2014年世界サイの日: プレトリア大学によるサイの生き残りにかける戦いを援助するための調査研究
和訳協力:蔦村 的子、校正協力:安東 美樹子
2014年9月22日 African Conservation Foundation News
9月22日の世界サイの日は、Black rhinos(クロサイ)、White rhinos(シロサイ)、Greater One-Horned rhinos(インドサイ)、Sumatran rhinos(スマトラサイ)、Javan rhinos (ジャワサイ)の5種類のサイが、絶滅の危機に瀕することなく、野生で自由に生きることを祝う日である。
これは、WWF(世界自然保護基金)の南アフリカ事務所が、密猟が増え始めた2010年に始めたものであり、それ以来、このような動物を守ることに力を尽くしている世界中の人々や組織をつなぐ、国際的なイベントとなっている。
この日は祝うことを目的としたものだが、一方で明確な事実として、南アフリカでは1日に3頭のサイが密猟され、命を落としている。
これは、2020年までには野生のサイがいなくなる比率なのだ。
University of Pretoria(UP:プレトリア大学)獣医学部のGerhard Steenkamp博士は、これは単なる密猟問題の域を超えていることを世界は理解すべきだ、と述べている。
今日、犀角(サイカク:サイの角のこと)は最も高価な商品として取り扱われている。
「これは組織犯罪であり、しかも私たちはこの戦いに負けているのです」と氏は言う。
しかしプレトリア大学は、野生のサイをその悲劇的運命から救う試みの中で、ほとんど知られていないこの種ついてさらに深く知ろうと尽力している。
プレトリア大学は、南アフリカで唯一獣医学部を持つ大学であり、密猟者の襲撃からサイを守り、残忍な行為から生き残ったサイを治療するための調査研究において、重要な発見をしてきている。
このサイをめぐる国際的な戦いの中で、プレトリア大学の専門知識がどのようにしてサイを守れるかということを考慮し、同大学のVeterinary Genetics Laboratory(VGL:獣医遺伝学研究所)は、犀角からのDNA鑑定の方法を確立した。
現在では、サイの密猟に関係する、犀角やその他の証拠品の所時にまつわる事件で、この技術が裁判の証拠として使われている。
密猟者や犀角の密輸業者への厳しい禁固刑判決を下す際、画期的なものであることが分かったのだ。
そしてその場合、最長29年の禁固刑が言い渡されることになる。
獣医遺伝学研究所のCindy Harper博士は、サイの個体ごとのDNA型のデータベースを開発し、Rhino DNA Index System (RhODISR:(仮)サイDNAインデックス・システム)と名付けた。
FBIが持っている人間のDNAデータベースであるCODISから取った名前である。
RhODISRは、現在生きているサイと密猟されたサイ、加えて保存してあった角から採取したDNA型を収集しており、再生した犀角や、密猟された動物を特定する証拠の追跡を補助するために利用されるのだ。
驚くべきことに、0.1mgにも満たない角があれば、密猟者の犯行の裏付けに必要な証拠として十分である。
南アフリカのDepartment of Environmental Affairs(DEA:環境省)は、このプレトリア大学の発見を契機に法の改正を行った。
密猟されたサイや、動けなくなったり死んだりしたサイから、RhODISRキットを用いてサンプルを集めることを義務付けたのだ。
採集したサンプルはすべて、RhODISRのデータベースへ入れるために、獣医遺伝学研究所に提出しなければならない。
獣医遺伝学研究所はまた、国際的な関連組織、South African Police Service(SAPS:国家警察局)の捜査官、検事、政府の環境捜査組織であるGreen Scorpions、獣医師、および野生生物担当者に対して、RhODISRの操作手順に関するトレーニングも行っている。
このプレトリア大学が生み出した成果は、CITES(The Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora:「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、通称「ワシントン条約」)事務局からも、野生生物製品の追跡や、国際的な野生生物犯罪を引き起こす犯人の起訴に役立つものとして認められてきた。
