大型肉食動物生息地のグローバル分析
和訳協力:松岡 真由美、校正協力:鈴木 洋子
2018年3月28日 Phys News
これまで人類は、ライオンやトラ、オオカミ、クマなどの大型肉食動物を地球上の多くの自分たちの居住地域から排除してきたが、科学者たちは、ほぼすべての大陸で、生態系を回復させるためにこれら大型肉食動物を再導入できる可能性がある280以上の地域を特定した。
グローバル分析において、オレゴン州立大学林学部の研究者らは、再導入-「rewilding(再野生化)」のプロセスとして知られる-が、どこで最も成功しうるかを確認するために、以前の肉食動物の生息域、餌の豊富さおよび人口密度を地図化した。
これらの動物を以前住んでいた場所の一部に戻すための実際のステップでは、それぞれの現場において注意深い研究が必要となるであろうと、Christopher Wolf氏は述べている。
彼は博士研究員であり、専門雑誌Royal Society Open Scienceに掲載された論文「Rewilding the World’s Large Carnivores (世界の大型肉食生物の再野生化)」の筆頭著者である。
「我々は、数カ所だけではなく、世界中での再導入の可能性を調査したいと思ったのです」とWolf氏は述べた。
Wolf氏は、オレゴン州立大学の著名な森林生態学者であるWilliam Ripple教授と協力し、大学院生として分析を行った。
彼らは、International Union for Conservation of Nature(国際自然保護連合)の絶滅危惧種のデータ、科学的根拠に基づく肉食動物の過去の生息地域についてのマップおよび、人的活動や現在の自然保護地域、原生自然の残る地域や様々なレベルの人的影響がある地域のマップに基づき、結論に達した。
Wolf氏とRipple教授は、オオカミやライオン、トラなどの種を含めた25種の陸上の肉食動物に焦点を合わせた。
また、ヨーロッパオオヤマネコ、マレーグマ、スンダウンピョウなどの動物も考慮の対象としている。
それぞれのケースにおいて、肉食動物が過去に生息していたが現在絶滅している地域では、人間活動の形跡が見られた。
彼らはそうした地域を「lost range(失われた生息域)」と呼んだ。
Wolf氏とRipple教授は、人的活動の形跡が最も少ない場所を特定することで、肉食動物が人間と共存でき、その存在が生態系の機能や生物多様性に有益な影響を及ぼす可能性のある地域を提示した。
そうした「last of the wild(最後の原生自然)」の地域では、動物たちが十分な餌をとり、移動ルートを確保でき、農業や牧畜、道路やその他の人的活動との相互関係に起因するリスクが最も低い、といった可能性が高い述べている。
生態系への大型肉食動物の影響をより深く理解することにより、これらの動物をその環境で維持することの重要性が強調される、とRipple教授は付け加えた。
「これらの多くの大型肉食動物の種が絶滅に向かっている一方で、同時に科学者たちがそれらが生態系に与える重要な影響を発見しつつあることは皮肉なものです」と彼は述べた。
「大型捕食動物は、低木、樹木、その他の植物を大量に食べることで環境に劇的な変化を及ぼす原因となりうる、シカやヘラジカのような草食動物の個体数を制限することができるのです」。
Wolf氏と Ripple教授は、25種のそれぞれについて、以前の生息域における生息環境の条件を満たす、面積の大きな6カ所の保護地域を特定した。
彼らはまた、南北アメリカから、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、オーストラリアにわたる48ヵ国において、130箇所のそのような地域を明確にしてもいる。
これらの地域には、ハイイロオオカミの再野生化の場所となり得る、ワシントン州のオリンピック国立公園や、アメリカアカオオカミの以前の生息地だったフロリダ州のエバーグレイズ国立公園のような、アメリカの国立公園が挙げられる。
アメリカアカオオカミはヘビやヘビの卵を食べるため、外来種であるビルマニシキヘビの個体数をコントロールする手助けとなる可能性がある、と彼らは付け加えた。
Wolf氏とRipple教授は、肉食動物の復元エリアに隣接する地域における人的活動が、動物の復元の成功へのリスクを引き起こす可能性があるため、現地の人々が計画段階で参加することや、再野生化の価値を見出すことが重要となるであろう、と記述している。
「動物たちを、彼らの絶滅を引き起こしたのと同じ問題が再度起こるような場所へ戻したいとは思っていません」と、Wolf氏は述べた。
「社会的、経済的な影響や、現地の人たちの再導入についての考えが重要なのです。それは単なる科学的な問題ではないのです」。
「大型肉食動物に関心を持つべき理由は数多くあります」と、彼は付け加えた。
「生物多様性への影響に加え、再導入はエコツーリズムにも利益をもたらすことができます。例えば、イエローストーンへのハイイロオオカミの再導入は、オオカミを見るために訪れる観光客から、推定で年間3,550万ドル(約38億7千万円、2018年5月26日付換算レート:1USドル=109円)の収益の増大がもたらされているのです」。
大型肉食動物の減少に拍車をかける要因には、家畜の放牧の拡大や、大型肉食動物とそれらの餌となる草食動物の両方のブッシュミート目的での狩猟、伝統薬やハンティングトロフィーとして動物の体の部位を売りさばくための密猟がある。
彼らの研究のほとんどのケースにおいて、大型肉食動物の再野生化は、将来的に絶滅を防ぐために必要であるだろうと彼らは結論づけた。
大型肉食動物の2/3の種は絶滅の脅威にさらされており、80%は個体数が減少し続けている。
ニュースソース:
https://phys.org/news/2018-03-global-analysis-large-carnivore-habitats.html
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