蝕まれゆく未来に直面する海洋生物
和訳協力:大塚 有美、校正協力:松尾 亜由美
2015年7月2日 IUCN News story
海洋は、人間が引き起こした地球温暖化をやわらげる。
しかし、そのために海洋の物理的・化学的性質や海洋生態系とそれがもたらす恩恵の著しい変化という代償を払っている。
このことは、Oceans 2015 Initiativeのメンバーと、IUCN(国際自然保護連合)のWorld Commission on Protected Areas Marine Vice Chair(世界保護地域委員会の海洋部会副議長)であるDan Laffoley氏との共著で、本日(2015年7月2日)科学雑誌サイエンスに発表された報告で明らかになった。
この報告では、今世紀中に起こりうる2種類の二酸化炭素排出量の推移に基づき、2つのシナリオを評価、比較している。
2つのシナリオではどちらも、温帯域に生息するサンゴや中緯度域に生息する二枚貝類(軟体動物)などといった、脆弱な生態系への高いリスクを伴う。
しかし、何も対策をとらないシナリオでは、広範囲にわたる種が死に至る高い危険性を伴い、非常に壊滅的な状況となることが予測された。
筆頭著者であるCNRS(Centre National de la Recherche Scientifique, France:フランス国立科学研究センター)主任研究員のJean-Pierre Gattuso氏は、この報告の研究結果が、実効性のある二酸化炭素排出量を削減する政治的意思を喚起することを期待している。
そして、「これまでの気候変動関連の交渉の場では、海洋の取り扱いは最低限のものでした。我々の調査により、2015年12月にパリで開催される、国連の気候変動枠組条約のCOP21(第21回締約国会議)では、その状況を抜本的に変えるための説得力のある議論が行われるでしょう」、と述べている。
大気中の二酸化炭素が40%増加したことにより、海洋では、水温上昇、酸性化、水面上昇といった一連の大きな環境変化がすでに起きている。
この報告によると、2100年までに気温の上昇を2℃未満に抑えるというコペンハーゲン合意の目標値に従って二酸化炭素排出量を削減すれば、最も脆弱な種以外の生物に与える影響は穏やかなものとなるが、この目標値を達成できなければ、すべての海洋生物群に多大な影響を与えることになると予測されている。
これらの海洋生物群には、サンゴや魚類のほか、海洋の食物連鎖の下位に属する翼足類(殻を持つ動物プランクトン)やオキアミなどの価値の高い種も含まれる。
この報告では、深刻な影響を与える最大のリスク要因の一つとして、海洋の酸性化を取り上げている。
貝類および甲殻類、サンゴ、動物プランクトンは特に危険にさらされている。
「海洋の酸性化の兆候は、北半球でも南半球でもすでに観測されています」とIUCNのGlobal Marine and Polar Programme(世界海洋・極地プログラム)の代表であるCarl Gustaf Lundin氏は警告する。
「海洋の酸性化は将来起こりうる問題だと思われていましたが、今日すでに経済的影響を与えています。もし、二酸化炭素排出量が増加し続ければ、経済的影響は急速に大きくなるでしょう」。
何ができるか?
コペンハーゲン合意の目標値達成に必要な厳しい排出量削減より以上に、著者らは、海洋が気候の安定化に果たす重要な役割および海洋のもつ脆弱性の認識が必要であると強調する。
「海洋への影響を最小限に抑えることができない場合、いかなる新しい気候変動に対する制度も、不完全で不適切であるとみなされるでしょう」とLaffoley氏は言う。
「海洋が確実に回復力を維持し、地球の気候を調整し続けられるようにするためには、さらなる海洋保護区ネットワーク化の推進と、海岸の生態系の回復への投資の2つが重要です」。
ニュースソース
http://www.iucn.org/news_homepage/?21603/oceanclimatesciencepaper
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