生きとし生けるどんな種も守られなければならない
和訳協力:岡本 明子、校正協力:浅原 裕美子
2015年5月20日 IUCN News story
本日、『Current Biology(カレントバイオロジー)』誌に発表された「The Importance and Benefits of Species(種の重要性と有益性)」という論文は、人間による生物種の直接的な利用や明白な価値、知性や魅力などにかかわらず、あらゆる種が重要であるという保全の原理を主張している。
地球上のすべての種に対して、我々の関わり方はまず「保全」であるべきで、現在認識されている人間への有用性によって、なぜ種が救われるべきなのかという議論を発展させようとしてはいけない。
その論文は、アブダビに本拠を置くMohamed bin Zayed Species Conservation Fund((仮)ムハンマド・ビン・ザーイド種の保全基金)の関係者と、International Union for Conservation of Nature(IUCN:国際自然保護連合)のスタッフやICUNのSpecies Survival Commission(SSC:種の保存委員会)のメンバーらによるものであり、著者らは、生きとし生けるすべての種に対する精力的な保全の取組みに賛同の意を示している。
近年、長期的に持続可能な発展と人類の幸福を達成するために、生態系サービスが持つ価値の認識が高まっている一方で、こうした重要なサービスを維持するうえで個々の種の価値が過少評価されたり、全く見過ごされたりすることがよくある。
Blue Mussel(ヨーロッパイガイ:ムール貝の仲間)の研究から得られた防汚技術や接着技術の進歩には、海洋船舶の燃料の大幅な節約と、医療用接着剤の進歩につながるかもしれないという将来性がある。
世界中の塩性湿地やマングローブ林に多くみられるFiddler crab(シオマネキの仲間)は、マングローブ林がより大きく、高く、そしてうっそうと成長するのを助け、その結果としてより多くの二酸化炭素の吸収にも役立っている。
研究によるとこれらの事例は、最も一般的な種からでさえも得られた、予想も期待もされていなかった多くの有用性のうちのたった2例にすぎないそうだ。
著者らは、生態系サービスを維持するのに種が必要不可欠であり、例えそれらの種の直接的な価値がまだ定義されていないとしても、保護されるべきだという事実を強調しようとしている。
ひとつの種がもたらす価値というのは、予想も期待もしないようなものであることが多い。
たとえば、新たに記載されたアマゾン川流域に生息するナマズの数種は、腸にいる固有のバクテリアが木材を消化できるため、より少ないエネルギーでの紙の製造に有益であることが証明されるかもしれないという潜在的な価値を持っている。
現在は科学が見逃されている野生生物の固有の価値と潜在的有益性を考慮して、よりバランスのとれた保全への取り組みを行う必要がある。
野生生物種の価値を評価することは非常に難しい。
なぜならその評価は、現在理解されているような種の特性だけでなく、環境や社会の経時的変化によっても変わるものだからだ。
ある種が絶滅するか、あるいはある環境において大幅に減少すると、その影響が現れる。
たとえば、1990年代にIndian Vulture(インドハゲワシ)が非意図的に毒に侵され、その数が99%以上減少してしまった。
その結果として野犬が増え、インドとパキスタン全体で狂犬病が異常発生する事態となった。
著者らは、人間にとって重要である個々の種と生態系サービスとの明白なつながりによって、少なくとも種の存在の妥当性を証明するという負担が取り除かれ、予防原則の上に成り立つ知的アプローチへと移行すべきだ、ということを示唆している。
ほとんどの種が自然界でどんな役割を担っているのかをただ我々が知らないというだけで、その種が重要ではないということを意味するわけではないのだ。
「生命の多様性と我々の世界の不思議さを保つべき理由はたくさんあるのです」と、Save Our Species(SOS)のディレクターを務め、IUCNのGlobal Species Programme(グローバル種プログラム)の副代表であり、またMohamed bin Zayed Species Conservation Fundの諮問委員会メンバーでもあるJean-Christophe Vie氏は述べている。
「いくつかの野生生物種が担っている重要な役割を明示することはできますが、それはただ上っ面を論じていているにすぎません。何百万もの種のことを、我々はただ単に知らないだけなのです。だからこそ我々は慎重にならねばならず、野生生物が我々にもたらしてくれるものを明示できないというだけで、それらを絶滅させてはならないのです。これは非常に大きな過ちであり、我々がそれらの『有益性」を示すことができる前に、その多くが失われてしまうでしょう」。
ニュースソース
http://www.iucn.org/news_homepage/?21355/All-species-great-and-small-must-be-preserved
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自然界に存在する如何なる種も尊重されねばならないと思います。人間の目先の都合だけで、ある種を絶滅させてはなりません。今までいろいろな種が残っているのはそれなりに理由があるはずです。種の多様性こそが、生物存続の幾多の危機を救ってきたのではないでしょうか?今人類にとって有害に思える種も、長い目で見れば人類の存続にどこかで繋がっているかも知れないのです。自然界に無駄な生物はいないと考えられます。
投稿: 伊川次郎 | 2015年12月18日 (金) 14時03分