研究によりカーリー盆地の水不足と自然植生の減少のつながりが明らかに
和訳協力:アダムス 雅枝、校正協力:佐々木 美穂子
2019年2月22日 Mongabay-India news
・ベンガルール出身の生態学者チームがカリ川流域を調査し、水と生物学的多様性、水文学、生態学および土地被覆または土地利用の変遷との間の相互関係を明らかにした。
・本研究は非計画的な開発事業や大規模な森林の分断化の悪影響にも注目した。
・ガンジス川の上流域における別の研究でも同様の結果が得られた。
インドの科学者らによる、インド半島の西ガーツ山脈にあるカリ川流域で、その水とエコロジカル・フットプリントの評価を行う新しい手法により、この流域の自然植生の減少が明らかになった。
これはこの地域における水の持続可能性に影響を及ぼすものである。
ベンガルールにあるIndian Institute of Science(IISc:インド科学研究所)の生態学者らが開発したこの手法は、最初にカルナータカ州内の河川の研究に使用され、河川流域における生物多様性、水文学、生態学および土地被覆または土地利用の動的な相互関係を評価した。
カリ川流域にはトラとサイチョウの保護区があり、また野生のゾウが生息している一方で、カリ川河口には37種の魚類や二枚貝、あるいは軟体動物が生息している。
この河川には1980年から2000年の間に築かれた6つの主要なダムもある。
「誤った管理による悪影響を受けている亜流域や水不足に陥っている亜流域と比べて、自然植生が優占している流域で集められる水は、水需要、潅漑需要、発電需要などの、種々の部門の需要を満たしています。そのことが徐々に、地域に住む人びとの暮らしにもまた影響を及ぼしているのです」と、IIScのCentre for Ecological Sciences(生態科学センター)のエネルギー・湿地グループで主任科学者を務めるT.V.Ramachandra教授は、Mongabay-India紙に伝えた。
少なくとも55%かそれ以上の河川の流域が自然植物に覆われている場合、その河川の亜流域における支流は四季を通じて続く、すなわち一年中水が流れている状態となる。
それに対して単一作物のプランテーションが優占する流域では、わずか6~8か月の間しか表流水が維持されない(残りの期間は川が枯れてしまう)ことを本研究は明らかにしている。
流域が劣化し、植被率が30%未満になると、河川で水が流れているのが4か月未満となり、河川が季節性となる。
1973年から2016年までのリモートセンシングデータを使った土地利用動態に関して研究チームが評価した結果、カリ川流域で常緑樹林の植被率が61.8%から37.5%に減少したことが明らかになった。
科学者らの生態水文学的指標の計算から、より多くの在来種からなる森林で覆われる西ガーツ山脈の亜流域は、平野部に対してより優れた生態水文学的指標を有することがわかる。
科学雑誌『Yale Journal of Biology and Medicine』に掲載された論文で、上記のことは、「在来植物からなる植生に被覆されている場合での流況の維持における、流域のきわめて重要な生態学的機能」を強調するものだとしている。
本研究の結果はまた、亜流域全体の年間の水収支が、水不足を示した東部の平野部に比べて、西部の山間部あるいはガーツ山脈および沿岸部において一年中流れがあり持続性が高い、ということを立証している。
開発は南部へと進む
この研究は、「大規模な森林の分断化と一体となった無計画で無意味な開発プロジェクトの影響」もまた明らかにするものだとRamachandra氏は言う。
本研究によれば、無計画な開発活動が流域の健全性を損ない、その結果、一年を通した流れが季節性の流れへと転換することによって、地域の水の安全性を脅やかしている。
一年を通じた流れは在来植物が優占した亜流域に存在しており、人間活動が行われる場所や単一作物のプランテーションが優占する流域では単に季節的な流れにとどまる。
インドの「歪んだ戦略」は、環境への影響をほとんど考慮せず、主に社会的利益を志向することに由来しており、そのことが景観の大規模な劣化につながったと、この研究は示している。
さらに、「景観構造の大規模な改変が、流況の維持に重要な役割を果たす生態系の支持能力の劣化をもたらした。流域での生態学的―水文学的な人間の負荷を推定することは、流況および天然資源を維持する政策の策定に役立つだろう」と、加えている。
本研究の結果は、気候変動による水不足問題に対処するためには、インドにおいて総合的な流域管理を優先的に行う必要があることを明らかにした。
カルナタカ州の156地区が2018年に干ばつで苦しんだことを考慮すれば、これは特に重要なことだ、とRamachandra氏は言った。
