ホッキョクグマのボン条約附属書IIへの追加の提案―その2
和文協力:清田 美弥子、校正協力:木田 直子
2014年11月6日 UNEP/CMS/COP11/Doc.24.1.11/Rev.2より抜粋(10~12ページ)
3.4 国内外における利用
生息地の破壊により、いくつかの亜個体群では利用と取引の影響が悪い方向に拡大するだろう(Aars, Lunn et al. 2005年)。
そのため、生息地各国では、捕獲量調整のための情報を提供するにあたって、科学的かつ伝統的な知識に基づいた順応的管理戦略の重要性を強調している(Declaration of the Responsible Ministers of the Polar Bear Range States(「(仮)ホッキョクグマ生息諸国担当大臣による宣言)、2013年12月4日」参照)。
Polar Bear Specialist Group(PBSG:ホッキョクグマ専門家グループ)は、決議(IUCN Polar Bear Specialist Group 2006)を通じて、温暖化の進む北極圏という環境で、捕獲制限を設定する際には、予防的なアプローチをとるよう要請した。
北極圏では、捕獲やさまざまな形での駆除が持続可能なレベルを超えることがないよう、継続的な努力が必要となっているのだ。
3.4.1 捕獲
ホッキョクグマ(学名:Ursus maritimus)は、その生活史の特性により乱獲の影響を受けやすい。
歴史的に見ても、無秩序な狩猟は多くの亜個体群の深刻な個体数の減少をもたらしてきた(Prestrud and Stirling 1994)。
1973年に生息国全5か国が調印したPolar Bear Agreement((仮)ホッキョクグマ合意)では、許容される捕獲を、「地域住民が昔ながらの権利にのっとった伝統的手法を用いて」、「それまで国民が伝統的な手段で捕獲を行ってきたか行ってきた可能性のある地域」で行うものに限定した。
しかしながら、この協定は「捕獲により得られた皮やその他の価値のある部位」を「商業目的に利用」することは認めている。
ノルウェーの北極圏やロシアでは、ホッキョクグマは問題になっている場合や正当防衛による殺害を除き、あらゆる形式での捕獲から保護を受けているが、ロシアでは密猟が保護対策上の深刻な問題になっている(Belikov, Boltunov et al. 2010)。
グリーンランド、アメリカ合衆国、カナダでは、ホッキョクグマの合法的な捕獲が行われている。
これら3つのいずれの国でも、ホッキョクグマは生計を立てることを目的として捕獲されており、捕獲したクマから制作した工芸品の売買は、国の法律で許可されている。
ホッキョクグマの部位の国際取引(例、皮や科学的な標本)は、CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称「ワシントン条約」)の附属書Ⅱで認められている。
3.4.2 生け捕り
子グマの捕獲も、生息地全域で禁止されている。
親を亡くした少数の子グマは、公共の展示施設に連れて行かれる(Schliebe, Wiig et al. 2008年)。
3.4.3 合法的な取引
ホッキョクグマの部位や製品の国際貿易は、北極圏の地域社会にとって、文化的、社会的、経済的に重要だ。
2005年から2009年にかけて取引されたクマは、年間平均400頭に上る。
取引された製品には、彫刻、頭蓋骨、皮や爪が含まれ、その一部は科学的資料として、まだ生きているクマから採取されたものだ(Shadbolt et al. 2012)。
CITESは国際取引関連の問題に取り組んでいるほか、2014年にはSignificant Trade Review Process((仮)大型取引評価プロセス)を開始した。
ホッキョクグマをいずれかのCMS(移動性野生動物の種の保全に関する条約、通称「ボン条約」)附属書に掲載するにあたっては、この進行中の活動と全面的に協力するべきだ。
3.4.4 エコツーリズム
観察や写真撮影はまた別の利用形式であり、カナダのチャーチル、ノルウェーのスバールバル諸島、それに限定的ながらアラスカの北部海岸で行われている(Schliebe, Wiig et al. 2008)。
エコツーリズムの増加はホッキョクグマに大きな影響を与える可能性がある。
特に、人気が高まりホッキョクグマが探し求められることによって海氷の状態が変化したり、ホッキョクグマの分布や栄養的ストレスが生じたりした場合には、影響が懸念される(Schliebe, Wiig et al. 2008; Vongraven and Peacock 2011)。
クルーズ客船の数が増え、また航行範囲がホッキョクグマのいる地域をさらに北へ入り込むように拡大する可能性もある。
増加する観光の潜在的効果には、環境汚染、環境の攪乱、正当防衛による殺害リスクの増大が含まれる(Lunn, Vongraven et al. 2010)。
2009年のIUCN(国際自然保護連合)ホッキョクグマ専門家グループの会合で、生物学者たちは、北極圏を対象とした、観光事業関連の攪乱を最小限にするための、拘束力のあるガイドライン、抑止訓練や教育資源の起草を要求した(Obbard et al. 2010)。
最近の緩和策には、安全性を最大限に、ホッキョクグマへの妨害を最小限にするためにAssociation of Arctic Expedition
Cruise Operators(北極探検クルーズオペレーター協会)が作成した、観光業者と観光客対象の規則が挙げられる。
3.4.5 人間の手による殺害
人間の手による殺害には、捕獲されたクマ(合法的な捕獲許容量に基づく)、生命または財産を守るために正当防衛として殺されたクマ、研究活動の一環として殺されたクマ、人道的な殺害、事故などが含まれる。
人間の手で殺害された亜個体群の5年間の平均値を、チュクチ海から時計回りに以下に示す。
チュクチ海:不明(PBSG 2013)
ラプテフ海:不明(PBSG 2013)
カラ海:不明(PBSG 2013)
バレンツ海:不明(PBSG 2013)
東グリーンランド:60 (PBSG 2013)
デービス海峡:96 (PBSG 2013)
バフィン湾:156 (PBSG 2013)
ケーン海盆:11 (PBSG 2013)
Norwegian Bay(カナダ):4 (PBSG 2013)
ランカスター海峡:85 (PBSG 2013)
ブーシア湾:74 (PBSG 2013)
フォックス湾:109 (PBSG 2013)
ハドソン湾南部:45 (PBSG 2013)
ハドソン湾西部:20 (PBSG 2013)
マクリントック海峡:3 (PBSG 2013)
バイカウントメルヴィル海峡:7 (PBSG 2013)
ボーフォート海北部:65 (PBSG 2013)
ボーフォート海南部:76 (PBSG 2013)
北極海盆:不明(PBSG 2013)
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