集約農業と野火により欧州のバッタやコオロギの1/4以上が危機に
2017年2月9日 IUCN News
翻訳協力:下島 深雪、校正協力:佐々木 美穂子
欧州のバッタ類、コオロギ類、キリギリス類の種の1/4以上が、その地域における持続不可能な農業方式や頻繁に発生する野火により絶滅に向かっている、ということがIUCN(国際自然保護連合)の新たな報告により分かった。
European Red List of Grasshoppers, Crickets and Bush crickets((仮)バッタ類、コオロギ類、キリギリス類に関するIUCN欧州版レッドリスト)は、欧州に生息するバッタ類、コオロギ類、キリギリス類、それら1,082種すべての保全状況を初めて評価している。
報告書によれば、これらの種の1/4以上に絶滅の危険性があり、欧州でこれまでに評価された昆虫類の中で最も絶滅の危機に瀕しているということが分かった。
European Commission(EC:欧州委員会)により資金提供を受けた2年間にわたる評価プロジェクトには、150名以上もの専門家が参加した。
「欧州における景観の急速な変化は、コオロギやバッタといった、我々にとって馴染み深い昆虫を含む、多くの種に影響を及ぼしています」と、IUCNのグローバル種プログラムの副代表を務めるJean-Christophe Vié氏は述べる。
「絶滅に瀕する状態からこれらの種を回復させるには、生息地の保護と再生がさらに必要となります。このことは、例えば、伝統的な農業方式を用いた草原の持続可能な管理により行うことが可能です。今行動に移さなければ、欧州の草原のコオロギの鳴き声はすぐに過去のものとなるでしょう」。
バッタ目として知られる、コオロギ類、キリギリス類、バッタ類のグループは、欧州に生息する鳥類や爬虫類の多くにとっての重要な食糧源であり、その個体数の減少は、生態系全体に影響を及ぼす可能性がある。
生態系の健全性や草原における生物多様性の指標ともされている。
農業用地の集約化は、草原性生息地の消失、崩壊そして分断につながるもので、これらの種にとっての最大の脅威とされている。
とりわけ、過放牧、放棄された放牧地での過繁茂、草原や灌木林の農地転換、肥料や大型機械の使用、頻繁な草刈りや農薬の使用による影響を受けている。
例えば、Adriatic marbled bush cricket(学名:Zeuneriana marmorata、キリギリス科の1種)は、牧草地から畑への転換や草原管理の集約化により、現在、絶滅危惧IB類に分類されている。
特にギリシャやカナリア諸島では、頻発する野火によってもバッタ目の個体群で大量死が起きている。
例えば、絶滅危惧IB類とされるGran Canaria green bush cricket(学名:Calliphona alluaudi、キリギリス科の1種)は、2007年に発生した大規模な野火によりその分布範囲のおよそ1/4を失った。
沿岸性種の多くは、観光開発や都市化の影響も受けており、絶滅危惧IB類のknotty sand grasshopper(学名:Sphingonotus nodulosus、バッタ科の1種)などは、ポルトガルにおける大規模な開発プロジェクトの脅威にさらされている。
報告によれば、南フランスの固有種であり激的に個体数が減少している、絶滅危惧IA類のCrau plain grasshopper(学名:Prionotropis rhodanica、フトナスバッタ科の1種)などのようなバッタ類の種の保全のためには、順応的管理やモニタリング計画の策定が必要である。
減少した個体数を回復するために、保全戦略が策定され実施されている。
「このIUCNレッドリストの結果は非常に気がかりなものです」と、IUCNヨーロッパオフィスの代表であるLuc Bas氏は述べた。
「欧州において持続可能な生態系を維持する上で、これらの昆虫類の健全な個体群は非常に重要であり、社会的かつ経済的健全さの基盤となるものです。EU Nature Directives(EU自然指令)の適切な実施の必要性は、目下ECでも優先事項とみなされています。欧州域内、とりわけNatura 2000注1)の指定地域でみられるこれらの種の状況の改善に向け、EU自然指令の適切な実施が大いに貢献することでしょう」。
報告書では、個体数の動向に関する情報を得るために、コオロギ類、キリギリス類、およびバッタ類の種の欧州全体のモニタリングプログラムの確立を推奨している。
IUCNのSSC(種の保存委員会)、バッタ専門家グループの議長を務め、この報告書の主執筆者でもあるAxel Hochkirch氏は、「IUCNレッドリストは既に、絶滅の危険性が高いバッタ目の種を保全上の課題に加えることへの助けとなりました」と語る。
「しかしながらコオロギ類、キリギリス類、およびバッタ類の個体数の動向に関する我々の知識は未だに乏しく、10%近い種がデータ不足により「情報不足」と評価されています。その他の種が人知れず絶滅するのを阻止するためにも、早急にさらなる研究が必要なのです」。
全文はこちらからダウンロード可能。
注1:欧州の生物多様性を保全するため、1992年生息地指令(92/43/EEC)に基づいて設けられたEU規模の自然保護区のネットワークのこと。
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