大型ネコ科動物の解体処理場の摘発により、南アフリカのトラ牧場に対する監視が遅きに失したことが明らかに
和訳協力:成田 昌子、校正協力:花嶋 みのり
2018年11月29日 EIA news
今週、南アフリカで9名が逮捕されたというニュースが新たに明らかになった。
トラやライオンの身体の部位を違法売買する国際的な犯罪活動に警察の捜査が入ったとみられる。
南アフリカの北西州での強制捜査の押収品の中にはトラの皮1枚、トラとライオンの複数の骨、ライオンの肉が含まれており、逮捕者のうち4名はベトナム国籍だった。
ベトナムは中国と並び、特に、煮込んで作るトラの骨の「にかわ」として知られるものや、装飾品やお守りに使用される歯やかぎ爪など、トラ製品の大口消費国の1つである。
違法なトラ製品取引への南アフリカの関与が示唆されたのはこれが初めてではない。
2017年5月にハウテン州でトラの皮7枚が押収され、2015年2月にはトラの皮1枚とトラの骨7.7㎏が、ヨハネスブルクから中国の昆明長水国際空港に到着した乗客の荷物の中から押収された。
トラの「キャンド・ハンティング注1)」が、ベトナム人野生生物商のChu Dang Khoaが南アフリカに所有する施設で行われてきたことは知られており、また同施設から違法にトラの骨が輸出されていると言われてきた。
南アフリカはトラの本来の生息域ではないものの、Convention on International Trade in Endangered Species (CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称「ワシントン条約」)の主要な決定に反して、トラの飼育繁殖や取引の中心地として浮上してきた。
不十分な法律しかなく、政策の実行も徹底されていないという2つの理由から、トラの身体部位の取引の隠れ蓑となり得る、ライオンの身体部位の合法的な輸出を許しているためだ。
南アフリカにおけるトラを飼育する施設に対する規制と監視はお粗末で、州ごとに異なり一貫性がなく、商業目的のトラの繁殖は禁止されていない。
2015年には南アフリカの少なくとも44の施設で280頭のトラが飼育されていると推測されていたが、南アフリカの複数のNGOはこの年、トラのいる施設を少なくとも60施設は把握していた。
どの州政府も飼育されているトラを監視していなかったので、実数はそれを上回る可能性があった。
南アフリカの法律はトラの商業繁殖を規制できていないだけでなく、トラの飼育個体から供される身体部位や加工製品の国内取引を許可している。
この両面において、南アフリカはトラの取引と繁殖に関するCITESの決定および決議に従っていない。
飼育繁殖されたトラの身体部位の取引は、トラの身体部位に対する需要を刺激し、法施行を困難にし、需要削減の努力を無に帰すことによって、野生のトラの生き残りに深刻な脅威を与えている。
また、トラ製品に対する需要は他の大型ネコ科動物の違法取引を活発化させており、これらの動物は中国やベトナムなどでトラとして消費者に販売されている。
南アフリカで飼育繁殖されたライオンの骨が合法的に輸出されることによって、トラの身体部位を輸出するために合法的に見せかける簡単な方法が悪質な飼育繁殖業者や輸出業者にもたらされ、さらに、トラの身体部位としてライオンの身体部位が消費者に販売されている主要な消費国の需要が刺激され、トラの違法取引に拍車がかかっている。
CITESの会議に対する我々の作成した報告書や意見とまとめた資料において、我々と他の複数のNGOは、南アフリカをトラの繁殖飼育に関して懸念のある重要な国の1つとして認識すべきだと訴えて続けている。
2018年10月に開催された第70回CITES常設委員会において、CITES事務局は、南アフリカは懸念される施設が複数存在する国であることを承認した。
事務局には、南アフリカやトラの繁殖飼育を行っている他の懸念される国(中国、チェコ、ラオス、タイ、米国、ベトナム)に対して働きかけを行うこと、また、トラの飼育繁殖と取引を終わらせる具体的な提言を策定し、2019年5月のCITES常設委員会会合で発表することが期待されている。
我々は南アフリカ政府に対し、トラを最重要保護動物に指定し、トラの商業繁殖を非合法化し、トラのすべての身体部位と製品すべてに関しての国内および国際的なあらゆる取引を禁止する法改正案の提出を強く迫っていく。
注1)キャンド・ハンティング:動物を柵内などの限られた土地に入れて、狩猟者が殺せる確率を高めて行うトロフィーハンティングのこと。
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