研究:食料の安全保障を脅かす世界の農業の動向
和訳協力:長谷川 祐子、校正協力:長井美有紀(Myuty-Chic)
2019年7月11日 EurekAlert News Release
柑橘類、コーヒー、アボカド、我々の食卓に載る食べ物はこの数十年でより多様化した。
しかしながら、世界の農業はこの動向を反映していない。
単一作物の大規模栽培が世界各地に広がっており、利用される土地は過去最大規模になっている。
それとともに、栽培されている作物の多くが虫やその他動物による授粉に頼るようになっている。
このことが食料の安全保障をますます脅かしていると、Martin Luther University Halle-Wittenberg(MLU:マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク)の支援を受けた研究チームが、科学雑誌Global Change Biologyに投稿した。
研究者らはこの研究のために、過去50年間の世界の農業開発を分析した。
研究者らは、1961~2016年の農作物の栽培に関するFAO(国連食糧農業機関)のデータを分析した。
それによると、世界各地でますます多くの土地が農地として利用されていることに加え、栽培作物の多様性も失われたという評価が出された。
一方で、最も早く成長する20種類の作物のうち16種類が、虫やその他の動物による授粉を必要とする。
「つい数か月前に、世界的な生物多様性の評価組織であるIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム)は、最大で100万種の動植物が絶滅の危機に瀕していることを世界に向けて公開しました。その中には花粉を運ぶ虫や動物も多く含まれています」と、この新しい研究の著者の1人であり、MLUに所属する生物学者のRobert Paxton教授は述べる。
特に影響を受けているのはハチである。
ミツバチ類は病原体や殺虫剤の脅威にますますさらされており、野生のミツバチ類の数は数十年間のうちに世界各地で減少し続けてきた。
花粉を運ぶ虫や動物が減少することで、収穫量が激減したり、あるいは作物が全滅したりする恐れがある。
しかし、脅威は世界中どこでも同じように広がっているわけではない。
研究者らはFAOのデータを使用して、不作のリスクを地域別に示す地図を作成した。
「南米、アフリカ、アジアの新興国などの途上国で最も影響が大きくなっています」と、研究を主導したアルゼンチンのNational Council for Scientific and Technological Research(CONICET:国家科学技術研究委員会)のMarcelo Aizen教授は述べる。
これは驚くべきことではない、とAizen教授は述べる。
なぜなら、世界市場向けに大量の単一作物が生産されているのがまさにこれらの地域だからだ。
大豆は多くの南米諸国で生産され、欧州向けに畜牛の飼料用として輸出される。「世界中で大豆の生産量は10年ごとに30%近く増えています。しかし、このことが問題なのです。大豆畑にするために、熱帯・亜熱帯の森林や牧草地を含む、広大な自然・半自然の環境が破壊されてきたためです」とAizen教授は述べる。
著者らによると、現在の農業開発は持続可能な農業とはほとんど関係がなく、増え続ける世界人口に対する食料安全受給に焦点を置いている。
加えて、世界の貧困の度合いが高い地域ほど大きな脅威にさらされているが、不作の余波は世界各地が実感することになるだろう。
「影響を受ける地域では主に、豊かな工業国向けの作物を生産している。例えば、もし南米でアボカドが不作になったら、ドイツなど工業国の人々はアボカドを買い求めることはできなくなるだろう」とハレ・イェナ・ライプツィヒにあるドイツ統合生物多様性研究センターの一員でもあるRobert Paxton氏は結論づける。
研究者らは、この流れと逆のことを主張しており、世界各地で農業を多様化させ、より環境にも配慮するようにすべきだという。
つまり例えると、特に影響を受ける国では農家が多様な作物を育てるべきだということになる。
加えて、世界中の農家が 例えば、花や生垣を耕作地の隣に列状に植えたり、耕作地の周囲に営巣環境を整えたりするなど、耕作地をより自然な状態にする必要がある。
このことにより、持続可能かつ生産的な農業のために必須である、昆虫類の生息に十分な生息地の確保が保障されるだろう。
ニュースソース:
https://eurekalert.org/pub_releases/2019-07/mh-sgf070519.php
★ニュース翻訳を続けるためにご協力ください!
→JWCSのFacebookでページのイイネ!をして情報をGET
→JWCSの活動にクレジットカードで寄付
※日本ブログ村の環境ブログに登録しています。クリックしてランキングにご協力ください。
にほんブログ村
« 絶滅の危機に瀕するカエルのための保護区 | トップページ | 有機畜産農業が野鳥を増やす »
「42 野生生物の暮らす環境」カテゴリの記事
- 最後に残された最上級の熱帯林が緊急に保護の必要があることが、最新の研究により明らかとなる(2021.08.17)
- 地球規模の生物多様の新たな研究が、陸と海の生命の統一マップを利用可能に(2020.12.22)
- 絶滅危惧リストに掲載するよう新たに100種類以上のユーカリの木本種を提言(2020.11.24)
- 計画中の水力発電用ダム、ガボンの魚類への脅威に(2020.07.28)
- エルニーニョがアマゾンに生息する昆虫の急減の一因であることが最新の調査で明らかに(2020.06.16)
「16 昆虫」カテゴリの記事
- エルニーニョがアマゾンに生息する昆虫の急減の一因であることが最新の調査で明らかに(2020.06.16)
- 研究:食料の安全保障を脅かす世界の農業の動向(2020.01.28)
- 巨木林の減少に伴いヨーロッパのクワガタムシの5分の1が絶滅の危機に(2018.03.22)
- 集約農業と野火により欧州のバッタやコオロギの1/4以上が危機に(2018.01.16)
- ヨーロッパに生息する野生ミツバチ類の約10%が絶滅に直面しており、50%以上の状況が不明(2016.02.05)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
はじめまして 興味深く読まさせていただきました。
1点、気になることがありましたのでお知らせします。avocadoを和訳では「アボガド」と表現されていました(3箇所)。
投稿: LimaLima | 2020年1月28日 (火) 22時05分
コメントいただきありがとうございました。
ご指摘の点、修正させていただきました。
今後も何かお気づきの点がありましたらお知らせください。
投稿: JWCS | 2020年6月 2日 (火) 10時58分