再評価でホッキョクグマ存続への最大の脅威は気候変動と指摘される - IUCNレッドリスト
和訳協力:木田 直子、校正協力:池田 磯香
2015年11月19日 IUCN International news release
International Union for Conservation of Nature(IUCN:国際自然保護連合)が今日発表した最新版のIUCNレッドリストによると、ホッキョクグマの世界的な再評価により、彼らの生息に欠かせない海氷が地球温暖化により失われたことが、この種の長期的な存続に対する唯一にして最大の脅威であることが明らかになった。
この更新版ではまた、多くの菌類に対する主な脅威として生息地の劣化を、海棲の硬骨魚類の主な減少要因として乱獲を挙げている。
現在、IUCNレッドリストでは79,837種が評価され、掲載されているが、そのうち23,250種は絶滅が危惧されている。
ホッキョクグマ(学名:Ursus maritimus)の再評価では、最新の海氷および亜個体群に関するデータとともに、コンピューターシミュレーションや統計モデルを用いて、ホッキョクグマの亜個体群の規模が、海氷の変動に応じてどのように変化するかを予測した。
この種のデータではこれまでで最も包括的な評価となった。
その結果、世界全体のホッキョクグマの生息数は、今後35年から40年の間に30%以上減少する可能性が高いことが判明した。
この評価は、ホッキョクグマが現在IUCNレッドリストで絶滅危惧II類に分類されていることと一致する。
「信頼性の高い最新の科学に基づいて実施された今回の評価は、気候変動が今後もホッキョクグマの存続に対する深刻な脅威になるという証拠を示しています」と、IUCNのInger Andersen事務局長は言う。
「気候変動による影響はこの象徴的な種にとどまらず、私たちの惑星がこれまで直面したことのない脅威をもたらします。今月パリで開かれる気候変動に関するサミットに出席する各国政府は、この前例のない難題に対処できるだけの強力な合意に達するために全力を尽くす必要があります」。
最近の調査によると北極海の海氷は大半の気候モデルの予測を超える速さで消滅しており、9月の海氷面積から見ると、1979年から2011年まで海氷は10年ごとに14%ずつ直線的に減少していることになる。
ホッキョクグマは獲物に近付くために海氷を利用する。
氷のない期間が年間5か月以上に及べば、それだけこの種の絶食期間が延びることになり、地域によっては繁殖の失敗や餓死するケースが増加する可能性は高い。
最近の海氷予測によれば、21世紀末までには、カナダの北極諸島のかなりの地域で氷のない期間が5か月以上になるという。
北極圏のそれ以外の地域では、21世紀半ばまでに無氷期間が5か月にも拡大する可能性がある。
北極圏の温度上昇は、アザラシなどのホッキョクグマの獲物となる種の生息地の減少や病気の発生率上昇につながる可能性もあり、ホッキョクグマを更なる危機に誘うことになるだろう。
ホッキョクグマは土着住民の生計にとって重要な位置を占めるほか、生態系の頂点に立つ捕食者として、北極圏の生態系のバランスを保つ上でも欠かせない存在である。
海氷の消滅のほかに、この種に対する潜在的な脅威としては、開発による環境汚染、資源探査、生息環境の変化などが挙げられる。
たとえば北極圏における石油開発では、石油流出からヒトとクマが遭遇する機会の増加まで、さまざまな脅威が考えられる。
「ホッキョクグマに対する最大の脅威は海氷の消滅ですが、ホッキョクグマの管理計画においては現在ならびに将来のありとあらゆる脅威を考慮する必要があります」と、IUCNのSpecies Survival Commission(SSC:種の保存委員会)のPolar Bear Specialist Group(ホッキョクグマ専門家グループ)のDag Vongraven委員長は言う。
「ホッキョクグマが生息する国々が最近、Circumpolar Action Plan((仮)環北極圏行動計画)に合意したことは明るい兆しです。これは、野生のホッキョクグマの長期的な生き残りのために取り組む初めての世界的な保全戦略です。IUCNはこれらの国に積極的に協力し、合意された計画をできるだけ効率よく団結して実現するのに役立つ科学的なデータやアドバイスを提供しています。この行動計画によってホッキョクグマの保全がこれまでとは違うものとなることを心から望んでいます」。
今回の更新では29種の菌類が評価され、IUCNレッドリストの菌類の数は2倍以上に増えた。
菌類に影響を与える主な脅威は生息地の喪失と劣化で、そのほとんどは土地利用の変化によるものだ。
