選択が大事:環境面から見た食用肉や海産物の生産コスト
和訳協力:木田 直子、校正協力:日高 穂香
2018年6月11日 University of Washington
家畜と養殖魚、天然ものの魚のうち、環境面から見て最も生産コストが高いのはどれだろうか。
その答えは、場合によるというものだ。
しかし、最新の分析によれば、一般的には産業的な牛肉生産とナマズ類の養殖が環境に最も負荷を与え、天然ものの小型の魚類とカキやイガイ類やハマグリの仲間、ホタテなどの養殖された貝類が環境に与える影響が最も小さいという。
この研究論文は6月11日にオンラインで、Frontiers in Ecology and the Environment誌にて発表される。
著者らによれば、異なるタイプの動物性タンパク質の生産方法が環境に与える影響を最も包括的に取り上げた論文であるという。
「消費者の立場で言えば、選択が重要なのです」と、筆頭著者であるワシントン大学School of Aquatic and Fishery Sciences((仮)水圏・水産科学部)のRay Hilborn教授は言う。
「もしあなたが環境保護論者なら、何を食べるかによって違いが生じます。明らかに良い選択と、誰が見ても明らかに悪い選択があることがわかったのです」。
研究はほぼ10年にわたる分析に基づいたもので、共著者らは、さまざまな種類の動物性タンパク質の生産についての、公表されている数百におよぶライフサイクルアセスメントの検討を行った。
「ゆりかごから墓場まで」の分析とも呼ばれるこの種のものは、生産物を作るすべての段階における環境への影響を評価する。
動物性食品の生産に関してはこのような影響評価の事例が300以上も存在するが、今回の研究では、包括的であることと「専門的」すぎないことを条件に148の事例が選択された。
食品生産がどのように農業政策、貿易協定や環境規制に広がっていくかについて判断を下すうちに、著者らは動物性食品の種類ごとに環境コストを体系的に比較することへの「差し迫った必要性」に気付いた。
「これは、私がこれまでに成し遂げた最も重要な成果のひとつだと思います」と、Hilborn教授はいう。
「政策決定者たちが、『特定の種類の食品生産を推奨すべきで、それ以外のものには反対すべきだ』と言えるようにならなくてはいけません」。
大まかに言うと、この研究では、養殖された海産物(水産養殖と呼ばれる)や畜産物、天然ものの海産物など、多様な動物性食品の生産が環境に与える影響を比較するために、4つの基準を採用した。
これら4つの測定基準とは、エネルギーの使用、温室効果ガスの排出、環境に過剰な栄養分(肥料など)を放出する可能性と、酸性雨の原因物質を排出する可能性、である。
研究者たちは、40gのタンパク質を基準として、様々な種類の食品が環境に与える影響を比較した。
これはおおよそ平均的な大きさのハンバーガーパテに相当し、1日のタンパク質推奨量にも近い。
例えば、データが利用可能なすべての種類の食品について、タンパク質40gごとにどれだけの温室効果ガスが生み出されるかを計算したのである。
「この方法なら、みんなが理解できる非常に一貫した測定値が得られます」と、Hilborn教授はいう。
分析により、すべての測定基準において環境への影響が最も低い、圧倒的な勝者が明らかになった。
貝類および、イカ、タコなどを含むその他の軟体動物の養殖と、イワシやサバ、ニシンなどの漁獲漁業等である。
比較的影響の小さいその他の漁獲漁業には、スケトウダラ、メルルーサ、タラ科の魚などの白身魚が挙げられる。
養殖のサーモンも良いという結果だった。
しかし、研究では動物性タンパク質の種類によって衝撃的な格差があることも明らかになった。
研究者たちは、消費者は食べるものを選ぶときには、自分にとって最も重要な環境影響を決めるべきだと忠告する。
研究ではそのほかに以下の点などが明らかになった。
・全体として、家畜の生産はほとんどの方式の水産養殖より消費エネルギーが少なかった。養殖のナマズ、エビとティラピアが最もエネルギーを消費していたが、これは主に、電気により水を常に循環させておく必要があるためだ。
・養殖のナマズと牛肉は、養殖の軟体動物類や小型の天然ものの魚、養殖のサーモンや鶏肉のおよそ20倍の温室効果ガスを生み出す。
・カキやムール貝、ホタテなどの軟体動物の養殖は、事実上、生態系にとって有害な過剰な栄養分を吸収する。対照的に、家畜の牛肉生産はこの測定基準においては成績が低く、また、漁獲漁業は肥料を使わないため、一貫して水産養殖や畜産より好成績だった。
・家畜は糞尿からメタンを発生させるため、酸性雨のカテゴリーでの評価が良くなかった。ここでも養殖の軟体動物が最も優秀で、漁獲された小型魚と水産養殖のサーモンが僅差でそれに続いた。
