ヨーロッパの海水魚についての初めての完全な評価により乱獲による大きな脅威が明らかに
和訳協力:坂本 義教、校正協力:木田 直子
2015年6月3日 IUCN Redlist News Release
IUCN(国際自然保護連合)およびEuropean Commission(EC:欧州委員会)が本日発表したEuropean Red List of Threatened Species((仮)絶滅危惧種に関する欧州レッドリスト)によれば、ヨーロッパ海域では、ヨーロッパの海水魚全種のうち7.5%が絶滅の危機に瀕しているという。
一部の種は回復しつつあるとはいえ、その他の多くの商業魚種に関する海洋管理は成功を収めているとはいえない。
ヨーロッパのサメ類、エイ類、ギンザメ類の40.4%で絶滅の危険度が高まっている。
ECが資金調達したレッドリストの報告書は、初めてヨーロッパ原産の海水魚類を完全に評価したもので、地中海、黒海、バルト海、北海、大西洋北東部に生息する1,220種すべてを評価している。
この中には、これまでに大量に漁獲されてきた多くの種が含まれ、これらの種は大規模な商業的漁業や遊漁、零細漁業を支えてきたのだ。
絶滅の危機に直面している種の数が最も多いのは、地中海、イベリア半島西部の沿岸、マカロネシア諸島の海域である。
サメ類、エイ類、ギンザメ類(軟骨魚綱の魚たち)は、ヨーロッパでは絶滅の危険度が最も高い海水魚であり、その40.4%が絶滅の危機に瀕し、39.7%は個体数が減少していることが判明した。
たとえば、絶滅危惧IA類のAngelshark(学名:Squatina squatina、ホンカスザメ)は、かつてはヨーロッパの全海域で見られたが、漁業に伴う混獲の影響を受け、現在は主としてカナリア諸島周辺海域でしか見られない。
「これらの調査結果は、EUの環境政策や海洋政策に活気をもたらし、EU(欧州連合)が定めた法律、たとえばHabitats Directive(生息地指令)やMarine Strategy Framework Directive(海洋戦略枠組み指令)、Maritime
Spatial Planning Directive(海洋空間計画指令)を効果的に履行し、絶滅が危惧される海洋種の現状を改善する上で非常に重要です」と語るのは、Environment, Fisheries and Maritime Policy((仮)環境・水産・海事政策)担当のEuropean Commissioner(欧州委員)であるKarmenu Vella氏だ。
「またこの調査結果は、EUのすべての漁業者にMaximum Sustainable Yield(持続可能最大収量)を保証できるレベルで漁獲することで、Common Fisheries Policy(共通漁業政策)の要求を完全に、かつ確実に遵守することの必要性をもはっきり示しているのです」。
「EUが定めた生物多様性に関する2020年までの目標を達成するには、現行の海洋法をきちんと履行することが極めて重要です」と、IUCNのEuropean Regional Office(ヨーロッパ地域事務所)のLuc Bas所長は語った。
「健全な海洋環境は、漁業部門の長期的な存続を確実にすることでヨーロッパの経済的繁栄を築く上でも、何百万という人々に安全な食とさまざまな生態系サービスも提供する上でも、我々の海にとって絶対に必要なのです」。
報告書によれば、Atlantic Cod(学名:Gadus morhua、タイセイヨウダラ)、Atlantic Bluefin
Tuna(学名:Thunnus thynnus、タイセイヨウクロマグロ)など一部の種では資源量が回復していることから、現行の海洋管理措置が成果を収めていることが分かる。
しかし、Atlantic Halibut(学名:Hippoglossus hippoglossus、タイセイヨウオヒョウ、絶滅危惧II類)、Atlantic Salmon(学名:Salmo salar、タイセイヨウサケ、絶滅危惧II類)、Turbot(学名:Scophthalmus maximus、イシビラメ、絶滅危惧II類)など、その他の種については、管理はあまり効果的になされていない。
「ある程度前進はしましたが、商業的、生態学的に重要な多くの種が、ヨーロッパでは今も危険な状態にある、という点では警戒を要します」と、IUCN Species Survival Commission(SSC:種の保存委員会)のSimon Stuart議長はつけ加えた。
「絶滅危惧種を対象とした漁業や混獲を減らすため、今すぐ行動する必要があります。また、海水魚のすべての商業種について、個体数減少の科学的な理解の促進と、多年度にわたる管理計画に基づいた漁獲量の割り当てを設定し、それを施行することも急がなくてはなりません」。
報告書は、ヨーロッパの海水魚に対する主たる脅威として、漁業対象種とされることおよび混獲による乱獲を挙げている。
主要な脅威にはそのほかに、沿岸開発、エネルギー生産、採鉱のほか、海洋汚染や気候変動が挙げられる。
たとえばイシビラメはヨーロッパの浅い海域に広く分布する一般的な種であるが、乱獲の結果として過去27年から29年の間に31%も減少し、今では絶滅危惧II類とされている。
タイセイヨウサケ(絶滅危惧II類)もまた、海や河川での乱獲と、水質汚染と汚濁物質の体積の影響を受けている。
海での乱獲、中でも特に流し網漁、またサバ漁業による混獲も同様に、タイセイヨウサケにとって大きな脅威となっている。
加えて近年、サケの餌となる種が商業漁業により激減し、大規模なサケの養殖によって持ち込まれた疾病や寄生虫が、野生の個体群に影響を及ぼしている。
報告書によれば、ヨーロッパの科学力は世界的にも最高峰であるにもかかわらず、評価を行ったすべての海水魚種の1/5(20.6%)について、絶滅の危険度評価に利用可能な科学的情報は不足しているという。
個体数の増減の傾向に関する知見も不足している。
評価では、8.4%の種では個体数が減少し、21.5%の種は安定しており、1.7%は増加しているとされたが、68.4%もの種の傾向は未だ不明とされた。
「個体数の増減の傾向、分類や分布について、特に深海に生息する種や希少種に関しては、依然としてわからない部分が多くあります。ですからヨーロッパの海水魚に関するモニタリングとデータ収集の改善が絶対的に必要なのです」とIUCNのGlobal Marine Biodiversity Unit((仮)グローバル海洋生物多様性ユニット)のマネージャーであるKent Carpenter氏は語った。
「私たちがより多くの知識を得るにしたがい、今はデータが不足している種の中にも絶滅の危機に直面しているものがあると分かるかもしれませんから」。
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