カメルーンの内乱で数千人が保護地域に逃れ、野生生物が危機に
和訳協力:河村 美和、校正協力:佐々木 美穂子
紛争により追放された多くの人々が生物多様性ホットスポットに逃れ、そこで家を建てるために森林を伐採し、生きるために絶滅が危惧される動物を狩猟している。
2018年7月12日 African Arguments News
正午ごろ、カメルーン西部の低木林が繁茂する場所で、Nsong Gabriel氏は現地で作ったティーカップをとるために、簡単な作りの小さな小屋に入った。
彼は片手に古いライフル銃を、もう片方の手には彼が前日に仕掛けた罠にかかったヤマアラシ1匹と猿2匹を引き連れていた。
彼は今回の狩りでは得るものが少なかったと不満を漏らした。
「大体はワニやヤマアラシ、サル、レイヨウ、ヘビ、カワイノシシなんかが捕れるのに」と、彼は言う。
とはいえ、少なくとも何某か捕れたし、それを生活必需品と交換することができるだろう。
「ここにブッシュミートを買いに来る人が持ってくる、少しの現金とマギー(インスタントスープの1種)や塩、米と、捕まえた動物を交換するんです」と、彼は説明する。
Gabriel氏はずっと狩猟者だったわけではない。
最近までは小学校で教鞭をとっていたが、カメルーンで英語を常用とする2つの地域で内乱が始まったのだ。
混乱は、フランス語を話す中央政府が、北西と、南西の地域で英語を話す民族を差別したことに対する小さな抗議から始まった。
そしてそれが急激に本格的な危機へと拡大したのだ。
政府は運動にかかわった人を厳しく取り締まった。
武装した分離独立派が現れ、彼らはAmbazoniaという新しい国の設立を求めた。
二つの分離独立派と治安部隊は現在激しい攻撃を行っており、しばしば村人たちがそれに巻き込まれてしまうのだ。
そのほかの多くの人と同様に、Gabriel氏の日常生活はひっくりかえされ、家を追われることになった。
国連の推定では約16万人がGabriel氏と同じ運命をたどったとされている。
その多くが国立公園や野生生物の保護区、保護林の近くに落ち着いた。
「これらの人々の半数以上がこのような保護地域に入りこみ、そこに留まっているのです」と、Sustainable Run for Development(SURUDEV)のKari Jackson Bongnda事務局長は説明する。
Gabriel氏はそういった人々の一人であり、まもなく彼は生きるために野生動物の狩猟を始めた。
彼が狩猟するのは殆どがカメルーンの法律で保護されている動物だが、紛争の影響で売買が難しくなっている食糧もあり、買い手に困ることはない。
道路はいわゆる「Amba Boys」に遮られ、Doualaの港町から輸入された冷凍魚を輸送することができない。
畜産家は、主要高速道路沿いで家畜泥棒に遭うことを恐れて、市場へ出るのをためらっている。
地域にはびこる不安定な状況が、鶏やヤギ、豚の飼育を困難にしている。
多くの人々が食べるため、収入を得るために野生動物の肉に頼らざるを得ない。
環境の専門家によれば、このことが絶滅危惧種を非常に危険な状況にさらしているという。
「このままでは、ゆくゆくは野生生物の保全にとって悲惨な結果となり、野生動物はより安全な場所に移動することになるでしょう。その場所が野生動物が生活する上で適切な環境でない場合、結果として絶滅に繋がることになります」と、Kari Jackson氏は説明する。
現地のNGO団体、Environmental and Rural Development(FRuDeF:(仮)環境・農村開発基金)の創設者であるLoius Nkembi氏は、状況があまりにも深刻なため、政府が環境面での緊急事態宣言をするべきだと考えている。
「Lebialem高地ではゾウが密猟の危険にさらされています。現在この紛争により、密猟が急増しているのです」と彼は言う。
「地域固有種である絶滅の危機に瀕するカメルーンの類人猿、特にゴリラ、それにサルたちも殺されています」。
通常、こういった独特な環境を保つ地域は保護されるものだが、レンジャーは次々と逃げざるを得なくなった。
森林・野生動物省の部門代表は、先月ほとんどのレンジャーが現場を去ったことを確認している。
匿名であることを条件に、バコッシ国立公園の元警備員は見知らぬ武装集団から立ち退きを強制される前に、どのような襲撃を受け、負傷させられたかを説明した。
「何とか逃げてこられました。神様に感謝します」と彼は言った。
もう一人のレンジャーは、移住してきた人々から立ち退くように脅されたという。
「命からがら逃げてきました。動物を守るために自分の命を犠牲にすることはできませんでした」と彼は告白した。
森がなくなる
人々が紛争から逃れることにより、カメルーンの保護種が危機にさらされているだけでなく、森林破壊や生物多様性ホットスポットの損失も引き起こされている。
例えばBankundu森林保護区では、大部分の木々が伐採されて新しい村が作られた。
伐採された木々は建築材や燃料として利用されている。
「逃れてきた人々は新しい環境に翻弄されながらもそこに残り、長期的な影響を気にせず、まずは生き残るために何でもします」と、Forestry
and Environment Conservation
Society(FOECONS:(仮)森林・環境保全協会)の代表を務めるTobangmua Danisius氏は言う。
「私たちが訪れた地域の中には、タンパク質とるために、人々がガマリンなどの化学薬品を魚に使っているところもありました」。
彼はこの状況を「壊滅的」と説明する。
人間の行為が土地や水を汚染し、土壌浸食を起こし、希少な植物や動物が生育・生息するのに必要な環境を破壊している、と警告する。
World Wide Fund for Nature(WWF:世界自然保護基金)の海岸林プログラムの担当者はこれらの懸念に賛成の意を表明した。
彼は匿名にすることを条件に、「問題が起きている地域では既に環境が危機的な状況になっており、現在はそのことを懸念しています」と述べた。
ボンチャレンジの一環として、カメルーンは森林の伐採跡地と荒廃林地の、合わせて1200万ha以上を2030年までに回復させることを誓約した。
専門家らは、世界第2位の規模を誇る熱帯雨林があり、種の多様性が高いコンゴ盆地で、このような取り組みが発表されたことを称賛した。
しかし、カメルーンの紛争は終わりが見えず、激しくなる中、生態系に圧力が続くことで、この誓約は頓挫させられるだろう。
この危機は、カメルーンの豊かで独特な環境を取り返しがつかないほどに損なうことになり得る。
しかし、紛争によって地域から追われり、家を追われたりした何千人もの人々にとって、紛争がおさまるまでの生き延びることが最優先の間は、他の選択肢はほとんどない。
「私にできるのは狩猟だけです。前日の夕方仕掛けた罠を早朝確認しに出かけます。夜遅くに銃とたいまつを持って出かけ、獲物を探します」とGabriel氏は言う。
「ここでは狩猟以外にできることは何もないのです」。
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