絶望から修復へ―カリブ海サンゴの劇的衰退を覆す可能性
和訳:コスキー・福田 志保、校正協力:鈴木 洋子
2014年7月2日 IUCN News story
Global Coral Reef Monitoring Network(GCRMN:地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク)、International Union for Conservation of Nature(IUCN:国際自然保護連合)、United Nations Environment Programme(UNEP:国際連合環境計画)による最新報告によると、元のサンゴ面積のおよそ1/6のみを残し、カリブ海のサンゴ礁の大半は、主にこの地域に草食動物がいなくなったことが原因で、20年以内に姿を消す可能性がある。
報告書『カリブ海のサンゴ礁に関する現状と動向:1970~2012年』は、今までに公開されたこの種の研究では最も詳細かつ包括的なもので、3年間にわたる90人の専門家の研究結果をまとめたものである。
この研究は、サンゴ、海草、草食性のウニや魚の調査を含め、1970年以降にカリブ海の90箇所で行われた35,000件以上の調査を分析したものである。
カリブ海のサンゴは1970年代以降50%以上減少しているという結果が出ている。
しかし著者らによれば、ブダイ類の数を元通りに増やし、また乱獲や非常に深刻な沿岸域の汚染からサンゴ礁を守るといった、そのほかの管理戦略を改善すれば、サンゴ礁が元の状態に修復され、将来気候変動の影響を受けた場合の回復が早くなる、とのことである。
「カリブ海のサンゴの減少率はまさに憂慮すべき状況です」とICUNの(仮)世界海洋・極地プログラムのディレクターであるCarl Gustaf Lundin氏は述べている。
「しかしこの研究により、非常に励みとなることももたらされました。カリブ海のサンゴの運命は私たちの手に負えないものではなく、回復に役立てられる具体的な対策がいくつかあるのです」。
気候変動は長い間、サンゴ劣化の主な原因として考えられてきた。
海洋を酸性化させ、サンゴを白化させることで深刻な脅威となってきたとしても、本報告書は、実際にはこの地域の二大草食動物であるブダイとウニがいなくなったことが、この地域のサンゴ減少の主な引き金になったと指摘する。
1983年に、原因不明の病気によってウニが大量に死滅し、20世紀の間ずっと行われた乱獲のため、ブダイが絶滅の危機に瀕する地域も出てきた。
こうした種の減少により、繊細なサンゴ礁の生態系バランスが崩れ、それらの種の餌である藻類がサンゴ礁を覆いつくすようになった。
著者らによれば、乱獲や、深刻な沿岸域の汚染や観光、沿岸開発などのそのほかの脅威から保護されたサンゴ礁は、気候変動の影響から回復しやすいということである。
「もし明日、気候変動を何らかの形で消滅させることが可能であるとしても、このサンゴ礁は衰退し続けるでしょう」と、この報告書の筆頭著者で、IUCNのサンゴ礁事業の上級顧問であるJeremy Jackson氏は言う。
「将来起きる気候変化にもサンゴ礁が生き残れる可能性を求めて、私たちは直ちに食草の問題に対処しなくてはなりません」。
また報告によると、カリブ海でも最も健全なサンゴ礁のいくつかは、草食性のブダイの活発な個体群が生き残っている地域だということである。
メ
キシコ湾北部のFlower Garden Banks National Marine
Sanctuary(フラワー・ガーデン・バンクス国立海洋保護区)、バミューダやボネールなどがこうした地域で、そのすべての場所で罠を仕掛けたり、銛
や水中銃などを使ったりした漁など、ブダイ類に危害を与える漁法が制限または禁止されている。
他の国々も同様の措置を取っている。
「バービュダは近々、ブダイ類や草食性のウニの捕獲すべてを禁止し、沿岸水域の1/3を海洋保護区にする予定です」と、新しい管理計画の開発でバービュダに協力中のWaitt InstituteのBlue HaloイニシアティブのAyanaJohnson氏は言う。
「これは、カリブ海のサンゴ礁の回復力を増大させようとするなら、地域で再現する必要がある積極的管理のようなものです」。
ジャマイカ、米国のマイアミからキーウェストに広がるフロリダ・サンゴ礁地帯全体、米国領ヴァージン諸島を含め、ブダイ類の保護が行われていない場所のサンゴ礁は、悲劇的な減少に苦しんでいる。
カリブ海には世界のサンゴ礁の9%が存在しており、地球上で最も多様な生態系の一つである。
合計38カ国にまたがるカリブ海のサンゴ礁は、地域経済に不可欠である。
観光業と漁業で年間約30億円以上、そのほかの商品やサービスでは、その100倍以上の収益を生み出しており、4300万人を超える人々がそれに依存している。
IUCNパートナーからの引用:
「サンゴの衰退は、気候変動がサンゴ礁に影響を与え始めるずっと前に始まっていました」とTerry Hughes氏は述べている。
彼は、ブダイがいなくなることによって現在の問題が起きることを予測した1994年研究報告書の著者である。
「草食性のブダイ類の活発な個体群が、最も健全な状態にあるカリブ海のサンゴ礁の共通の特性であることが、この報告書により確認されました。こうした『回復力のあるサンゴ礁』では、地元の手厚い保護が厳重に行われているため、カリブ海全体での平均サンゴ面積が14%であるのに対し、その2倍あるいは3倍の面積に広がっています」。
「サンゴ礁が存在し続けるために極めて重要なブダイ類の個体群は、経済的にも生態学的にも非常に価値が高いにも関わらず、消滅しつづけています」と、UNEPのサンゴ礁チーム代表のJerker Tamelanderは言う。
「我々は、カリブ海諸国にサンゴ礁を守るために共に活動し、カリブ海のサンゴ礁危機に共同責任を持つよう要請している」。
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