サメの専門家らが、世界で一番大きくて危機に瀕しているエイの個体数の回復を優先させる
2014年6月5日 IUCN Redlist News Release
和訳協力:村田 幸代、校正協力:稲垣 語祐
International Union for Conservation of Nature(IUCN:国際自然保護連合)のShark Specialist Group(SSG:サメ専門家グループ)は、ノコギリエイの絶滅を防ぎ、個体数の回復を目指す世界戦略を発表した。
ノコギリエイは乱獲や生息地の消失により世界中で壊滅的な状況だ。
戦略がダーバンでのSharks Internationalの会議で動き始めたのと同時に、西アフリカの二国─ギニアとギニアビサウ─は、ノコギリエイを11月にConvention on Migratory Species(移動性野生動物の種の保全に関する条約、通称「ボン条約」)の指定種に加えるよう求めており、保護活動が大きく加速しそうだ。
「ノコギリエイは何千年もの間、世界中の沿岸文化において崇拝されていましたが、現在ではほかのどんな科の海水魚より深刻な絶滅の危機に瀕しています」と、戦略の共著者のNick Dulvy博士は言う。
博士はブリティッシュコロンビア州(カナダ)のサイモンフレーザー大学のCanada Research Chair(カナダ政府の研究専門の教授ポスト)で、IUCNのサメ専門家グループの共同議長でもある。
「この包括的な戦略では、ノコギリエイへの敬意を再燃させると同時に保護活動を活性化し、手遅れになる前にこの象徴的な種を絶滅の縁から連れ戻すことを目指します」。
ノコギリエイ─水温の高い地域に生息するサメに似たエイ、長いのこぎりの歯状の吻が特徴─はエイの中で最も大型で、7mに達するものもある。
かつては90カ国以上もの熱帯・亜熱帯地域の沿岸海域や河川に分布していたが、今では全5種がすべて、絶滅危惧種に関するIUCNレッドリストの絶滅危惧IB類、もしくは絶滅危惧IA類に指定されている。
ノコギリエイを狙ったにしろ、偶然にしろ、漁業がノコギリエイの主な脅威である。
獲物を見つけ、攻撃するのに使う吻状の突起が、さまざまな形状の漁網、特に底引き網や刺し網によく絡まるのだ。
マングローブのような主要な生息環境が破壊されていることも、ノコギリエイの生息に影をおとしている。
「これらの種は多くの地域で絶滅の危険度が高まっていますが、とてもシンプルな方法で個体数の回復が図れるのです。たとえば、適切な処置をすればノコギリエイ
は捕獲されても元気に生き延びられることが分かっているので、営利目的や、生活のため、また娯楽のために漁をしている人々への基礎的な教育を、保護戦略で
は重要な位置に置いています」と、IUCNのサメ専門家グループの共同代表、Colin Simpfendorfer博士は言う。
博士はクイーンズランド州(オーストラリア)、ジェームズクック大学環境科学科の教授であり、フロリダのSmalltooth Sawfish(Pristis pectinata:スモールトゥース・ソーフィッシュ)の状況を改善したアメリカの回復計画の指揮も行った。
ノコギリエイの国際商取引を禁止する現行の規制が効力を発揮するために、戦略では、国や地域による次のような行動が必要だとしている。
それは、国際的にノコギリエイを殺すことを禁じること、意図されず捕獲されたノコギリエイの死亡率を最小限に抑えること、ノコギリエイの生息地を守ること、そしてこのような対策を効果的に行えるよう取り計らうことだ。
戦略の資料にはさらに、効果的なコミュニケーション、能力育成、戦略的研究、管理責任についての方策や、この戦略を実行するための資金調達についても書かれている。
「この十年で、ノコギリエイの保護政策はいくつかの国で、あるいは地球全体で大いに進展してきました。しかし、この素晴らしい動物を保護するためには、さらなる行動が至急必要なのです」と、IUCNのサメ専門家グループの副代表、Sonja Fordham氏は語る。
Sonja
Fordham氏はThe Ocean
Foundation((仮)オーシャン財団)のプロジェクトのひとつで、ワシントンD.C.を拠点としたShark Advocates
International(シャーク・アドボケイツ・インターナショナル)の代表でもある。
「ギニアビサウとギニアがボン条約の指定種にノコギリエイを加えるよう申請することを、たいへん喜ばしく思っています。というのは、この条約が、優先的に取り組むべきノコギリエイが生息する多くの地域において、国内での保護政策を推進するための、また我々の地球レベルの戦略を地域単位で行う際の、優れた枠組みを示してくれるからです」。
この計画は2012年のサメ専門家グループワークショップの成果である。
ワークショップでは、世界のサメ専門家が、地球全体でのノコギリザメ保護の展望、目標、優先度の高い活動について理解を深め合った。
資料にはノコギリザメの生態、分布、文化的価値、搾取の歴史、現在の脅威、地域ごとの状態評価、権威ある機関から認められた保護政策についての情報も記されている。
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