地域住民による森林管理が森林破壊と貧困を減らすことが新たな研究で判明
和訳協力:堀込 奈穂子、校正協力:日高 穂香
2019年5月8日 Phys org news
ネパールの地域コミュニティにその地域の森林を管理する機会を設けたところ、その地域の森林破壊と貧困が同時に減少したことが新たな研究で判明した。
同様の研究の中でも最大規模の研究において、マンチェスター大学率いる国際チームは、地域コミュニティが森林を管理することによって森林破壊の37%、貧困の4.3%が相対的に減少するに至ったことを発見した。
これは低所得国において特に顕著で、そうした国では、国内の1/3分以上の森林が国内人口の1/4分によって管理されている。
Nature Sustainability誌に掲載されたこの調査結果は、地域コミュニティによる森林管理に関する最大規模の研究である。
この研究では、地域住民による森林管理が数十年にわたり積極的に推進されているネパール全土での、18,000を超える地域住民による森林管理の取り組みの効果を推定している。
森林は持続可能な開発にとって重要なものである。
森林は地球の気候を調整し、大気中の炭素を吸収し、生物多様性を維持し、世界中の多くの地域の人々の生活に貢献している。
各国政府や国際組織は40年以上前から、天然資源の保全と人類の発展を両立させる方法として、地域コミュニティによる森林管理の取り組みを積極的に推進してきた。
今や地域コミュニティは合法的に世界の森林の約13%を管理している。
しかしこれまで、地域コミュニティによる森林管理の効果を示すものは、大部分が小規模な評価や調査対象が狭い研究に限られていた。
マンチェスター大学に所属する筆頭著者であるJohan Oldekop博士は次のように述べた。
「我々の研究では、地域コミュニティによる森林管理が人々と環境の双方に、ネパール全土において明らかにプラスの効果をもたらしたことを明らかにしました。ネパールは、土地に対する権利を保証することにより、地域コミュニティが資源を節約し、環境悪化を防ぐことができることを証明したのです」。
地域住民の福利を犠牲にすることなく森林破壊を減らすことができた。
地域コミュニティが森林管理を行う地域では、森林破壊と貧困が同時に減少する確率が51%高いことが、この研究によって分かった。
共著者であるニューカッスル大学のMark Whittingham教授は、「持続可能な環境管理と人間のニーズや欲求のバランスを取ることは容易なことではありません。これらの結果は、一つの前向きな解決策を明らかにしています」と述べた。
本研究は、生態学者、経済学者、政治科学者からなる学際的研究チームが執筆しており、厳密な技術を駆使して森林、人類、法令に関する一般に公開されているデータを分析することにより、これまでのデータの限界を克服している。
研究チームは、衛星画像に基づいた森林破壊の推計値に、ネパール国内の136万世帯の国勢調査データおよび地域コミュニティによって管理されている18,000以上の森林の情報を突き合わせた。
共著者であるミシガン大学のArun Agrawal教授は次のように述べた。
「地域コミュニティで森林を管理するという、貧困層の生活状態を改善すると同時に、炭素排出量をしっかりと削減できるメカニズムが明らかになったことは、気候変動と闘い弱者を守るための世界的な取り組みにおける重要な一歩です」。
メキシコ、マダガスカル、タンザニアには、類似の地域コミュニティによる森林管理プログラムがあり、インドネシアなどでもプログラムを開発中である。
共著者であるアマースト大学のKatharine Sims氏は、「我々はネパールが革新的な保全政策を実施した経験から学ぼうと考えました。我々の調査方法が、様々な状況における地域コミュニティによる森林管理についての将来の研究に役立つことや、別の森林管理政策と比較してもらうことを願っています」と述べた。
他の地域でネパールの成功例を再現できるなら、地域コミュニティによる森林管理は、複数の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に、より大きな役割を果たすことができるだろう。
ニュースソース:
https://phys.org/news/2019-05-forest-deforestation-poverty.html
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