適応か死か:南アジアのハゲワシ保全に学ぶ
和訳協力:品川 暁子、校正協力:星子 啓子
2014年12月16日 IUCN Redlist News Release
SOS(Save Our Species)の助成を受けているAnanya Mukherjee氏にとって、dipstick technology(ディップスティック法:液体に浸けて、色の変化で液体の性質を判別する技術)からGPSが可能にした鳥類へのタグ取り付けによる調査への切り替えは、順応的管理の典型的な事例であった。
実際、ハゲワシ保護を目的とする大型プロジェクトは、この切り替えにより目標に向けて継続的に取り組むことが可能となった。
その目標とは、インド亜大陸における3つの効果的なVulture Safe Zones (VSZ:(仮)ハゲワシセーフゾーン)の創設である。
あなたは、ある計画をもつインドのハゲワシの保護活動家であると想像してほしい。
その計画は、VSZを創設し、そして残されたハゲワシの安全を十分に確保して、やがてはハゲワシが一団となって自然界の清掃係としての役割を再開できるよう再導入するというものだ。
しかし、物事が計画通りに進行しなかった場合、何が起こるだろうか。
自然からインスピレーションを受けてこんな風に言う者がいるかもしれない。
「適応か、それとも死か」!
VSZには、3万㎢にわたってジクロフェナク(非ステロイド性抗炎症薬)は存在しない、と公表されている。
ジクロフェナクは、古くから病気にかかった家畜の治療のために利用され、ハゲワシの仲間、中でも特に南アジア地域固有のGyps(シロエリハゲワシ属)のハゲワシにとっては大変有害であることもわかっていた。
1990年代以降、インドのハゲワシの個体数は97%減少した。
そのため、特にハゲワシの餌となる畜牛の死骸などを含む、イヌワシの食料供給源からジクロフェナをなくすことが、この鳥類の個体数回復の見込みに重要な意味を持つと見なされた。
インドでは、家畜へのジクロフェナクの使用は違法である。
しかしながら、ジクロフェナクは安価でかつ、人体に対してはまだ広範囲で使用されているため、メロキシカムのような、高価でより安全な薬への切り替えは難航している。
SAVE(Saving Asian Vultures from Extinction:(仮)アジアのハゲワシを絶滅から救う)プログラムの組織的な取り組みのおかげで、進捗はゆっくりだが着実に前進している。
さまざまな利害関係者と協議してハゲワシセーフゾーンを創設するプロセスと並行して、SOSの助成を受けているRSPB(英国王立鳥類保護協会)と協力者らは、ハゲワシセーフゾーン内のハゲワシがよく餌とする、家畜の死骸に含まれるジクロフェナクを検出するために、革新的な技術であるディップスティック法を利用するつもりであった。
しかしながら、試験結果は決して説得力のあるものではなかった。
ディップスティック法が信頼できないことが判明したため、ジクロフェナクの有無の確認は不可能となった。
したがって、将来的にハゲワシの再導入が成功する見込みは、さらに不透明となった。
「保全において、すべてを予測することはできないのです」、とプロジェクト中盤に直面したこの問題について詳しく話しながら、Ananya氏は強調した。
プロジェクトチームは数多くの選択肢を検討した結果、ジクロフェナクの有無を推測できる唯一の方法は、ハゲワシを選別する代わりに衛星通信型タグを付け、指定されたハゲワシセーフゾーン内にいるハゲワシの存在や健康状態を直接監視することであると結論付けた。
衛星通信型タグにより、プロジェクトチームはハゲワシセーフゾーンの鳥の活動や成長を追跡することができるようになるだろう。
しかし、野鳥にタグを付けることもまた理想的な解決方法ではない。
タグ付けは高額な技術で、政府の許可を必要とするのだ。
「結果として私たちは、タグ付けを開始する前にハゲワシセーフゾーンが実際に十分に安全であると確信する必要があります」と、Ananya氏は説明する。
ハゲワシセーフゾーンの安全性の確保は、効果的な普及啓発と政策提言活動に左右される。
これまでの成功に基づきAnaya氏は、「Vulture Safe Zones to save Gyps Vultures in South Asia((仮)南アジアにおけるシロエリハゲワシ属のハゲワシの保全のためのハゲワシセーフゾーン)」という表題の論文を、Bombay
Natural History Society(ボンベイ自然史協会)発行の雑誌「Mistnet」で発表した。
本質的に、この政策提言活動は、メロキシカムの使用を推進する一方で、ハゲワシセーフゾーンを環境計画に組み込むために、さまざまなレベルの利害関係者と常に関わっていくことである。
それと同時に、ジクロフェナクの売上傾向を追跡し、ハゲワシに安全なメロキシカムを選ぶよう伝えたメッセージが小売業者や農家に一様に届いているかを確認するために、薬局の定期調査を毎年実施している。
これまでの進捗に基づき、2015年にはハリヤナ州およびアッサム州で、その後ウッタルプラデシ州で数羽のハゲワシにタグを付け、そのほかの州でも後に続くことをAnanya氏は期待している。
「3つの異なる州には、4つの異なる社会政治的ダイナミクスがあるため、4つの異なるハゲワシセーフゾーンが必要である」ことを考えると、これは重大な一歩である。
しかし、この程度の細かいことはAnanya Mukherjee氏自身の目標達成を妨げることにはならないだろう。
SOSがより多くの種を保護するために
絶滅危惧種の保護には非常に重要な意味がある。
なぜなら、私たちが守っているのは私たち自身の生命維持システムだからだ。
ほんの数例だが、野生生物や自然は私たちに食べ物から燃料、雨風をしのぐ場所まで、たくさんの基本的な生活に必要なものをもたらしてくれるうえ、芸術、言語、デザインの分野でインスピレーションまで与えてくれるのだ。
現在、SOSは200を超える種を保護している。
引き続きより多くの自然遺産を保護できるよう、どうかSOSへ寄付いただきたい。
ニュースソース
http://www.iucnredlist.org/news/adapt-or-die-lessons-from-vulture-conservation-in-south-asia
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