カンボジアのベンガルショウノガンが送電線の建設計画で危機に
和訳協力:立田 智恵子、校正協力:ジョンソン雅子
2017年3月15日 IUCN News
カンボジアWildlife Conservation Society(WCS:野生動物保護協会)は、IUCN主導によるインド-ビルマ・ホットスポットにおける助成金拠出メカニズムによって、Critical Ecosystem Partnership Fund(CEPF:クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金)といった、多数の団体からの基金を得て、絶滅寸前のBengal Floricans(学名:Houbaropsis bengalensis、ベンガルショウノガン)の保護に貢献している。
Tonle Sap Floodplain Protected Landscape(TSFPL:トンレサップ湖氾濫原景観保護区)の端に建設予定の送電線は、早ければ来年にも建設され、絶滅危惧IA類とされるベンガルショウノガンの新たな脅威となる可能性がある。
ベンガルショウノガンは、絶滅のおそれのある野生生物のリストであるIUCNレッドリストで絶滅危惧IA類に指定され、世界全体の生息数は800羽未満とされる。
そのベンガルショウノガンの保護にとって、カンボジアは最も重要な国である。
2012年にUniversity of East Anglia(UEA:イースト・アングリア大学)の調査員が国内で発見したベンガルショウノガンは、約432羽だった。
「15羽のベンガルショウノガンに人工衛星追跡型の発信機を装着した結果、年に2回、繁殖地と非繁殖地の間を行き来する際に、送電線の建設予定地を通ることがわかりました」と、UEAのPaul Dolman博士は言う。
「カンボジア最大で、そしてこの点が最も重要ですが、この種の安定的な個体群の生息を支えているにはNorthern Tonle Sap Protected Landscape(NTSPL:(仮)トンルサップ北部景観保護区)であり、現時点の計画ではこの保護地域付近に建設する予定なので、もっと頻繁に送電線を越えるベンガルショウノガンもいるかもしれません」とDolman博士は付け加えた。
送電線はノガンやコウノトリ、ツル、猛禽類等の方向を容易に修正できない大型で飛行速度が遅い鳥に特有の問題となっている。
ベンガルショウノガンを含むノガンの仲間は焦点距離が狭いため、全鳥類のなかで最も高架線に衝突する可能性が高い。
UEAおよびリスボン大学の調査員がまとめたデータによれば、中央アジア、南アフリカ、ヨーロッパのその他(ベンガルショウノガン以外)のノガンは、送電線による深刻な影響を受けており、その影響がカンボジアのベンガルショウノガンにも及ぶ可能性を示唆している。
「この種の絶滅を防ぐためには、残されたカンボジアのベンガルショウノガン個体群を守ることが必要不可欠です。電力会社は影響を緩和する技術を駆使して、ベンガルショウノガンが送電線と共存できるようにしなければなりません」と、ベンガルショウノガン保全事業のマネージャーを務めるHong Chamnan氏は言う。
NTSPLは、かつては森林局が管理していたベンガルショウノガン保護地域を改正して2016年に設置されたもので、コントンポム州とシェムリアップ地域の31,159haをカバーしている。
WCSは環境省と密に連携し、NTSPLと、NTSPLがその生息を支えているベンガルショウノガンを含む重要な野生生物の保護を行っている。
実施しているのは、法的措置の支援、鳥の巣の保護、持続可能な農業、自治体の認識向上等の様々な保全活動である。
「ベンガルショウノガンの繁殖地付近から繁殖地に近くない場所へと電線の場所を変えることが、ベンガルショウノガンが命を落とすのを防ぎ、またその可能性を減らすのに最も効果的な方法です」と、WCSカンボジアの上級技術顧問であるSimon Mahood氏は言う。
「鳥が電線に気づきやすくする、鳥のための飛行偏向板や円盤、らせん状の物などを電線に取り付けることによっても、鳥の死亡数を減らすことができます」とMahood氏は付け加えた。
ベンガルショウノガンの保護は、John D. and Catherine T. MacArthur Foundation(マッカーサー基金)、クリティカル・エコシステム・パートナーシップ基金、Mohammed bin Zayed Species Conservation Fund(仮:ムハンマド・ビン・ザーイド種の保全基金)、チェスター動物園、North Star Science & Technology、フォード・モーター・カンパニー、および国立鳥類研究センター-International Fund for Houbara Conservation(フサエリショウノガン保護国際基金)の支援に支えられている。
この記事は、カンボジアの野生動物保護協会(WCS)のウェブサイトに掲載されたものである。
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