気候変動は生態系を危険にさらす主要な脅威
和訳協力:河本 惠司、校正協力:浅原 裕美子
2015年7月17日 IUCN News story
学術雑誌Austral Ecologyの特別号で発表された研究によると、オーストラリアにとどまらず、様々な生態系を危険にさらす主な脅威として気候変動が浮上したという。
この研究では、IUCN Red List of Ecosystems(生態系に関するIUCNレッドリスト)の判定基準を適用し、海綿の密集地や干潟、砂漠、熱帯林、温帯林、高山の草原、温帯低木林や湿地といった劣化の危険性が高い生態系を特定した。
最も絶滅の危機に瀕している個々の種を特定した、影響力のあるIUCN Red List of Threatened Species(絶滅危惧種に関するIUCNレッドリスト)に類似したものであるこの生態系に関するレッドリストは、生態系のリスク評価における世界標準となっている。
ニューサウスウェールズ大学Centre for Ecosystem ScienceのDavid Keith教授は次のように述べている。
「オーストラリアで初めてとなる予備的なレッドリストのリスク評価によって、気候変動が熱帯雨林や森林地帯、砂漠の低木林、高山草原、海洋システムといった多くの生態系を危険にさらす主な脅威であることが明らかになりました」。
「しかし、これは様々な形で現れているのです。降雨パターンの変化によって危険にさらされている生態系もあれば、熱波の頻度増加、積雪期間の短縮や南極の氷海面積の減少が原因で危機に陥っています。ユニークな山地性熱帯雨林では、雲の高さの上昇によって生態系でさえあります」。
生態系の評価が行われたのは、オーストラリア東部ニューサウスウェールズ州のカンバーランド平原の森林地帯、オーストラリア中央部に位置するエーア湖盆地の広大な湿地帯、そしてオーストラリア西部バッセルトンの鉄鉱石を含有する地域の灌木地である。
オーストラリア以外では、黄海の干潟や南極大陸にある浅海域の生態系、エルサルバドルの陸上生態系が、研究者によって調査された。
この研究では、それぞれの生物学上のデータと個々の生態系の空間的な配置についてのデータを重ね合わせ、生態系の状況や傾向に関する全体像を把握した。
川の流れなどの作用や土地利用の変化、雑草や害虫の侵入、気候、火事や洪水による影響が、生態系の状態を左右することが証明された。
「気候変動は、開発や疾病といった、歴史的に生態系を衰退させる気候変動以外の大きな要因に加わって、生態系に対する圧力を増大させることが分かったのです」と、この研究に関するいくつかの論文で共同執筆者として携わっているNew South Wales Office of Environment and Heritage(ニューサウスウェールズ州環境・自然文化遺産局)のTony Auld博士は述べている。
このリスク評価のもっとも重要な成果は、危機に対処し、さらなる衰退から生態系を守るための実践的な行動方針を示したことである。
また、Keith教授は次のように述べる。
「オーストラリアの生態系は、上水やその他の必須資源の供給を維持するうえで重要であるだけでなく、オーストラリアの観光産業や国民のアイデンティティを構成する要ともなっています」。
「ご支援をいただければ、この予備研究をオーストラリア大陸全土での生態系評価にまで拡大することができます。これは地域社会や政府、産業に対して、最大の利益を生み出すための取り組みや投資先をどのように絞っていけばよいかという情報を得る助けとなるでしょう」。
「生態系が衰退すると、自然の本質的な価値が下がります。しかし、我々の社会を維持し、天災から地域社会を守ってくれる自然資源と、我々が健全で健康でいられるための自然空間を失うことにもなるのです」と、IUCNのGlobal Ecosystem Management Programme((仮)世界生態系管理プログラム)のRebecca Miller氏は述べる。
「機能している生態系は、国際社会が繁栄する前提条件なのです」。
ニュースソース
http://www.iucn.org/news_homepage/?21683/Climate-change-key-threat-to-ecosystems-at-risk
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