ヨーロッパの薬用植物が減少、2%が絶滅の危機に――IUCNレポート
和訳協力:池田 磯香、校正協力:山本 麻知子
2015年5月26日 IUCN News story
IUCN(国際自然保護連合)は、European Red List of Medicinal Plants((仮)ヨーロッパ薬用植物レッドリスト)を作成し、これによりヨーロッパに自生しているすべての主要な薬用植物の現状についての情報が初めて発表された。
この評価には、樹木、水生植物、着生植物を含む、広い生育環境を持つ400の維管束植物が対象となっている。
これらの植物の中には、一般的に広く用いられるArnica(学名:Arnica montana、アルニカ)、St. John's Wort(学名:Hypericum perforatum、セイヨウオトギリソウ)、Rosemary(学名:Rosmarinus officinalis、ローズマリー)、Common Heather(学名:Calluna vulgaris、ギョリュウモドキ)などが含まれる。
「我々が使用する処方薬の50%近くに、植物由来の自然物質が使用されています。ヨーロッパの野生植物には非常に多くの種類があり、我々の健康を何世紀にもわたって支えてきたのです」と、EU Commissioner for Environment, Maritime Affairs and Fisheries (欧州連合環境・海事・漁業担当委員)のKarmenu Vella氏は言う。
「これらの植物には極めて多様な使用法があり、その経済的価値は明らかです。また、我々がこの価値ある自然資本を保護する必要があることははっきりしています。最新の科学データにより、我々は、自らが正しい道を進んでいるかを知ることができるのです」。
「絶滅危惧種の割合は、他の種のグループと比れば比較的に低いです。健康管理の他、ハーブティーやスパイス、食品、栄養補助食品、化粧品など、広範に使用される薬用種の重要性を考えれば、これは概して良いニュースであると言えます」と、IUCNのGlobal Species Programme (グローバル種プログラム)の副代表のJean-Christophe Vie氏は語った。
「しかし、絶滅というのは、野生生物を保護しようとする際に我々が考慮しなければならない基準の一つにすぎません。1/3近くの種の個体数が減少しており、このことから、これらの植物の長期的な生存のために積極的な保護策が必要であることがわかります」。
この研究で評価の対象となった植物のうち、31%の種の生育数が減少していると考えられており、この中にはよく知られたアルニカやセイヨウオトギリソウも含まれる。
また、25%については傾向が把握できていない。
増加しているとわかっているのはわずか3%のみで、残りの42%は安定していると思われる。
評価により確認されたヨーロッパの薬用植物に対する主な脅威の中に、その薬効のため、また観賞用や園芸用の植物として販売するために行われる、野生個体の採取がある。
その影響は、絶滅危惧種や、Near Threatened(準絶滅危惧種)と評価された植物の約半分にあたる48%に及んでいることが判明した。
「野生個体の採取は、採取する人や採取した地域の人々の健康や生活に利益を与えますが、これを持続可能なものにするためには、適切な管理システムが必要とされるのです」と、IUCNレッドリストユニットのRegional Biodiversity Assessment Officer((仮)地域生物多様性評価官)であり、調査報告書の筆頭執筆者であるDavid Allen氏は語った。
「今ある野生個体の採取の管理の慣行を改善し、この分野における方針の枠組みを構築するため、野生植物の持続可能な管理と採取に関する方策を講じるべきです」。
宅地や商用地の開発による生育地の喪失、そして農業から被る影響も薬用植物に対する重大な脅威として確認された。
これらは、それぞれ絶滅危惧種の48%、準絶滅危惧種の67%に影響を及ぼしている。
そのため、さらなる生育地の喪失は植物の生存を脅かすことになるだろうと、この評価は示している。
たとえば、Pasque Flower(学名:Pulsatilla vulgaris、セイヨウオキナグサ)は準絶滅危惧種と評価された。
西ヨーロッパから中央ヨーロッパにかけて広く分布しているものの、その生育数は減少しており、生育地は分断されている。
牧草地の管理や土地利用の変化が主な脅威とされている。
セイヨウオキナグサは、ホメオパシー薬品や生薬として利用されている。
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