違法取引によりサボテンが世界で最も絶滅の危機が迫る種に-IUCNレッドリスト
和訳協力:山崎 有起枝、校正協力:山本 麻知子
2015年10月5日 IUCN International news release
サボテンの種の31%が絶滅の危機にあるとする、IUCN(国際自然保護連合)とパートナーによる初のサボテン種群に関する総合的な世界評価書が本日発行の科学雑誌Nature Plantsで公開された。
これはサボテン類が、IUCN Red List of Threatened SpeciesTM(絶滅危惧種に関するIUCNレッドリスト)で哺乳類や鳥類よりもさらに危険性の高い、最も絶滅のおそれがあるグループに分類されたということだ。
報告書によると、世界中のサボテン1,480種の半数以上が人によって利用されており、人間の活動からくる圧力は増している。
持続不可能な収奪と同様に、園芸用や私的な収集を目的とした、生きた植物体や種子の違法取引はサボテン類にとって大きな脅威であり、サボテンの絶滅危惧種の47%に影響を与えている。
「これらの調査結果は憂慮すべきものです」とIUCN事務局長のInger Andersen氏は語る。
「今回の評価結果は、植物の取引を含めた違法な野生生物取引の規模が、我々が当初想定していたよりもはるかに多いこと、また世界的に注目され人々の関心を集めやすいサイやゾウなどよりも、もっと多くの種に違法な野生生物取引が関与していることを示してます。これらの種のさらなる減少を食い止めるためには、速やかに違法な野生生物取引に対抗する国際的な活動に取り組み、CITES(Convention on International Trade in Endangered Species:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称「ワシントン条約」)の履行を強化しなければなりません」。
サボテンに対するその他の脅威としては、絶滅危惧種の31%に影響を与えている小規模な畜産農家の放牧や、24%に影響を与えている小規模な農家の毎年の耕作などが挙げられる。
宅地開発や商業施設の開発、採石、水産養殖、特にエビの養殖はサボテンの生息地へと広がっており、これらもまたサボテン類への大きな脅威となっている。
サボテンは、アメリカ大陸の乾燥生態系の鍵となる構成要素であり、多くの動物種が生存していくために必要不可欠なものだ。
シカやウッドラット、ウサギ、コヨーテ、七面鳥、ウズラ、トカゲ、カメを含む多くの種類の動物に食物と水のもととなる資源を提供し、動物たちはその見返りにサボテンの種子を散布してくれる。
また、サボテンの花は、ミツバチやガやその他の昆虫はもちろんのこと、ハチドリやコウモリにも蜜を与え、その代わりに受粉してもらうのだ。
また、サボテンは食物や薬としてだけでなく、園芸業界の人たちによっても広く利用されている。
果実と栄養価の高い茎の部分は、地域社会における重要な食料源だ。
メキシコで一般的にnopal(ノパール、Opuntia属またはNopalea属のサボテンの総称)として知られ、人気のあるprickly
pear(ヒラウチワサボテン)やOpuntia ficus-indica(オプンチア属のサボテンの1種)の葉状の茎1枚の栄養価はビーフステーキと比較されることも多い。
Near Threatened(準絶滅危惧)に分類されているAriocarpus kotschoubeyanus(黒牡丹(コクボタン))のような種の根の部分は抗炎症剤として使用されている。
サボテンの取引は国内外で行われているが、その多くは違法なもので、園芸用に使われているサボテンの86%が、野生から採取した絶滅の危機にあるサボテンである。
ヨーロッパやアジアの収集家は、違法なサボテン取引を行う最たる者たちだ。
野生から採取した個体は希少価値があるため特に需要が高い。
「この評価結果に我々は衝撃を受けました」と研究報告書の第一筆者であり、IUCNのCactus and Succulent Plant Specialist Group(サボテン・多肉植物専門家グループ)の共同議長であるBarbara Goettsch氏は語る。
「我々は、サボテンがこのように絶滅の危機が高い状況にあり、その減少に違法取引がここまで大きな役割を担っているとは思いませんでした。サボテンの喪失は、乾燥地帯の多様性と生態系、そして野生個体から得られる果実や茎の収穫に頼っている地域社会に大きな影響をもたらすことでしょう」。
「この研究から、サボテンが生育している国々で、より良く、またより持続可能な個体群管理が必要であることが明らかになりました。近年の人口増加に伴い、これほど高いレベルでの採取や生育地の喪失があっては、これらの植物は生き残れないでしょう」。
サボテンの多くの種がCITESの附属書に記載され、サボテンの国際的な市場で種から育てたサボテンが取引われるようになった1975年以来、サボテンの違法取引は一定の割合減少した。
しかし、特にCITESの実効力がほとんど及ばない国々では、サボテン採集の脅威がはびこっている。
例えば、ペルーのプーナ砂漠の固有種であり、かつては数多く生育していたEchinopsis pampana(エキノプシス属のサボテンの1種)は、観賞用の植物として、ここ15年間で少なくとも個体数の50%を失うほどの高い割合で違法に採集されている。
人間が宅地開発のために土地利用を変えてしまい、かつてのこの種の生育地を失ってしまったことは、もはや取り返しがつかない。
今やこの種はEndangered(絶滅危惧IB類)に指定されている。
サボテンは形の多様さと花の美しさで有名だ。
南アフリカやマダガスカル、スリランカでも見られるMistletoe Cactus(学名:Rhipsalis baccifera、リプサリス属のサボテンの1種)を除き、アメリカ大陸の乾燥地帯固有のものである。
絶滅の危機にさらされたサボテンのホットスポットは、ブラジルやチリ、メキシコ、ウルグアイの乾燥地帯にもある。
生物多様性に富んでいるにもかかわらず、これらの地域は注目されることもなく特に重要視されず、それ故にサボテンのような乾燥地帯に生育する種は、保全計画の中でしばしば見落される。
報告書の筆者らは、種の保全をより進めるために、乾燥地帯の保護地域を広げることや、野生のサボテンの持続的な採集についての意識を高めることの必要性を強調している。
「この衝撃的な結果は、サボテンのような、植物の主要グループにおけるすべての種の絶滅の危機に関する査定の実施と、そのための資金調達の重要性を示しています」とGlobal Cactus Assessment(GCA:(仮)世界サボテン評価)の主任の一人であるUniversity of Exeter(エクセター大学)のKevin Gaston氏は語る。
「我々はそうすることによってのみ、サボテンでも明らかなように、人類の計り知れない圧力にさらされている生物に起こることの全体像を把握できるのです」。
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