春の謎の大量死で世界のサイガの個体数は2週間で半数以下に
和訳協力:山田 由加里、校正協力:鈴木 洋子
2015年11月2日 WCS News Releases
集団で出産する時期に、きわめて多数のサイガが死亡した。
わずか2週間という短い期間に、地球全体の総数の半数以上が死亡していることが確認され、春の牧草地全体に数千にもおよぶ成獣や幼獣の死骸が見られた。
可能性として植生や気候変動による外部要因の組み合わせから起こる病気が疑われている。
しかし、迅速な対応と集中的な調査にも関わらず、正確な原因は未だ解明されていない。
サイガの大量死を受け、先週、ウズベキスタンのタシケントに国際的な組織のメンバーが集結し、サイガの生存を脅かす多くの要因からサイガを保護する対応策を協議した。
国際条約であるConvention on Migratory Species(CMS:移動性野生動物種の保全に関する条約、通称「ボン条約」)主導の下、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、モンゴルおよび中国に加えて、現地の自然保護団体とともに、Wildlife Conservation Society(WCS:野生動物保護協会)、Frankfurt Zoological Society(ZSL:フランクフルト動物学協会)、World Wildlife Fund(WWF:世界自然保護基金)およびFlora and Fauna International(FFI:ファウナ&フローラインターナショナル)などの自然保護保護団体の代表らが一堂に会した。
サイガの大群は、かつては数百万頭の群れでアジアの寒冷な牧草地全体を大移動していた。
しかし、この細長い脚と団子鼻を持つアンテロープは、20世紀の終わりに容赦なく大量に密猟された。
サイガの角は中国や東南アジアで伝統薬に使用されており、市場での需要の急激な高まりによりサイガは絶滅寸前まで追いつめられ、わずか20年の間に全体の97%の個体数が失われた。
しかし、保護対策の強化により、サイガの個体数は著しく回復し始めている。
過去数年間では、サイガの個体数は約5万頭から20万~30万頭へと増加している。
「疾病による大量死は、サイガに関していえば以前からあったことです」と、WCSのHealth Program((仮)保健衛生プログラム)の病理学部門の責任者であるDenise McAloose博士は語った。
「規模ははるかに小さいですが、深刻な大量死は過去数十年の間にも発生しています。今回の驚くべき点と大きな懸念は、その規模と範囲の大きさです。すべての個体群で死亡率がほぼ100%だったのです」。
WCSのHealth Programの中央アジア地域担当コーディネーターであるStephane Ostrowski博士は次のように付け加えた。
「これは、種を減少させる危険性があるということと、その危険を引き起こす要因としての病気の重要性を示しているのです。以前はそれほどの影響がなかった大量死が、今や世界全体の多くの個体群に影響を及ぼし、残りわずかなサイガをすぐにでも絶滅に追い込む可能性を持っているのです」。
ボン条約の会合において、政府代表らと自然保護団体は、病気だけでなく、個体数の増加に伴う密漁の増加や、生息地での開発プロジェクトの拡大など、サイガへの影響が大きくなりつつある脅威についての議論を交わした。
特に道路や線路、境界部に作られる柵などの開発プロジェクトは、サイガが生息する地域の過酷な大草原において、行わなければならない大移動を阻む恐れがある。
この厳しい環境において、長距離を移動する能力がなければ、冬の雪や氷結を避け、暑く乾燥した夏に食べ物を得ることができないのかもしれない。
会合では、これらの多様な脅威に対処する行動をまとめた5ヵ年の作業計画を完成させ、集まった人々の合意を得た。
その計画には、従来よりも綿密に監視し、サイガの健康に関する研究を強化して、密猟防止の取り組みを強化し、生息地における開発の急速な増加への対処を行う必要性が盛り込まれている。
WCSのアジア地域担当ディレクターのPeter Zahler氏は次のように語った。
「サイガは魅力的な動物です。きわめて厳しい環境で生存するために進化していて、一頭一頭はきわめて繊細に思われますが、種全体としてはきわめて強靭であることを示しています」。
Peter Zahler氏はまた、次のように付け加えた。
「この大量死が起こるまでは、サイガは、人間が引き起こした悲劇の後に、保護活動が功を奏した世界的な実例の一つでした。この大量死は、これまでの保全の努力に大幅な後退をもたらしましたが、同時に警鐘を鳴らしてくれました。もし我々が協力し、取り組みに注力すれば、サイガの個体数回復に力を貸すことができ、史上最大規模の大移動の光景を見せてくれることになるでしょう。サイガはきわめて回復力の高い種であり、いまやサイガの個体数回復は我々にかかっているのです」。
WCSは、1980年代からアジア北部の広大な草原地帯の野生生物保護活動を行っている。
WCSは、United States Forest Service International Programs(USFS-IP:(仮)米国林野部国際プログラム)およびボン条約の支援を受け、ボン条約の締約国によるサイガ会議に参加した。
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