WCS、極地保護のための新たな国際合意を歓迎
和訳協力: 高橋 哲子、校正協力:伊川 次郎
2017年1月19日 WCS News Releases
「Polar Code(極海コード)注1」の改正により、船舶運航が、環境が変化しつつある北極および南極海域に棲息する野生生物に与える影響が、最小限に抑制されるだろう。
新基準は野生生物を保全し、北極圏にとっては、野生生物に食糧安全保障を依存する北極の地域コミュニティを保護するものとなるだろう。
WCS(Wildlife Conservation Society:野生生物保護協会)は、International Maritime Organization(国際海事機関)およびその関係団体らが、両極海域での海事活動の安全を確保し、船舶活動が海洋環境におよぼす危険性から両極海域を保護する、法的拘束力のある国際合意である極海コードを策定・施行したことを賞賛する。
様々な作業部会による20年以上もの検討の結果、改正極海コードが2017年1月1日に施行された。
「この極海コードは、北極の海洋環境にとってすばらしいニュースです」と、WCSのArctic Beringia Program((仮)北極圏ベーリング陸橋プログラム)の代表を務めるMartin Robards博士は言う。
「この広大で遠く離れた地域から、船舶の排出物による脅威や油汚染事故のリスクを減少させることは、野生生物の保健衛生と地域の先住民コミュニティの食糧安全保障にとって非常に重要なことなのです」。
海路を含む両極圏には、鳥類、哺乳類、そのほか、実に多様な種が棲息している。
その中には、信じられないほどの集団が形成される地域もある。
例えば、北極海、その沿岸域およびベーリング海峡は、約17,000頭のホッキョククジラ、150,000頭以上のセイウチ、それに他の多くの海生哺乳類が移動する回廊や目的地になっている。
改正された合意により、極海を航行する船舶は、極海を運行するのに必要となる要件を満たすべく建造されることになる。
極海コード改正により、極地を航行する船舶のより安全な作業環境が確保されるばかりでなく、原油流出事故などへの対応能力が制限される地域では、非常に重要な要因である海難事故リスクが、最小限に抑制されるだろう。
さらに、極海における船舶からの固形物や液体の排出が禁止または厳しく制限されることになる。
WCSのArctic Beringia Programは、連邦、州、および北極の先住パートナーと幅広く協力し合い、極地開発がこの地の野生生物の個体群に与える影響を最小限に抑えるために活動している。
例えば、WCSの研究員たちは地域の協力者らとともに、海生哺乳類の餌場や移動範囲を船舶の航路が横切る地域を明らかにしている。
このような情報を文書化することによって、「極海コード」に基づいた形で船舶の航行計画を立てるのに有意義な情報を提供できる。
これは、海生哺乳類と船舶が空間的および時間的に制約を受ける、ベーリング海峡やカナダ北部沿岸を通る北西航路などの、"choke points(船舶が頻繁に通行する場所)"で、特に重要である。
WCSのOcean Giants Program(海洋大型生物プログラム)の主任研究員、Howard Rosenbaum博士はこう語る。
「改正された極海コードのおかげで、特にベーリング海峡のような生物学的に重要な回廊において、夏の間にそこを移動する数多くのクジラとそこを航行する船舶との致死的衝突のリスクを、最小限に抑制する船舶作業計画をたてることができるのです」。
注1:極海域における船舶運航のための国際基準のこと。
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