このデータベースには、南アフリカのほかにナミビア、マラウィ、およびケニアなど、他のアフリカ諸国に生息するサイのDNA型や標本も含まれている。
Harper博士は最近インドを訪問した際、同国のインドサイのデータを、RhODISRに載せるように働きかけた。
「世界中のすべてのサイの情報をひとつのデータベースにまとめることに価値があります。世界中の犀角は最終的に、同一の消費国に送られるのですから」とHarper博士は語った。
プレトリア大学の獣医であるGerhard Steenkamp博士とJohan Marais博士は、研究室から現場に出て、サイの解剖学という未知の領域の研究にも多くの時間を費やした。
サイの薬物に対する反応、密猟者の攻撃から生き残ったサイを治療する際に使う治療器具などはもちろんのことだ。
プレトリア大学の獣医の専門知識のお陰で、サイの治療に関しての素晴らしいチームワークを作りあげることができた。
Steenkamp博士は、顎の外科手術を専門としていたし、Marais博士はウマ科動物の外科手術に通じていた。
Marais博士はこう説明する。
「すべての哺乳類の中で、サイとウマは、最も近い関係にあると思います」。
Steenkamp博士の経歴は、角を切り落とされてできた顔面の外傷治療に特に役に立った。
しかし、2人は現場で活動を始めてすぐに、南アフリカでの密猟が指数関数的に増加した後には、この種を救うためにさらにしなければならないことがどれだけ沢山あるかを認識した。
そしてSaving the Survivors((仮)生き残ったサイを救え!) プロジェクトを立ち上げた。
幸運だったのは、プレトリア大学の学者は調査研究に時間を割けたたことで、最も効果的かつ効率的にそのような怪我を治療する方法を見つけることに専念できた。
他の獣医からの質問をもとにして多くの調査研究が行われた。
加えて、South African Veterinary Association (SAVA:(仮)南アフリカ獣医協会)を通じて、サイに関する年次ワークショップが、国中のすべての地域で開催される。
これは、サイに関わる獣医たちが一堂に会し、その経験と専門知識を分かち合う機会でもある。
「私たちの活動は臨床的に行われています。私たちが調査研究はすべて、すぐに現場で応用することができ、他の獣医にも利益を与えられるものです。私たちは、より多くの人がこの非常に深刻な問題に取り組んでくれるように、他の人たちに向けた訓練をしたいのです」と、Steenkamp博士は述べた。
サイの顔面の外傷をいくつか治療してきた結果、今では傷をきれいにして傷を覆う上手い治療法を彼らは手にした。
ガラス繊維をベースにした包帯をしっかり固定することで、サイが近くの木でこすって、包帯をはずすことができないようにするのだ。
サイの体組織は驚くほどによく回復するのだが、大きくポッカリと口を開いた傷口は、治るのに長い時間がかかる。
傷ついたサイを毎日治療することは不可能なので、研究者は6週間ごとに交換しさえすればいい素材を探さなければならなかった。
しかし、こうしたDNAによる個体識別や追跡調査、また傷ついたサイの治療のようなすばらしい取り組みにもかかわらず、サイの密猟は増え続けている。
769頭のサイが今年に入ってすでに密猟され、2010年以来では3,231頭が殺されており、解決法を見つける時間はなくなってきている。
Harper博士は、この種を絶滅から救うために抜本的な解決法を見つけなければならない、と言う。
Steenkamp博士とMarais博士は、「人間の爪ほどの価値しかないもの注)への欲による馬鹿げた戦いにおいて、南アフリカのサイが今日直面している最大の課題は、資金と時間が不足していることです」と述べた。
2014年世界サイの日にあたり直面している現実は、悲しいことに、この威厳のある動物に対する祝福ではなく、将来に関する重大な懸念である。
注:犀角の主成分は人間の爪と同じケラチン
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