チリで絶滅危惧種のフンボルトペンギンが守られる
和訳協力:橋村 吾土子、校正協力:木田 直子
2015年1月27日 Island Conservation News
チリのIsland Restoration Project((仮)島嶼再生プロジェクト)が絶滅危惧II類のフンボルトペンギンと地元経済を救う
(仮)島嶼再生プロジェクトで外来種のアナウサギの駆除に成功
Chilean Forestry Corporation(CONAF:チリ森林公社)は国際NGOのIsland Conservation (アイランド・コンサベーション)と初めて手を組み、チリの島々の劣化した生態系を回復させる事業を行なう。
近ごろ実施した監視調査に引き続いて、両団体は今日、フンボルトペンギン国立保護区にあり、この種のペンギンの最大の個体群の生息地であるチョロス島で、外来種のEuropean Rabbit(アナウサギ)の駆除がうまくいっているという朗報を発表した。
外来種のアナウサギは、International Union for the Conservation of Nature(国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧II類とされるフンボルトペンギン(学名:Spheniscus humboldti)や絶滅危惧IB類とされるPeruvian Diving-petrel(学名:Pelecanoides garnotii、ペルーモグリウミツバメ)をはじめとした、島の環境にとって深刻な脅威だとみなされていた。
そしてこのことがまた、自然資源によって成り立つ観光事業(ネイチャーベースドツーリズム)のビジネスチャンスを狭め、地元住民の暮らしにも影響を与えていた。
現在、チョロス島にはこの有害な外来種がいなくなり、島の在来動植物が回復する機会が生まれている。
このプロジェクトは、この地域の島の生態系を回復させ、地元の海洋経済や観光経済、食の安全、住民の福祉、そして生物多様性や地域の自然遺産の保護を支援する、大々的な取り組みの根幹部分となっている。
「外来種駆除への取り組みは、自然資源を保護するために我が国が実施しなければならない重要な行動です。今日私たちは評価すべき成果をご報告し、アナウサギの駆除に関する技術的な課題を克服したことをお見せします」と、CONAFのコキンボ州の代表であるLiliana Yanez氏は説明した。
「今後は、チョロス等と同じくフンボルトペンギン国立保護区の一部であるチャナラル島のような他の島々でも、この成功を繰り返していかなければなりません」。
島の生態系の回復
外来種のアナウサギが最初にチョロス島に持ち込まれたのは、開拓者たちが島に入植した際に便利な肉資源を確保しようとしたためだった。
1990年に保護区が制定され、開拓者は本土に移住したが、外来種のウサギは島に残された。
島に残った外来種のウサギは、海鳥の巣穴を占領してその個体数を減少させ、土地の浸食を進め、植生を食い荒らした。
CONAFとアイランド・コンサベーションは、地域コミュニティの代表者や科学者の支援を受けて、2013年7月に、害を及ぼしているアナウサギの駆除を開始した。
荒海、苛酷な太陽、強風、濃霧などの激しい気象条件にもまれながら、プロジェクトチームがこの招かざる侵入者を生態系から排除するための努力を重ねるうちに歩いた距離は2,500kmを超えた。
近ごろチョロス島のモニタリング調査に行ったところ、島には現在、外来種のアナウサギがいないことが確認された。
初期の観察では、早くも島に変化が起こり始めているように思われる。
広範囲にわたって植物が順調に芽を出し、丘の斜面はAlstroemeria philippii(チリで絶滅が危惧される希少なユリズイセン属の在来植物種)で覆われ、ペルーモグリウミツバメがかつてのウサギの巣穴で巣作りの場所を探しているのを、科学者たちは目にした。
「この島は、外来種による被害を被ってきた珍しい種が存在する、重要な生態系の一部です」と、アイランド・コンサベーションのプログラムマネージャー、Erin Hagen氏は語る。
「これからは、浸食の減少、島の在来動植物の増加、エコツーリズムにとっての利益の享受など、外来種のアナウサギを駆除した結果もたらされる、好ましい変化を目にし続けるでしょう。この保護区で生物多様性や自然資源を守ることは、地元コミュニティの多角的な収入を支援し、自然資源の減少や気候が不安定な将来に直面したときの回復力を強化することにつながるでしょう」。
Local Conservation Group(地域保全グループ)代表のJulio Veliz氏も同様に語る。
「もっと海鳥が増えれば、保護区を訪れる人たちの観察の機会も増えるでしょう。来訪者が増加すれば、地元の観光業者のビジネスチャンスも多くなります。そうなれば、地元の観光業者の収入が増え、毎年訪れる何十万人もの観光客に食事や宿泊施設を提供する地元の町(プンタ・デ・チョロス)の小売店主、ホテル経営者、レストラン経営者らのビジネスチャンスが生まれるのです」。
Veliz氏はこう説明する。
「ウサギの集団を除去すれば在来植物に対する採食圧がなくなり、そのため植物が繁茂し、土壌が安定して、沿岸の環境に悪影響を与える土壌浸食を最低限に抑えられるようになります。沿岸環境に流れ込む土壌が少なくなれば、海洋生態系が今より健全になり、生産性が高まります。その結果、アワビや藻類などの海産物が増え、漁師やその家族の生活を支えてくれるでしょう」。
動植物保護のための強固な協力体制
チリ、アメリカ合衆国、オーストラリアの外来種の専門家たちが、CONAFの3つの州の保護区監視員や専門家と緊密に協力して、このプロジェクトを成功に導いた。
Bell Laboratories(ベル研究所)、David and Lucile Packard Foundation(デイヴィッド&ルシール・パッカード財団)、National Fish and Wildlife Foundation(国立魚類野生生物財団)、Patagonia(パタゴニア)とMitsubishi Foundation for the Americas(三菱商事米州財団)の手厚い支援によって、コキンボ州のCONAFが保護区設定以来実施してきた中でも、最も重要な保護活動が可能に
なった。
チリの保護区内にある島から外来種を駆除しようとする、この10年以上で初のプロジェクトなのだ。
「1912年以降、同様の外来種アナウサギを駆除する75以上のプロジェクトが成功してきました。また、チョロス島から学んだ教訓は、世界中の未来の島嶼再生プロジェクトの手引きとして役に立つはずです」と、アイランド・コンサベーションのHagen氏は述べた。
チョロス島は、絶滅危惧IB類のペルーモグリウミツバメが巣を作る、チリではたった4島しかない営巣地の1つであり、絶滅危惧II類のフンボルトペンギンも約2,000のつがいが営巣する。
チョロス島では3㎢がフンボルトペンギン国立保護区内に位置し、チリ本土の海岸からわずかな距離に位置している。
保護区に指定されているのは、チャナラル、ダマス、そしてチョロスの3島だ。
チリ・コキンボ州のラ・セレーナの北約100kmに位置し、総面積は約8.6㎢である。
ニュースソース
http://www.islandconservation.org/vulnerable-humboldt-penguin-protected-in-chile/
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