アンデス高地に生息するカエルはカエルツボカビに対し従来考えられていた以上の回復力を有していた
和訳協力:坂本 義教、校正協力:鈴木 洋子
2017年2月17日 WCS News Releases
ペルーのビルカノータ山脈に生息するカエル類を10年間調査した結果、致死性のカビと気候変動に耐えて生き延びた両生類の存在が判明した。
研究者はchytrid fungus(カエルツボカビ)を即時に同定できるポータブル分子検査機を利用した。
この10年間、ペルーアンデス山脈で研究を行っている野生生物の保健衛生の専門家と環境科学者から成るチームが驚くべき発見を成し遂げた。
Wildlife Conservation Society(WCS:野生生物保護協会)やその他のグループによれば、大抵の両生類にとって致命的となる気候変動やカビの脅威が存在するにもかかわらず、高地に生息するカエル類やヒキガエル類が生き延びている、というのである。
研究者たちはかつて、ペルーの氷河で覆われたビルカノータ山脈に生息する3種のカエルとヒキガエルが、世界の両生類の個体群にすさまじい影響をもたらす病原体のカエルツボカビ(学名:Batrachochytrium dendrobatidis)、および気温上昇という二重の脅威の結果として、絶滅するのではないかと恐れていた。
しかし驚くべきことだが、これらの動物は繁殖を続け、生き延びていることが確認された。
この新しい研究結果はEcology and Evolution誌に掲載されている(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.2779/full)。
「2007年に行った前回の研究で報告したように、こうした山地の生息環境では気候条件が変化し、さらにツボカビ類も存在するため、我々は時間とともにカエルの種が絶滅する光景を目にするだろうと予測していました」と、Tracie Seimon博士は語った。
博士はブロンクス動物園に拠点を置くWCSのZoological Health Program((仮)動物保健衛星プログラム)の分子科学者であり、本研究の筆頭著者の一人でもある。
「私たちが今、これらの両生類の個体群で目にしているものは、私たちの最初の仮説に反するものです。またカエルの減少は回復に転じる可能性さえあるのです」。
Seimon博士とそのチームは、ツボカビと急速に変化する環境条件が高地の両生類に及ぼす影響を評価するため、2003年から2015年にかけ9回の遠征を行い、ビルカノータ山脈内の7つの地域を訪れた。
ビルカノータ山脈は2番目に大きな熱帯山岳地域であり、広範囲にわたって氷河に覆われている。
長期モニタリング調査は、以下に記した高山性の3種のカエルに焦点を当てて行われた。
すなわち、marbled water frog(学名:Telmatobius marmoratus、ミズガエル属の1種); Andean toad(学名:Rhinella spinulosa、ナンベイヒキガエル属の1種); marbled four-eyed frog(学名:Pleurodema marmoratum、ユビナガガエル科Pleurodema属の1種)、である。
調査を行うため、研究者は各調査区域で小川や池の中、そして山腹のトランセクト沿いに両生類を捜した。
見つかった成体のカエルやヒキガエル、そしてオタマジャクシは体長を測定し、疾患の徴候を調べ、写真撮影を行い、傷つけることなく自然に帰した。
研究者はカエルツボカビの有無を調べるため、綿棒で皮膚の細胞も採取した。
採取した試料は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれるDNA増幅技術により、カエルツボカビや他の病原体を即時に同定できるポータブル分子検査機(大きさはおよそブリーフケース大)を用いて分析した。
かつてはこうした調査を行う際は、サンプルを現地から研究室まで運び、病原体の存在を確かめなければならなかったが。
研究者はまた、地形の変化を実証するため、同じ場所で繰り返し写真を撮影した。また、両生類の生息環境における気温の上昇、氷河の加速度的後退、および植生の変化などといった、ビルカノータ山脈域で起こっている生態学的変化に関するデータもとった。
調査期間中、こうした変化が起こり、カエルツボカビがずっと存在していたにも関わらず、これら3種の両生類は生きのびたため、変化する環境に適応しつつあるように思われる。
「これらの特定の両生類個体群が持つ明白な回復力は、事例研究によって、生物種が急速に変化する生態系に適応する方法を我々に教えてくれます。そのことによって、気候が変動する時代にあって、山地に生息する脆弱な種のより良い保護のための管理対策の助けとなる情報をもたらしてくれるでしょう」と、Seimon博士は付け加えた。
著者らは、ビルカノータ山脈域の湿地帯間のつながりを保護し維持することが、高地に生息する両生類の種を存続させるうえで非常に重要なことになる、と断言した。
なぜならそうした場所での環境条件は今も変化し続けているからである。
本研究には「ビルカノータ山脈(ペルー)における、熱帯高山生息環境の変化、アンデス山系の無尾類、およびのカエルツボカビの長期モニタリング:10年にわたる研究の結果」という表題がつけられている。
著者らは、Tracie A. Seimon(WCS); Anton Seimon(アパラチア州立大学); Karina Yager (ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校); Kelsey Reider(フロリダ国際大学); Amanda Delgado(ペルー自然史博物館); Preston Sowell(アウサンガテ環境有限会社); Alfredo Tupayachi(国立サン・アントニオ・アバド・クスコ大学(ペルー)); Bronwen Konecky(コロラド大学); Denise McAloose(WCS); Stephan Halloy(第一次産業省、ニュージーランド)である。
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