といった手段を取らせないためにも重要だ。
例えばKromahは2017年に、ウガンダで押収された1.3tの象牙に関連して嫌疑を受けているが、いまだに起訴手続きを待っている状態だ。
「彼は組織を買収して、ことを遅らせているのです」と内偵者は語る。
「アフリカで大物犯罪者を起訴しようとする際によくある問題です」と、Thouless氏は付け加える。
「例えばケニアでは、野生生物関連の軽犯罪は起訴され有罪となりますが、重大犯罪はことごとく不起訴になってきました」。
Hubbard氏はKromah事件と有罪判決の見込みについて直接コメントすることはできなかったが、アメリカ政府は「思考の転換」を経験しており、野生生物の違法取引を重大な脅威と捉えて真摯に取り組んでいる、と話してくれた。
アメリカ合衆国魚類野生生物局は現在、世界中の主要な野生生物犯罪の中枢に7名の職員を派遣しているが、年末までにその数は12名に増えることだろう。
Kromahの事件についてHubbard氏は語る。
「終わりではなく、始まりの合図です」。
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