野生生物の密猟に対する意識向上キャンペーンに見える希望の光
和訳協力:山本 麻知子、校正協力:河村 美和
2017年3月3日 IUCN News
世界中に消費者重視の経済が広がるにつれ、野生生物関連商品に対する需要も高まっている。
インド・ビルマ生物多様性ホットスポットでは、野生生物の密猟が絶滅の危機に瀕する多くの種(アジアの大型ネコ科動物、アフリカゾウ、サイやセンザンコウ)に対して厳しい脅威となっている。
これに対し、IUCN(国際自然保護連合)のメンバーで、タイに拠点がある団体Freeland(フリーランド)とそのパートナーらは、iTHINKキャンペーンを立ち上げた。
これはタイやベトナム、中国における野生生物関連商品の消費減少を目指し、一般市民への啓蒙活動を目的として始動したキャンペーンである。
紙媒体の広告や屋外に設置される広告の看板に加え、テレビなどの公共広告を通して、4000か所以上で1日に4千万人もの人々に重要なメッセージを伝えている。
このキャンペーンの結果、調査では過去に野生生物関連商品を購入したことがあると答えた人の多くは、再び購入する気持ちが薄れていると話した。
(しかしタイでは4人に1人が、ベトナムでは2人に1人、中国では5人に1人が再び購入するつもりだと答えている。)
また、FreelandはiTHINKキャンペーン拡大のため、Critical Ecosystem Partnership Fund(CEPF:クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金)から支援を受けている。
CEPFは、iTHINKキャンペーン、および一般市民への啓蒙活動についてよりよく知るために、Freelandで不正取引の撲滅活動の取り組みの指揮を執るMatthew Pritchett氏と情報交換している。
Q: iTHINKキャンペーンはどのように発展してきたのですか?
A: iTHINKキャンペーンは、中国やタイ、ベトナムの自然保護団体や広告代理店、過去に密猟をしていた人々や利害関係者らが集まり、何度も円卓会議を開いて進められてきました。このような会議では、アジアで行われてきた野生生物関連商品の需要を減らすための試みの見直しも行われました。
Q: iTHINKキャンペーンは、ベトナムや中国の消費者の野生生物の消費に対する見方にどのように影響を与えましたか?
A: iTHINKキャンペーンは、調査対象者の考え方に明らかな変化を起こしました。行動が変わるのには時間がかかりますが、野生生物関連商品の購入に対する認識が変化し、今は以前より多くの人々がそのことを意識している、と評価しています。これらのとても明確な兆候は、このキャンペーンやその他の活動が奏功したと言えるでしょう。
Q: 特に効果的だったと思われる特定の広告はありましたか?
A: 広告には認知度の高い著名人を起用したこともありましたが、多くの場合は野生生物の専門家、法の執行機関の職員やアンティークディーラーを起用しました。このことが重要な視聴者層に大きな影響を与えました。自然保護関係者らによってもたらされた行動変化が伝わるとき、論拠に説得力があるため保全の手助けになると期待されることが大変多いのです。一方で、たとえばアンティークディーラーのように野生生物の保全とは無関係の視聴者が、野生生物の取引についてどのように感じているかということを掘り下げて理解したり、またこれらの視聴者の考え方を伝えるメッセンジャーとして起用したり、実際に我々の考えを伝えるメッセンジャーとして起用したりすることが、時には有益なこともあるのです。
Q: iTHINKキャンペーンによって影響を受けた、もしくは受けなかったことがはっきとわかる需要はありますか?
