IUCN、サハリン・エナジー社とニシコククジラ保護の約定を更新
和訳協力:星野 友子 校正協力:矢仲 裕紀子
2017年3月7日 IUCN News
IUCN(国際自然保護連合)によれば、ロシア極東地域で絶滅の危機に瀕しているニシコククジラの保護を目的に設立された独立した科学専門委員会が、今後5年間、引き続きクジラの活動をモニタリングしながら、この地域における産業活動への提言を行っていくとのことである。
この12年の間、IUCNが主導するWestern Gray Whale Advisory Panel(WGWAP:ニシコククジラ専門家パネル)は、Sakhalin Energy(サハリン・エナジー社)をはじめとする関係機関に対し、ニシコククジラとその生息域の保全に関して、客観的で偏りのない助言を行ってきた。
この生息域とはクジラが毎年夏と秋に綵餌場としているロシアのサハリン島沖をさし、日本のすぐ北に位置している。
IUCNとサハリン・エナジー社との間で調印された2017年から2021年の期間を対象とした新たな合意のもとに、WGWAPはサハリン・エナジー社に対して、同社がクジラとその生息域に与える影響を軽減する方法について、引き続き助言していく。
具体的には、WGWAPは次の項目に焦点を当てて意見を提供することになるだろう。
・サハリン・エナジー社の今後の海底地震探査のためのモニタリングと影響緩和プログラム
・ニシコククジラとその生息地に関して、International Finance Corporation(国際金融公社)のPerformance Standards on Environmental and Social Sustainability(環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準)をサハリン・エナジー社が履行することについて
・コククジラの研究とモニタリングのために、サハリン・エナジー社とExxon Neftegas(エクソン・ネフタガス社)が共同で行うプログラムについて
・サハリン・エナジー社のMarine Mammal Protection Plan((仮)海生哺乳類保護計画)の更新および改定について
・International Whaling Commission(国際捕鯨委員会)のコククジラへの取り組みについて
20世紀には、西太平洋のコククジラ(学名: Eschrichtius robustus)は、商業捕鯨による猛烈な乱獲により一時は絶滅したのではないかと考えられていた。
しかしその後、1990年代にサハリン島沖で小さな個体群が発見された。
現在では、2004年の推定個体数115頭から2015年の174頭へと、緩やかではあるが、回復の兆しを見せている。
IUCN、WWF(世界自然保護基金)、IFAW(国際動物福祉基金)が共同で作成し、最近発表した報告書「Western Gray Whale Advisory Panel Stories of Influence((仮)西部太平洋コククジラ専門委員会が見たクジラへの影響について)」では、事業と保全の双方の利点が強調されており、この12年間、科学者、政府、非政府機関らが積極的に取り組んできた結果だとしている。
この報告書では次のように述べられている。
「WGWAPは、科学を基盤とした独立委員会が、紛争に発展しかねない競争の場を協調と、共同の場へと変えることが可能であり、また生態学的に影響を受けやすい地域や、脆弱な種への影響を抑制するためであれば、いかなる部門の企業であれ、その企業を援助できることを証明してきた」。
ただし、確実にクジラを長期的に保護するには、石油とガスの事業者や漁業者を含めた、この地域のそのほかの関係者たちとWGWAPとの間で、更なる積極的な取り組みを進め、協力していくことが不可欠だとも指摘している。
WGWAPの提言と報告は、すべてIUCNのwebサイトで公開されている。
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