混獲(ボン条約第12回締約国会議改訂版決議)
和訳協力:アダムス 雅枝、校正協力:ジョンソン 雅子
混獲に関する決議6.2、勧告7.2、決議 8.14、決議 9.18及び決議10.14を含む、これまでの締約国会議での関連する決定を想起し、
海洋法に関する国際連合条約、生物多様性保全条約、分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源 (ストラドリング魚類資源) 及び高度回遊性魚類資源の保存及び管理に関する1982年12月10日の海洋法に関する国際連合条約の規定の実施のための協定、南極の海洋生物資源の保存に関する委員会及び、特に責任ある漁業のための行動規範を通じた国連食糧農業機関 (FAO、以降FAOとする) などがとりわけ下支えする、持続可能な発展を通じて天然資源を保全する世界的な協同体の義務を承認し、
CMS (移動性野生動物種の保全に関する条約、通称「ボン条約」) を補足する多数の協定及びMemoranda of Understanding (了解覚書、以降MOUとする) において、被害の軽減をするべく優先度の高い脅威として混獲が強調されていることを認識し、
移動性の水生生物種が、種の混獲、乱獲、汚染、生息地の環境の破壊または劣化、海中の騒音の影響、狩猟に加え、気候変動などのような広域にわたる影響を与える可能性がある、多角的かつ累積的、更に多くの場合相乗的な脅威に直面していることを懸念し、
条約の第2条は、いかなる移動性の種も絶滅の危機に瀕することがないように行動すること、特に条約の附属書Iで指定された移動性の種は即時に保護する努力をすること、また附属書IIで指定された移動性の種の保全と管理を補う協定を締結するよう努力することを、全て締約国に求めるものであることを認識し、
第3条は、附属書I指定種を危機にさらす、あるいは更なる危機にさらしそうな要因を予防、削減あるいは制御することを締約国に求めるものであることを認識し、
多くのCMS締約国が同意しているサメに関するMOUの第3節第8段落には、「サメは、利用可能かつ最高の科学的情報に基づいた保全と管理策を通じて、適切な場合には持続可能な捕獲を容認するかたちで管理すべきである」と記載されており、また同覚書の第4節13jの段落では、「関連組織が維持可能な利用に役立てるために、利用可能かつ最高の科学に基づき、魚獲割当量、漁業努力及びその他制限目標を設定する」ことを奨励することに留意し、
附属書I及びIIに指定される種を偶発的に捕獲する漁業者が、社会経済的な発展と保全活動とを調和させている重要性を認識し、
漁業の混獲を介して、多くの魚類、海鳥類、ウミガメ類、海洋哺乳類の種が、かなりの量、かつ継続的に死んでいることを理解し、
対象種の生息国が、混獲に関連する技術的な解決策を発展させ、漁業のやり方を改善することに関して協力することが、海生生物の多くの個体群の保全を大いに進める可能性に留意し、
締約国の中には、すでに領海と排他的経済水域内にある漁場及び公海において、国旗を掲揚する船による混獲の削減に努力していることを認識し、
それぞれの利害関係者が混獲に独自の定義を適用しており、その事が混獲の報告、また混獲緩和策の実行上、混乱と矛盾をもたらす可能性に留意し、
CMS付属協定及びその他の関係機関、特にアホウドリ類とウミツバメ類の保全に関する協定 (ACAP)、黒海、地中海及び (ジブラルタル海峡以西の) 大西洋の接続水域の鯨類の保全に関する協定 (ACCOBAMS)、バルト海及び北海の小型クジラ類の保全に関する協定 (ASCOBANS)、加えて2016年にInternational Whaling Commission (IWC:国際捕鯨委員会、以降IWCとする) により合意されたBycatch Mitigation Initiative ((仮)混獲緩和イニシアティブ) などの援助を得て、進行中あるいは既に完了している活動を意識し、
CMS指定種及びその他の対象外の種の混獲を削減する上で、FAO及び、地域ごとのRegional Fisheries Management Organizations (RFMOs:地域漁業管理機関、以降RFMOsとする) の重要な役割を認識し、
UNEP/CMS/ScC18/Inf.10.15.1 (CMS第18回科学委員会情報文書10.15.1) に提示された、CMS指定種に関する刺網漁業の影響の評価及びその概説を歓迎し、
ボン条約締約国会議は
1.混獲に対する、海鳥類、魚類、ウミガメ類及び水生哺乳類を含む移動性の種の保護を全ての締約国に義務付けることを再確認する。
