最も知られざるチンパンジー、気候変動に脅かされる
翻訳協力:山本 真麻、校正協力:ジョンソン 雅子
2015年1月23日 WCS Press Releases
・ドレクセル大学、Wildlife Conservation Society(WCS:野生生物保護協会)、およびそのほかのグループが実施した新しい研究によれば、Nigeria-Cameroon chimpanzee(チンパンジーの亜種のナイジェリアチンパンジー)は、生息地の大半を今後5年以内に失う可能性がある
・気候変動が亜種に与える影響についての初めての研究である
将来の気候変動によって深刻な影響を受けると見られているのは、大型類人猿では人類のみではない。
ドレクセル大学やWCS、そのほかのグループが実施した新しい研究によると、チンパンジーのすべての亜種のなかで最も絶滅の危機に瀕しているナイジェリアチンパンジーは、今後5年以内に生息地の大半を失い、100年以内には個体数の半数を失う可能性があるという。
ナイジェリアチンパンジーの現在の生息地の大半が2020年までに衰退し、すでに密猟や森林伐採を始めとする様々な圧力に脅かされている、この珍しい大型類人猿の個体群に深刻な打撃を与えるであろうと、科学者らは予想している。
今回の研究は、気候変動がある亜種に与える影響を調査した初めてのものとなる。
本研究は、『BMC Evolutionary Biology(BMC進化生物学)』誌の最新刊にて発表された。
「ナイジェリアチンパンジーは、チンパンジーの全亜種のなかでおそらく最も研究されていない亜種でしょう。この種の分布と生息地についてこれほどまでに詳細に研究し、気候変動のもと、それがどのように変化するかの予測にそのデータを使用するのは、今回が初めてです」と、論文の第一執筆者であるドレクセル大学学士のPaul Sesink Clee氏は述べた。
「カメルーン中央部のサバンナ-森林地帯に生息しているナイジェリアチンパンジーが、最も性急に気候変動により脅かされており、さらに私たちが生きている間に生息地を完全に失うかもしれない、という結果には驚きました」。
「最も研究されていない種のひとつであるナイジェリアチンパンジーの、生息地域ごとに見られる違いを私たちは探り出しました。結果、今後およそ70年以内に、気候変動で生息地をほぼ完全に失うことにより、個体数の半分以上が非常に深刻な影響を受けることがわかりました」と、WCSの保全科学者で論文の共同執筆者でもあるFiona Maisels博士は述べた。
「これは国際社会に対する、気候変動の新たな警告でもあるのです」。
生息地に3,500~9,000個体がいるとされるナイジェリアチンパンジーは、一般的なチンパンジーの亜種のなかで最も研究されていないと同時に、最も絶滅の危機に脅かされている。
今回の研究チームは、遺伝子分析のための毛、糞のサンプルに加えて、ねぐらや道具などの他の情報についてもデータを収集した。
その結果明らかとなったのは、ナイジェリアチンパンジーの異なる2つの個体群の詳細な分布だった。
カメルーン西部の個体群は山地の熱帯雨林に生息し、一方で別の個体群は森林と疎林、サバンの混ざり合った場所(エコトーンと呼ばれる)に生息している。
研究チームは次に、この個体群のデータとその生息地の環境的特徴(気候、勾配、植生や樹木被率など)とを照らし合わせ、生息場所がナイジェリアチンパンジーの分布にどう影響を与えるかを割り出した。
国連のIntergovernmental Panel on Climate Change (IPCC:気候変動に関する政府間パネル)から提供された気候変動シナリオを使用し、2020年、2050年、2080年に気候変動のもと、各生息地がそれぞれどのように変化する可能性があるのかを予測した。
山地の熱帯雨林にある生息地は将来のシナリオの中では最も良い状態にある一方、エコトーンにある生息地は2020年までに減少し、2080年までには完全に消失する可能性があると論文執筆者たちは予測した。
この最悪のシナリオでは、ナイジェリアチンパンジーのおよそ半数が深刻な影響を受けると見られている。
執筆者たちは、この分析ではチンパンジーの個体群が持つ気候変動に適応する潜在能力については考慮していない、と注記している。
この論文が掲載される『BMC Evolutionary Biology』誌で、研究チームは論文をもう1本発表し、チンパンジーの個体群が遺伝子的な多様性を形作る際に、自然淘汰と環境変化がどう作用するかについて述べた。
WCSはナイジェリアチンパンジーの双方の個体群について研究、保全を進めている。
最大の個体群は、バン・ジェレム国立公園および数々の森林利権を有する地域を含む、バン・ジェレム景観に生息している。
この国立公園はカメルーンの森林省によって管理され、WCSおよびカメルーンの基金であるFEDEC(Foundation for Environment and Development in Cameroon:(仮)カメルーン環境・開発基金)から強力な技術的、経済的支援を受けている。
国立公園が創立され、WCSとFEDECの支援が始まって以来、バン・ジェレム内ではチンパンジーを含む野生生物の個体群の数は維持されているが、この並外れたエコトーンの生息地を効果的に管理し続けるという地球規模での保全の重要性が、今回の研究で強調された。
2番目に大きな個体群は、カメルーンとナイジェリアの国境付近、クロスリバー国立公園(ナイジェリア)とタカマンダ国立公園(カメルーン)の内部およびその周辺の、森林とエコトーンに生息している。
ここでもWCSがカメルーンおよびナイジェリア政府に対して主要な技術支援を行っている。
しかしこの地域のより多くの生息地が無計画な開発によって危機にさらされている。
また、人口が増加し、土壌が肥えているために、気候変動のもとチンパンジーの未来を守るという課題はいっそう重大なものとなっている。
論文の著者とタイトルは以下の通り:
『(仮)カメルーンおよびナイジェリアにおけるチンパンジーの個体数構造と気候変動下で失われる可能性がある生息地の変動との関連性』
Clee, P.R.S.、Abwe, E.、Ambahe, R.D.、Anthony, N.M.、Fotso, R.、Locatelli, S.、Maisels, F.、Mitchell, M.W.、Morgan, B.J.、Pokempner, A.A.、Gonder, M.K.
本研究は、Arcus Foundation(アーカス財団)、U.S. Fish and Wildlife(アメリカ合衆国魚類野生生物局)のGreat Apes Conservation Fund((仮)大型類人猿保全基金)を始めとする、パートナーの寛大な支援により実現したものである。
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