野生生物犯罪―それはみんなの課題
和訳協力:高島 裕以、翻訳協力:柳川 さやか
2015年3月3日 IUCN Article
Inger Anderson IUCN(国際自然保護連合)事務局長の声明―世界野生生物の日によせて
世界では今、かつてないほど多くの野生生物が絶滅しています。
今日ほど生物種が脅威にさらされたことはなく、絶滅率は自然レベルの10倍から100倍にもなっており、その原因は人間が作り出しています。
IUCN Red List of Threatened Species(絶滅危惧種に関するIUCNレッドリスト)には、この種の絶滅の危機の理由がたくさん挙げられています。
自然の生息地の喪失と劣化がもっとも重大な問題ですが、気候変動や外来種、環境汚染や持続不可能なほどの種の搾取なども大きな脅威となっています。
今日は、特に野生生物の違法取引によって脅かされている種について考えたいと思います。
幸いにも、この世界野生生物の日のようなイベントの効果で、この非常に破壊的な違法取引は、これまでにないほど広く認識されています。
野生生物の違法取引によって絶滅の危機にさらされるのは、サイ、トラ、ゾウなどのカリスマ的大型動物だけではありません。
その他にも、あまり注目されていない種の個体数を大きく減少させているのです。
例えば、センザンコウ、カメ、ソテツ、ラン、多くの人間の暮らしを支える材木となる木などです。
野生生物の違法取引がもたらす深刻な生態学的影響を、自然保護活動家は数十年前も前から熟知してきましたが、違法売買がかつてない規模で横行する今日、行動を起こし、結果を出すためには、野生生物違法取引を世界規模で解決すべき課題として取り上げ、政治的対応をとる必要があります。
取り組むべき主な課題としては、違法取引の利害関係者である消費国、経由国、原産国の政府や地域社会、NGO、法執行機関、税関職員、科学者の対話の促進が挙げられます。
IUCNは、そこで非常に重要な役割を果たすことができ、また果たしています。
IUCNレッドリストは、種のおかれている状況のデータを提供し、また違法取引により危機にさらされている種を特定します。
さらに、野生生物の保全と持続可能性への問題の解決に向け、IUCNは各国政府、NGO、国連機関、企業や産業界らの懸け橋となっているのです。
IUCNはTRAFFIC(トラフィック)やCITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称「ワシントン条約」)、その他の協力機関とともに、各国政府の違法取引撲滅のための政策決定の指針となるような、有益な情報を発信しています。
例えば、IUCNは2013年にボツワナ共和国とともにアフリカ・ゾウサミットを開催しました。
その結果、ゾウの生息国、象牙の経由国と消費国は、アフリカゾウを保護し、象牙の違法取引を減らすための緊急な対応をとることとなったのです。
それと同時にIUCNは現場での活動として、SOS(Save Our Species)プログラムやIntegrated Tiger and
Habitat Conservation Programme注1)((仮)統合的トラ生息地保全プログラム)を通じて、野生生物犯罪に取り組んでいます。
SOSは2011年の発足以来、総額600万USドル(約720億円、2015年9月3日付換算レート:1USドル=120.26円)を小額に分割して、ゾウ、ゴリラ、サイ、ウミガメ、サメ、ケランジィ(ローズウッドの1種)、ソテツなどの種の密猟対策を行うために、現地で活動する人々に交付してきました。
それによって、パトロールの改良、地域自治体の巻き込み、訓練や法執行、市民の購買態度の変化、密猟数の減少などの効果が得られたのです。
そして、国際社会が力を入れて対応し続けるべきもっとも重要なことは、法執行の強化と、違法に採取された野生生物製品は買わないという消費者意識を高めることです。
しかし、野生生物と共存している地域社会の役割も同様に重要です。
この点は見逃されることが多いのですが、問題解決には不可欠です。
地域社会が野生生物の違法取引との闘いで果たす役割の重要さは、先週南アフリカでIUCN主導で開催されたシンポジウムBeyond Enforcementの主題でもありました。
確かに、野生生物の違法取引は多面的であるため、野生生物保全の問題の域を越えています。
開発の課題であり、安全保障の課題であり、国際的課題であり、そして間違いなくみなが取り組むべき課題なのです。
注1:Integrated Tiger Habitat Conservation Programmeの誤りと思われる。
ニュースソース
http://www.iucn.org/news_homepage/?18978/Wildlife-crime---its-everyones-challenge
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