A: このキャンペーンでは購買の種類よりむしろ、たとえば「ゾウ」というように特定の種に注目しています。ベトナムでは、たまに誤解されているように、野生生物が「万能薬」ではないということを人々に認識させるため、伝統薬の専門医と密接に連携をとりました。本当に信頼されるのは、伝統薬を実際に扱う専門家の伝統訳についての認識だけなので、彼はとても強力なメッセンジャーとなりました。視聴者に、長年の思い込みに疑いを持ってもらえるくらいしっかりと耳を傾けてもらったり、購買行動に根本的な変化がもたらされるくらいの気持ちの変化を引き起こしたりすることは、こういった適任のメッセンジャーの活用なしには、成し遂げられませんでした。
Q: iTHINKキャンペーンが始まってから、政府関係者による何らかの働きかけは見られましたか。法執行措置は増加しましたか?
A: iTHINKキャンペーンが行われた各国で、私たちは政府と密に連携をとり、政府職員、特に法執行機関の職員を起用した映像を多く使いました。このことと、各国の法執行の取り組みの強化とを関連づけることはできませんが、政府機関による関与や政府機関による広告が増えたことで、これらの地域の政府が野生生物犯罪に対する優先度を上げていることは明らかです。
Q: CEPFは、どのような形でiTHINKキャンペーンを支持していますか?
A: CEPFは、iTHINKキャンペーンの拡大にとても具体的な形で協力してくれました。CEPFは、私たちが若い世代や一般市民のNGO団体と関われるようにしてくれ、さらに多くの地元活動家や地域コミュニティがこのキャンペーンに参加できるように、場を提供してくれました。また、iTHINKキャンペーンのためのツールキットの作成を支援してくれました。これは自分自身で意識向上キャンペーンを運営したいと考える人や、それらの活動を地元の保護活動につなげたいと考える人に必要な、関連性のあるすべての情報を提供してくれるツールです。
Q:絶滅危惧種を保護することの重要性について一般市民の認識を変えるためには、次にどのような手段がありますか?
A:これまでの活動で前進が見られていますが、やるべきことはまだたくさんあります。この問題の重要性が増していくことについて、活動地域の政府がとても前向きな姿勢を示しています。国内象牙市場を段階的に廃止していくと発表した中国やベトナムが、この11月にIWT conference(Hanoi Conference on Illegal Wildlife Trade:(仮)野生生物の違法取引に関するハノイ会議)を主催したことなどです。ですから、私たちは正しい方向に進んでいるという自信があります。
広くメッセージを伝えるために引き続き政府を巻き込むことが必要です。そして今の世代の人々が過去の人々と同じ道を絶対に歩まないよう、潜在的な購買者に着目すれば、より多くのことができるはずだと考えます。
Q:タイ、ベトナム、そして中国で、一般市民の認識を変えられると思いますか? 絶滅危惧種の保護が重要だと考えるよう、一般市民全体の認識が変わった日を予想できますか?
A:現在、大方の人々が絶滅危惧種の保護が重要であり、価値のあることだと思っています。問題は、死んだサイが1頭であっても、それはサイにとっては余りにも大きな数字だということです。「認識の転換」では十分ではないのです。意図せずに、また不注意や誤った情報のために野生生物関連商品を購入する危険性が最も高い人々や、野生生物の違法な取引や密輸に陥る危険性が非常に高い人々、そしてまだこの認識を変えるキャンペーンが届いていない人々に対して、私たちはさらに努力を強める必要があります。
これらの目標を達成するためには、このような視聴者や、根本的には振る舞いが変化しているが認識が変わっていない人にも響くように、中心となる考え方やキャンペーンの企画を、妥協せず、緊急性と重要性を持って追求していくことが非常に重要です。
Q:ほかに伝えたいことはありますか?
A:私は大多数の人々が善良で、善い行いを求めていると心から信じています。地球がもろいということや、私たち人間が地球に与える影響について、私たちの理解は以前よりも深まっています。たとえ人間が絶滅危惧種の動物たちにひどいことをする恐ろしい場面を目にしても、私は日々希望に突き動かされているのです。
この記事の原文はCEPFのwebサイトに掲載されたものである。
ニュースソース
https://www.iucn.org/news/asia/201703/hopeful-signs-campaign-against-wildlife-trafficking
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