賢明な流域管理戦略は水生および陸生の生物多様性と水資源の維持にも役立つ。
科学者らによれば、水不足は地元の人々の暮らしに打撃を与えている。
自然植生の近隣地域に住む村人は、1acにつき年間2,164ドル(1,54,000ルピー、約26万円、2020年2月25日付換算レート:1ルピー=1.7円)の収入を得るのに対し、単一作物のプランテーションが行われている地域の近隣に住む村人は、1acにつき年間たった449ドル(32,000ルピー、約5万円)の収入となっている。
本研究は、水や健康を代価にしてgross domestic product(GDP:国内総生産)を高めようとすることに注意を喚起している。
水不足に加え、花粉媒介者がいなくなり、土壌の有機炭素や栄養源が不足する事態も起きている。
「インドで水を維持するためには、在来種による大規模な植林が必要なのです」とRamachandra氏は忠告する。
Ramachandra氏は、カルナタカ州の川を初めて研究する際の「新しい」手法を強調し、次のように述べた。
「インドの主要河川でこの手法を同様に用いることに意義があるのです。今我々は、はこの手法をカルナタカ州の他の河川の流域にも適用しています。そして我々は、西ガーツ山脈がインド半島の水の保全、また食料の安全供給を保証することから、インド半島に住む西ガーツ山脈に依存する人々のために、西ガーツ山脈の河川にもこの手法を展開することを計画しています」。
北部での類似研究
IIScの研究だけが警告を発しているわけではない。
カーンプルにあるIndian Institute of Technology(インド技術研究所)地球科学部に所属するRajiv Sinha教授率いる科学者らによるガンジス川上流域の研究でも、河川沿いの制御されていない開発活動の影響が発表されている。
Journal of Hydrology: Regional Studies誌上に掲載された2017年の論文では、ガンジス川上流域における自然の流れに対するダム、堰や水力発電プロジェクトの影響を明らかにした。
「ダムや堰は流れのパターンだけでなく河川の縦の連続性も乱している」とこの研究では報告されている。
研究では、乾燥期には不自然に流量が多くなり、湿潤期には通常の流量よりもかなり少なくなることを示している。
また研究では以下のようにつけ加えている。
「このことは、最低限の生態学・地形学的条件は満たされているものの、これらの河川が大きな影響を受け、将来おこる被害に対して脆弱であることを示している」。
またこの研究では、水力発電がインドのエネルギー需要を満たすために必要だとする一方で、従来の水力電気プロジェクトが「川の基本的な健全性を侵害する傾向があり・・・従って、既存および将来の水力発電プロジェクトが、川の流れが途切れず、十分な水流が保たれるようにするための適切な対策が講じられるよう、計画、設計、および/または修正されることが不可欠だろう」と憶測する。
同様に、ベンガルールにあるAshoka Trust for Research in Ecology and The Environment(アショカ生態学環境研究基金)のSuri Sehgal Centre for Biodiversity and Conservationに所属する上級研究員であるJagdish Krishnaswamy氏が率いる研究では、西ガーツ山脈における数十年から数世紀を超える期間の人間活動の影響の結果として、質の低下した森林の表層土壌における土壌水分の浸透力の低下を明らかにしている。
「外来植物、例えばアカシア(学名:Acacia auriculiformis)の植林は土壌水文学上の性質を改善しておらず、それほど劣化していない森林の土壌の浸透性と比較した場合、土壌の水の浸透性はまだ非常に低いままです」と、Krishnaswamy氏は述べる。
さらに、この課題に対処するためには、在来種または侵略的でない種を利用して、利害関係者による全面的な修復の努力が必要だ、と付け加えた。
Krishnaswamy氏らのグループによる研究では、西ガーツ山脈の雨季における地下水涵養率は、天然林、アカシア植林および劣化した森林の下で、海岸流域ではそれぞれ50%、46%、35%、丘陵地域ではそれぞれ61%、55%、36%だと推定された。
研究者らは地下水の涵養量の多さは自然林の存在に起因するものだと考えている。
また、自然林と劣化した森林の間には、大雨による災害を緩衝する能力に10~36%の差がある。
大雨による災害は、地球温暖化により増加すると予測されている。
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