CITES事務局立ち会いのもと、中国が国内の象牙市場閉鎖に動き出す
和訳協力:清水 桃子、校正協力:ジョンソン雅子
2017年3月31日 CITES Press Releases
2016年12月30日、中国政府は、2015年9月にアメリカ合衆国大統領と中国国家主席が共同声明を発表した、国内の象牙取引市場の閉鎖を2017年末までに履行すると発表した。
CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称「ワシントン条約」)のJohn Scanlon事務局長立ち合いの下、最初の象牙加工工場と小売店が閉鎖された。
この発表は、国内象牙市場の閉鎖を求める第17回締約国会議(CoP17、2016年9月/10月ヨハネスブルグにて開催)での決議採択を受けてのものである。
CITES事務局長が到着する直前、本日閉鎖された67か所を含む、国内すべての象牙加工工場と小売店を対象とする閉鎖実施計画を国家林業局が発表した。
残りの105か所については12月31日までに閉鎖される計画である。
「昨年12月、中国は国内の象牙市場閉鎖の決定を発表しました。現在その決定が迅速に実行されており、今週の北京訪問でそれは明らかになりました」と、CITESのJohn Scanlon事務局長は語る。
「中国政府による国内象牙市場の閉鎖は、州内および州間での象牙の加工、取引、動向に影響し、さらには全国にも大きく広がっています」。
国家林業局のLiu Dongsheng副局長は次のように語る。
「中国政府による象牙の国内市場の閉鎖の決定と、先週発表された詳細なスケジュールで明らかなように、中国は責任ある国であり、我々に課された国際的義務を真摯に受け止めています。国内の象牙加工工場12か所と小売店55か所を永久に閉鎖することで、本日更なる措置が講じられ、確実に前進しました。象牙の取引禁止を履行するにあたり、我々は様々な課題に直面することを認識していますが、この禁止措置が確実に実施されることを中国政府は確信しており、この決断に妥協することはありません。我々はこの決定を進める全過程におけるCITES事務局からのあらゆる支援に感謝しています」。
中国のCITES管理当局である国家林業局を伴い、本日、Scanlon事務局長は中国国内で最も有名なBeijing Ivory Carving Factory(北京象牙加工工場)と同日閉鎖される象牙の小売店の1つを含む、数か所の象牙加工工場と小売店を視察した。
CITESの事務局長は3月29日と30日に、CITES、特にCoP17での決議の履行と執行の進捗報告先である国家林業局、農業部および海関総署の各省と一連の会合を行った。
国家林業局との会合の中で、中国政府は100,000USドル(約1,122万円、2017年5月1日付換算レート:1USドル=112.2円)をCoP17の決議を履行するための支援として、CITES事務局に寄付する声明を出した。
これは事務局にとって最初の年間予算外資金になる可能性がある。
中国の貢献により、CITES事務局の通常予算も2010年以降250%増加した。
今回の視察の中で、認可を受けていた象牙加工工場に対し、代替の加工材料を見つけることを含む、別の生計手段を提示することや、合法的な象牙と未販売の加工済み象牙の処分などが、取引禁止後の政府と企業が直面する課題として明らかになった。
それでも、すべての可能な解決策を模索しながら、閉鎖を進める政府の決定に変わりはない。
「CoP17でのCITES締約国による大胆な決断が、そのまま中国の大胆な行動に反映されたことを直接見ることができ、非常に励まされました。そして我々は中国政府の強固なリーダーシップに深く感謝したいと思います。国内の象牙市場閉鎖の最終的な目標は、象牙の違法取引を止めることです。これは違法な供給網全域に対する継続的な法の執行と国際協力に支えられるべきものです。消費国に関しては、マンモス象牙やアンティーク象牙などで作られた象牙加工品などのような、違法な象牙加工品のロンダリングを防ぐための継続的な努力も、このような取り組みに含まれます。中国は自らの行動を通じて、他の消費国各国が追随するような刺激を与え、同様にゾウの生息国と経由国にも刺激を与えています」とScanlon事務局長は締めくくった。
Scanlon事務局長の中国公式訪問は、2010年事務局長就任以来今回で7度目となる。
これまでの訪問は以下の通り:
2015年 CITES事務局と中国政府による象牙違法取引防止に関する需要側面についてのワークショップ共催後、汪洋副総理と会談。
2014年1月 押収した象牙の初の処分について中国・東莞市で講演。
2014年5月 香港(中国特別行政特区)でも同内容の講演。
2013年 中国のCITES管理当局のすべての職員との年次会合。
2011年
National Inter-Agency CITES Enforcement Coordination
Group(NICECG、(仮)ワシントン条約政府内法執行調整グループ)との会合後、人民大会堂においてCITESへの中国加盟30周年を祝賀。
中国における野生生物保護とCITESの履行
野生生物の保全はすべての国々にとっての課題である。
しかしながら中国にとってはその規模が他国と異なる。
中国は世界の人口の約1/5を占める人口の多い国であり、国土は4番目に広く、14ヵ国と国境を接している。
食料や医薬品用途などで野生生物を利用する長年の習慣が相まって、ますます増加する中国国民の購買力と共に、中国は今や世界第2位の経済大国である。
2015年には中国の玄関口である深せんだけでも、香港SAR(特別行政区)から中国本土へ毎日65万4000人、1年で2億3900万人が日々4万2500台の車と共に入国した。
2016年には中国全土に35億個以上の荷物が配送された。
このような状況にもかかわらず、中国は国内の野生生物保護に多くの成功を成し遂げ、他国へ刺激を与えている。
中国はそのアジアゾウの野生の個体群が、健全な状態でかつ増加している数少ない国の一つである。
そして昨年ジャイアントパンダについては絶滅危惧種に関するIUCNレッドリストの絶滅危惧IB類から外された(絶滅危惧II類に格下げされた)。
これは野生種の保護に成功したおかげである。
この2種はCITES附属書Iに掲載されている。
これらの成功は課題に対応した絶え間ない努力と、資源を野生生物の保全に充てた結果である。
例えば、世界において生物種が豊富な国の一つである中国は、国土のおよそ15%にあたる2,800ヵ所を自然保護区としており、これは世界第2位である。
中国国内においては自然林の伐採は完全に禁止されている。
1981年以来、CITES締約国となった中国は世界最大のCITES管理当局を持ち、170名近いスタッフが条約履行のため常勤している。
2011年12月にはNICECGを設立し、情報の収集と交換の促進、キャパシティビルディングの強化、そして中国全土での合同執行活動の調整を行っている。
中国の税関はCITESの履行と執行において包括する拠点となっている。
深せんでは、1都市としては世界最多となる6,000名の税関職員が、中国国内のどの都市よりも多くの野生生物製品を押収している。
中国には野生生物犯罪に対する非常に厳しい刑法の1つに最高懲役の終身刑がある。
数年前に廃止されたが、死刑もあった。
野生生物犯罪者は定期的に逮捕され、起訴されている。
最近ではセンザンコウの違法取引を行ったとして、32名が10年以上の懲役刑に課せられた。
中国はCITESに関わる多国間の取り組みにも積極的に関与している。
例えば、最大かつ最も成功した、国を越えた野生生物法執行作戦だったコブラ作戦は2012年に中国主導で行われた。
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