2.1999年にFAOが策定したはえ縄漁業における海鳥混獲を削減するための国際行動計画(IPOA-Seabirds、以降IPOA-Seabirdsとする) 及びそれに関連するBest Practices Technical Guideline ((仮)最優良事例技術指針)、1999年にFAOが策定したサメの保護及び管理に関する国際行動計画 (IPOA-Sharks、以降IPOA-Sharksとする)、2009年にFAOが策定した漁業操業におけるウミガメ死亡を削減するためのガイドライン、及び2011年にFAOが策定した混獲の管理と投棄の減少に関する国際ガイドラインにおいて概説された最良の実践方法及び手段を遂行すること、加えてIPOAs (国際行動計画) が要求する国別行動計画の策定及び実施することを更に留意し、締約国に奨励すること。
3.移動性の種に関し、漁業により生じる混獲のリスクを評価することを締約国に勧奨する。これには、監視者プログラム、あるいはその場にあったその他の手法を用いることにより、最良の緩和策を遂行すること、及び必要に応じて案を改善するために、緩和策の実施に関する効果を定期的に評価することを含む。
4.重要事項として、各国の領海内及び排他的経済水域内での漁業及び、公海で国旗を掲揚する船によって行う漁業について、附属書I及びIIに指定される移動性の種の偶発的な死亡率を可能な限り最小にするための対策について、継続及び強化することを全ての締約国に求める。
5.海洋生物の体で見つかった傷のパターンの報告書を作成するために協力することを締約国に要請する。それは、鳥類、海生哺乳類、カメ類、サメ類とエイ類などの多様な移動性の種の座礁の原因となる問題と同様に、海洋生物が様々な形でうける傷の原因となる問題に取り組むために必要な解決策を導く手段を究明するためのものである。
6.附属書I及びIIで指定する水生生物種が生息する全ての締約国、及びこれらの種と関わりを持つ漁業を営む締約国対し、情報交換や、混獲に対しての実用的で効果的な緩和策あるいは緩和させる装置の更なる改良を通じて、可能な限りこれらの漁業活動における海鳥類、ウミガメ類、鯨類の混獲を減少させるために、お互い若しくは他国との協調を推奨する。
地域漁業管理機関への参加
7.緩和策を採用するために、RFMOsにおいて附属書I及びIIで指定される移動性の種の偶発的な死亡が深刻な問題であることを強調するよう、RFMOsの締約国でもある締約国に求める。
8.RFMOs及び地域漁業管理協定を通じて、下記の項目に適切に取り組むことを締約国に要請する。
a)混獲の削減に関する緩和策の改良を図るために、移動性の種、特に海鳥類、魚類、ウミガメ類及び海生哺乳類に関して、混獲が深刻かつ進行中の問題であることを提起すること。
b)問題に取り組む第一歩として、領海内での漁業活動または、領海内あるいは管理下にある国旗を掲揚する漁船による漁業活動に関し、以下の項目を網羅する情報を編集し、対応策をとること。
i)漁獲対象
ii)混獲対象
iii)混獲による影響 (漁業による混獲の全量及び個体群への影響の推定)
iv)効果が判明している監査枠の実施、加えて
v)漁具のタイプによる漁獲能力及び漁労量
c)移動性の種に対する混獲の影響を究明するために、領海内での漁業活動または、領海内あるいは管理下にある旗国を示す漁船による漁業について、適切な体制 (適宜、船上監視員または電子的監視装置を含む) をとること。関連して、これらはIPOA-Seabirds及びIPOA-Sharksの枠組みの中で実施されるべきことでもある。
d)特定の情報が欠如しており、同時に既存のCMS協定でカバーされていない地理的地域での研究提案を奨励する。特に以下の項目に関する情報が必要とされる。
i)一般的に、零細漁業とされるもの
ii)一般的に、刺網漁とされるもの
iii)遠洋漁業、底引網漁及び巻網魚
iv)クジラ目に関しては、特に南アジア、東南アジア及び東アジア、西アフリカでは注意が必要
v)ウミガメに関しては全漁業、特に太平洋でのはえ縄漁、及び南アジアのヒメウミガメに対する影響を含む
vi)鳥類に関しては、南アメリカと北半球での刺網漁とはえ縄漁
vii)サメに関しては、全漁業
e)廃棄・遺失した網及び、領海域と公海にどちらにおいても弊害をもたらすその他の漁具の量を削減するための方策と手段に加え、国旗を掲揚する船からのそれらの漁具の遺失を最小限にする方策と手段もまた考慮し、実行する。
混獲緩和対策及びデータの収集
9.特に刺網のような非選択的な漁具に関しての代替え可能な漁具の使用等を含む、緩和策の見極めと改良のための研究を行うよう締約国に奨励する。これはそのような緩和策を実行可能、その後代替え可能な漁具を使用し、緩和策を実施する場所で、混獲を避ける、あるいは削減するためのものである。