・漁獲漁業においては漁船を動かすための燃料が最大の要因となり、燃料消費量の違いにより温室効果ガスのカテゴリーで評価にかなりのばらつきが生じた。ニシンやアンチョビといった群れを作る小型魚を巾着網で捕える方法は消費燃料が最も少なく、意外にもロブスターのかご漁はかなりの燃料を消費するため、生産される単位タンパク質あたりの環境への影響が大きい。海中で網を引っ張る底引き網漁は一概には言えず、影響の大きさは採れる魚の量の多さに関連するように思われる。魚の量が多ければ、必要な燃料は少なくてすむ。
・ベジタリアン食やヴィーガン食に関するほかの論文と比較すると、水産養殖と漁獲漁業の生産物を注意深く選択した食事は、野菜中心のいずれの食事よりも環境に与える影響が小さい。
将来的には、研究者たちは環境コストを算出するもう1つの方法として、生物多様性への影響に目を向けるつもりだ。
分析ではほかにも、必要な水の量、殺虫剤や抗生物質の使用、土壌の浸食など、彼らが検討した論文の中で取り上げられていた様々な環境影響要因についても言及しているが、今回の論文にまとめられるほど一貫したものではなかった。
ニュースソース
https://phys.org/news/2018-06-choice-environmental-meat-seafood.html
★ニュース翻訳を続けるためにご協力ください!
→JWCSのFacebookでページのイイネ!をして情報をGET
→JWCSの活動にクレジットカードで寄付
※日本ブログ村の環境ブログに登録しています。クリックしてランキングにご協力ください。
にほんブログ村
« ポルトガルがコンゴ産木材の違法取引におけるヨーロッパへの入口になっていると非難される | トップページ | 3.8 ニホンウナギ(ワシントン条約第30回動物委員会 議題18.1 付録2より一部抜粋) »
「15 魚類」カテゴリの記事
- 警察がスペインでクロマグロの違法取引のネットワークを壊滅(2019.01.22)
- 男性が発見した、何千もの野生のタツノオトシゴの死体を売る店(2019.01.17)
- 世界最大規模の蛇の狩猟が東南アジア最大の湖に及ぼす影響(2019.01.15)
- タツノオトシゴに関するクラウドソーシング(2014.02.28)
- 最新報告:フカヒレへの食欲が絶滅危惧種のサメの個体数を減少させる(2018.12.08)
「17 海洋生物」カテゴリの記事
- 男性が発見した、何千もの野生のタツノオトシゴの死体を売る店(2019.01.17)
- 最新報告:フカヒレへの食欲が絶滅危惧種のサメの個体数を減少させる(2018.12.08)
- EU内でのウナギの違法取引は「最大の野生生物犯罪」(2018.12.29)
- セネガル、スリランカ、メキシコが見過ごされてきたサメのために立ち上がる(2018.12.22)
- 日本が「科学」のために絶滅の危機に瀕したクジラを殺し、肉を販売。これは取締規定違反だ。(2018.12.20)
「36 野生生物の利用と取引」カテゴリの記事
- 象牙同盟2024:政治指導者、自然保護活動家、著名人らが共に象牙需要の問題に取り組む(2019.02.19)
- 過小評価されすぎている熱帯林の生物多様性に及ぼす森林破壊と野生生物取引の複合的な影響(2019.02.14)
- コウモリの死骸でのハロウィンの飾りつけ-CDCは危険だと警鐘を鳴らす(2019.02.12)
- 伝統の名の下で滅びゆく野生生物(2019.02.09)
- 中国の象牙貿易禁止令の影響を測る新しい調査(2019.02.07)
「42 野生生物の暮らす環境」カテゴリの記事
- 過小評価されすぎている熱帯林の生物多様性に及ぼす森林破壊と野生生物取引の複合的な影響(2019.02.14)
- セーシェルの景勝地グランドポリスの保全策決定のための新たな調査(2019.02.02)
- アルゼンチンの大豆による環境破壊は我々の食卓に直結している(2019.01.31)
- 森林破壊、いつ慌てるべきか?(2019.01.29)
- カメルーンの内乱で数千人が保護地域に逃れ、野生生物が危機に(2018.12.11)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/498291/74269326
この記事へのトラックバック一覧です: 選択が大事:環境面から見た食用肉や海産物の生産コスト:
« ポルトガルがコンゴ産木材の違法取引におけるヨーロッパへの入口になっていると非難される | トップページ | 3.8 ニホンウナギ(ワシントン条約第30回動物委員会 議題18.1 付録2より一部抜粋) »
コメント