カラフルなイッポンシメジ科のキノコの1種(学名:Leptonia carnea)は絶滅危惧II類に分類されており、米国カリフォルニア州沿岸地域のセコイアの林にのみ分布している。
干ばつの増加、霧の発生減少などのカリフォルニアの気候の変化により、その生育地に影響が及んでいる。
絶滅危惧IB類のセコイア(学名:Sequoia sempervirens)の伐採が続けられていることも、このキノコにとっては大きな脅威だ。
菌類は、動物や植物の生存に不可欠な生態系サービスを提供している。
全植物の80%と共生関係にあるほか、ヒツジやウシといった反芻動物の消化システムにおいてもきわめて重要な役割を果たす。
また、人類にとっても薬や食物として非常に重要だ。
抗生剤のペニシリンはアオカビ属の菌から発見されたし、今日のほとんどの抗生物質やスタチン(一般に血中コレステロールを低下させるために使われる)は菌類から生産される。
パンやビール、ワイン、チーズなどのほか、多様な食物を作るのにも菌類が利用されている。
IUCNレッドリストの今回の更新では、脆弱な沿岸生息地の劣化、環境汚染、乱獲と破壊的漁業により、東大西洋中部とカリブ地域の多くの硬骨魚が絶滅の危機に瀕していることも明らかになった。
カリブ海では、外来のミノカサゴによる圧力も大きい。
モーリタニアからアンゴラまでの東大西洋中部を対象とした、近海魚と深海魚の両方を含む1,400種の硬骨魚の世界的な評価では、3%が絶滅の危機にさらされていることが判明した。
roundnose grenadier(学名:Coryphaenoides rupestris、ソコダラ科ホカケダラ属の魚類)は、乱獲のため、絶滅危惧IA類に分類されている。
カリブ海では1,340種が評価され、そのうち5%の絶滅が危惧されているが、golden tilefish(学名:Lopholatilus chamaeleonticeps、キツネアマダイ科の魚類)も絶滅危惧IB類に分類された。
この種は重要な漁業対象種であり、キツネアマダイ科の魚類の中では最大の種であり、体長1.25mに達することがある。
乱獲により、過去48年間に生息数が66%減少している。
海棲の硬骨魚類は魚類の中でも最大のグループで、生態学的にも経済的にも重要性が高い。
もしこれらの種が失われれば、これらの地域に住む3億4千万人以上の人々の食の安全と生計に対する深刻な脅威となるだろう。
人口は今後20年から25年で倍増すると予測されており、この新しいデータは、この地域の漁業管理や、優先的に保全のための行動を行うべき地域の特定などを含む、地域における保全活動の優先順位を決定する際の指針となるだろう。
「今回の評価はこの種のものとしては初めての試みであり、特定地域における基準となる包括的な情報を提供するものです。海洋保護区の設計と管理、また絶滅の恐れがある海洋生物種の管理の向上には不可欠な情報です」と、IUCNのMarine Biodiversity Unit(海洋生物多様性ユニット)の責任者であるKent Carpenter氏は言う。
「このデータから、各国や各地域での漁業管理を改善し、保全の成果を最大化するための、今まで以上に効果的なイニシアティブも開発されることでしょう」。
新たに絶滅危惧IA類に評価された種のうち合計24種が、主に侵入種による脅威や生息地および生育地の破壊により絶滅した可能性があると指摘された。
ハワイのカウアイ島固有の植物種であるHaha(学名:Cyanea kolekoleensis)は、本来の生育地でPossibly Extinct(絶滅した可能性あり)とされた。
この種の生育地はブタや複数の外来植物種によって脅かされており、1998年以降の目撃情報はない。
マダガスカルでしか見つかっていない11種のランは、絶滅危惧IA類で、生育地ではPossibly Extinctであるとされた。
この中には違法採取や森林伐採により脅かされているマメヅタラン属の植物の1種(学名:Bulbophyllum tampoketsens)も含まれる。
ミズガエル科ミズガエル属のカエルの一種、Arico water frog(学名:Telmatobius pefauri)は、1976年以降目撃されていないため、絶滅危惧IA類で生息地ではPossibly Extinctであるとされた。
このカエルは、人間が生活や家畜の飼育のために水を利用することによって生存を脅かされている。
また専門家によれば、生息地である小川を家畜が踏み荒らすことも影響しているかもしれないとされている。
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