10.海生哺乳類の混獲が及ぼす動物福祉への影響について更なる評価を進めることを奨励する。これは、混獲に関連する傷害及びストレスによる死亡には至らない影響、また保全上の意味に関する調査を含むものである。
11.CMSの国別報告書あるいはCMS付属協定の報告書を通じた混獲の情報やデータ、特に効果が証明されている混獲緩和策に関する情報やデータについて、締約国の報告を改善するよう締約国に要請する。
12.特定種ごとの混獲データの収集を促進し、可能な限りそのようなデータを共有することを締約国に奨励し、その他の政府、漁業者、漁業関連機関及び民間部門に更に依頼する。
13.混獲に関するリスク評価の結果または緩和に関する研究を含む利用可能な情報について、単一あるいは多数の締約国からの要請に応じて科学委員会に提供すること、及び科学委員会が各々特殊な環境下での最良の緩和技術を特定し、助言することを許可することを、締約国に要請する。
14.資源利用を前提として、下記項目をCMS事務局に要請する。
a)関連する政府間組織との共同が可能な場所で、それが必要とされる場合に、商業漁業や零細漁業による混獲の相対的水準を決定する目的で、利害関係を有するあらゆる発展途上国を援助する研究に着手すること。
b)大規模商業漁業を行っている発展途上国の締約国及び非締約国において、いかなる利害関係を有する締約国と協調しているとしてもその締約国が関連する政府間組織との共同が可能な場合、混獲緩和に関する専門家ワークショップを連続して行う計画をすること。
c)CMSの常設委員会及び科学委員会に、これらの活動の進捗を報告すること。
d)12. で収集された情報は、混獲で脅かされる移動性の種の生息域である全ての関連国が容易に利用できるようにすること。とりわけ移動性の種への適切な混獲緩和技術の適用を支援するため、及びその進行状況を常設委員会及び科学委員会の会合で報告できるようにするためである。
協働及び協調
15.CMS事務局及び関連付属協定に対し、混獲関連問題についての協調及び情報交換の改善、及びIWCのBycatch Mitigation Initiativeのような、他の関連プログラムとの緊密な協力を要請する。
16.科学委員会及び混獲に関する作業部会に対し、混獲によって影響を受けている附属書I及びIIの指定種に関し、締約国が一致した活動を適切に行うように、締約国会議に提言するよう依頼する。
17.特定の混獲の状況 (道具の種類、対象種、漁場及び季節) ごとに、漁業セクターの既存のイニシアティブを高め、補足するような、最も効果的な緩和技術について、科学委員会及び混獲に関する作業部会で明らかにするよう指示する。
18.特定のCMS 付属協定における、移動性の種の生息国あるいはその他の関連組織により提出された科学的かつ技術的な情報について、混獲が移動性の種に及ぼす影響に関して検討するよう、科学委員会に要請する。
19.該当するCMS協定内で利用可能な特定の専門知識を含め、関連の全分類群の専門家に助言を求め、緩和策の選択時に、水生哺乳類、海鳥類、ウミガメ類及びサメ類に対する潜在的な効果を考慮に入れることを、利害関係者に奨励する。
20.その他の関連する国際的な話し合いの場で重複を回避し、相乗効果を上げ、CMSと水生種に関するCMS協定の知名度を上げることを目指して、国際的な協議体及び適切な場合はRFMOsと協力する努力を継続し、強化することを、事務局、科学委員会及び締約国に要求する。
技術支援及び金融的支援
21.自発的な貢献によって、関連する国際的な話し合いの場への事務局及び科学委員会の代表者の参加を支援するよう締約国に要請する。
22.漁師に対する適切な教育及び訓練を伴った、発展途上国の適切な技術の獲得及び使用への援助について、全支援国に要求する。
23.締約国に対し、CMS附属書指定種の混獲緩和のための資金支援及び技術的支援を、生計のために漁業に依存する先住民社会及び地域社会と協力して進めることを重視しつつ、発展途上国に提供することを更に奨励する。
24.混獲緩和策の有効性及び更なる改善に関する独自研究に自発的に貢献するように、締約国に要請し、その他政府及び協力機関や民間部門に依頼する。
最終条項
25.廃止
a)混獲に関する決議6.2
b)混獲に関する決議6.2の実施に関する勧告7.2
c)混獲に関する決議8.14
d)混獲に関する決議9.18、及び
e)刺網漁におけるCMS附属書指定種の混獲に関する決議10.14
原文:
https://www.cms.int/sites/default/files/document/cms_cop12_res.12.22_bycatch_e.pdf
注:2018年3月13日に上記サイトに掲載されていた文書を訳したものです。
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