気候変動に脆弱な生物の評価ガイドラインに関する最新の研究
和訳協力:工藤 英美、校正協力:高橋 哲子
2015年4月30日 ICUN Redlist News Release
ICUN(国際自然保護連合)Species Survival Commission(SSC:種の保存委員会)のClimate Change Specialist Group(気候変動専門家グループ)が、世界の専門家たちと共同で行った研究で、気候変動に脆弱な生物種の評価方法の再評価が行われ、自然保護活動家にとって貴重な指針が示された。
この研究で、研究対象となっている生物種群や地域に偏りがあることが明らかになった。
北アメリカやヨーロッパ、オーストラリアにおける鳥類、哺乳類、植物がその大多数を占めていたのである。
筆頭著者であるSapienza University of Rome(ローマ・ラ・サピエンツァ大学)のGlobal Mammal Assessment Program((仮)世界哺乳類評価プログラム)のMichela Pacifici氏は、「今後数十年で、気候変動が生物多様性を減少させる主な要因となるでしょう。気候変動の影響を受けると思われる生物種を正確に予測することは、自然保護活動を進めるのに十分な時間を確保するために不可欠です。始めるのが早ければ早いほど、私たちの選択肢は広がるのです」と言う。
本研究の著者グループは、1996年から2014年に発行された気候変動に脆弱な生物種に関する97の研究を再評価し、対象とする種や適用基準、地域に偏りがあることを明らかにした。
この分野における研究対象の大多数は3つの大陸および亜大陸にしかない。
対象地域全体の33%が北アメリカ大陸、24%がヨーロッパ、そして14%がオーストラリアに集中している。
世界で最も生物が多様な熱帯や亜熱帯地域における研究が極端に少ない状況である。
鳥類が最も頻繁に研究対象となっており、次いで哺乳類、植物となっている。
その一方で、昆虫以外の無脊椎動物、中でも(昆虫以外の)節足動物や軟体動物、海綿動物などは滅多に研究対象として取り上げられていない。
生物の脆弱性について全地球規模で研究されているものは4%しかなく、それに対して局所的な研究は60%を超えている。
本研究の著者グループは、気候変動に対して脆弱な生物種が多く集中している地域を明らかにした。
その地域とは、カリブ海、アマゾン川流域、メソアメリカ(メキシコと中央アメリカ北西部)、中央アジアと東アジアから東ヨーロッパにかけての地域、地中海地域、ヒマラヤ山脈、東南アジア、アフリカ北部、コンゴ盆地、アフリカ西部の熱帯地域、およびマダガスカル島である。
共著者であるローマ・ラ・サピエンツァ大学 (仮)世界哺乳類評価プログラムのCarlo Rondinini氏は、「地球温暖化の進行は、生息地の損失と共に、多くの発展途上国で生物多様性に深刻な影響を与えると予測されています」と述べている。
「ですから、これらの情報不足な地域において研究を進め、モニタリング作業を拡大していくことは、重要なことなのです」。
またこれまでの研究の改善を必要とする点としては、気候変動の直接的な影響にのみ焦点を当ててきたということもある。
本研究の著者たちは、生物群集への間接的な影響は、人間の自然資源利用の変化と同じく、生物種に重大かつ複雑な影響を与え、またしばしば、その影響自体がさらに影響を大きくすることもあるだろう、と指摘する。
人口の増加は、それ自体気候変動の影響をますます受けることになり、人間が気候変動へ順応するための対応が、生物多様性にも多大な悪影響を及ぼすおそれもある。
「また、気候変動に脆弱な生物種を評価するのに最も適した方法を選択し、実施する助けとなる、(現在準備を進めている)専門家向けのガイドラインを策定する上で、この論文は確かな根拠となります。さらに、生物多様性の気候変動への適応を進める方策を構築するために必須となる要素を提供するものでもあります」と、共著者でありICUN-SSCの気候変動専門家グループのWendy Foden共同議長は語る。
この論文「Assessing species vulnerability to climate change (気候変動に脆弱な生物種の評価)」は学術雑誌 Nature Climate Changed に掲載されている。
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