ウスズミハヤブサの保全関係者が南北で協力
翻訳協力:官澤 彩、校正協力:米倉 あかね
2013年12月3日 CMS News
Peregrine Fund(ペレグリンファンド)が提起した「Sooty Falcon(ウスズミハヤブサ)保護活動家をつなぐ南北の協力」プロジェクトは、2012年の年間CMS(「移住性野生動物の種の保全に関する条約」、通称「ボン条約」)小額助成プログラムに承認された。
同プロジェクトの目的は、ウスズミハヤブサが繁殖するオマーンと越冬地マダガスカルの専門家同士の協力関係を構築し、両国で継続的な協働を図るための戦略を推進することにある。
ウスズミハヤブサ(学名Falco concolor)は、優雅でほっそりとした輪郭を持つ中型のハヤブサ属の鳥で、その羽毛は年齢によって変わる。
成鳥は身体全体が中間色の灰色で、色の濃い初列風切羽と尾端を持つのに対し、若鳥の頭部はこげ茶で、幅の広い頬線があり、腹部は淡い黄土色や茶色で、黒っぽい太縞がある。
ウスズミハヤブサの生態はほとんど知られていない。
オマーンの生物学者たちは、オマーンには全世界の繁殖集団のうち15%がいると考えている。
予備的な分析によると、1978年から2007年で、オマーンのウスズミハヤブサの集団は、約15%減少したことが示唆されている。
2008年にはICUN(国際自然保護連合)が、ウスズミハヤブサの保護状況を「準絶滅危惧」に格下げした。
Office for Conservation of the Environment(OCE、(仮)環境保護局)は、ウスズミハヤブサに関するデータの欠如に対応するため、年次調査2件、衛星追跡、汚染物質の分析、DNA分析、食性解析、行動分析を通じて、ウスズミハヤブサを研究している。
マダガスカルでは、調査の結果、マダガスカルの人々がほとんどウスズミハヤブサについて知らないことがわかった。
飛んでいる時には、ほかのkestrel species(チョウゲンボウ類)と混同されている。
つまり、多くの人はウスズミハヤブサが渡り鳥であることも知らず、また、どこに生息し、マダガスカルにいつ到着して、いつ旅立つかという知識もなかった。
マダガスカルが、非繁殖期の主要な越冬地であるにもかかわらず、同地でウスズミハヤブサに関する研究は全く行われていなかった。
渡り鳥であるウスズミハヤブサは、中東および北東アフリカで単独で繁殖し、冬には主にマダガスカルで過ごすが、一部は東南アフリカへと向かうものもいる。
オマーン、サウジアラビア、エジプトは重要な繁殖地だ。
7月下旬から繁殖期が始まり、11月には渡りの季節が始まる。
ウスズミハヤブサは、繁殖期には主に小鳥を餌とするが、冬を過ごすマダガスカルでは、飛翔昆虫が重要な食糧となる。
ウスズミハヤブサは、CMSのMemorandum of Understanding on the Conservation of Migratory Birds of Prey in Africa and Eurasia (Raptors MOU、(仮)アフリカおよびユーラシアにおける猛禽類の渡り鳥保護に関する了解覚書」)のカテゴリーI(世界的な絶滅危惧種および準絶滅危惧種)に指定されている。
猛禽類の了解覚書に関する調整ユニットは作業部会を設置し、ウスズミハヤブサのためのInternational Single Species Action Plan for the Sooty Falcon(国際単一種行動計画)の開発を監督している。
この共同研究の狙いは、繁殖期と非繁殖期の両方の情報を収集し、そうすることで、両地域の研究者を結びつけることである。
収集した情報は、保全行動計画の起草と、鳥類の年間を通じた生態学的な必要要件をしっかりと把握するために用いられる。
最初のプロジェクトは、マダガスカル人の生物学者2名によるオマーンでの野外調査を中心に行われ、終了した。
現地調査は、2013年9月27日から同年10月9日まで、オマーンのFahal Island(ファハル島)で行われた。
この調査を実施したのは、ペレグリンファンドのマダガスカル・プロジェクトからきたマダガスカル人の生物学者2名と、(仮)環境保護局のオマーン人生物学者5名とMike McGrady博士だ。
ファハル島は目を見張るような石灰岩の島で、小さな島だが、巣作りをするウスズミハヤブサが密集している。
急こう配の石灰岩の構造で、上陸できる場所がほとんどないことから、立ち入りは極めて困難であるものの、ウスズミハヤブサにとっては格好の巣づくり環境となっている。
島への進入は制限されており、オマーン王国警察に上陸許可を申請しなければならない。
島の400mの頂からは、ハヤブサ類が狩りをし、獲物を持ち帰る光景が良く見える。
衛星タグをぴったり装着させるのは、タグが通常の動きや行動を妨げないようにする意味で重要だ。
ファハル島での現地調査は、午前5時30分から午前11時と午後3時から午後5時30分に行われた。
我々は、ファハル島で育ったウスズミハヤブサの若鳥たちに、9.5gの重さの背負い型の小型太陽電池PTT(platform transmitter terminal、つまり衛星タグ)5つを取り付けた。
島で接近可能な巣をいくつか調査し、飛行中の鳥の数を数えた。
巣を調査中に、すべてのひな鳥を調べた(体重測定、足輪装着、汚染物質分析用とDNA分析用の血清検体採取)。
またこの現地調査によって、Haya Water(国営企業ハヤ・ウォーター社)が管理しているAl Ansab湿地帯でも、ほかの鳥類を観察する機会を得た。
調査は、午前8時30分に始まり、午前10時30分ごろに終了した。
観察したすべての種を記録し、撮影した。
今回の現地調査中に、湿地帯を2回訪問した。
都市のゴミ集積場で2度調査した時にも、同じ技術を用いた。
そこでは、ハゲワシ類やほかの猛禽類が観察され、この場所を利用している腐食性鳥類の数を確認した。
ファハル島では、推定40の巣を占有している69羽のウスズミハヤブサと遭遇した。
40あるうちの6つの巣に、生後5日から3週間になる12羽のひな鳥がいた。
ほとんどの若鳥はすでに羽毛が生えそろっていた。
前年に比べ、今年は巣作りが早いようだ。
2013年9月29日に行った最初の調査中に、異なる2つの巣の3羽の若い鳥を調べた。
翌日、1つの巣からもう2羽のひな鳥の重さを測った。
体重から見て、オスのようだ。
10月1日、PTT衛星タグのを試着させ、最初のPTT衛星タグが取り付けられた。
タグの取り付けが、送信機を取り付ける演習にもなることを考えると、一羽に対して必要な時間が分からなかったので、取り付けたのは若鳥一羽だけだった。
翌日の10月2日、(仮)環境保護局の代表者2名(局長補佐と財務担当の代表)はハヤブサ調査チームはとともに、(仮)環境保護局が支援する研究を直接視察するため、ファハル島へと向かった。
前日の訓練のお陰で、その日の午後に2羽のハヤブサに衛星送信機を装着することができた。
10月3日から4日には、移住性と定住性の猛禽類が集まる地域を調査した。
そこには主に、エジプトハゲワシ(学名Neophron percnopterus)とソウゲンワシ(学名Aquila nipalensis)がいる。
10月5日には、異なる2つの巣にいたウスズミハヤブサの若鳥2羽に衛星タグを取り付けた。
オマーンでの現地調査中に、合計5羽のウスズミハヤブサの若鳥に無線タグを装着した。
ウスズミハヤブサに関する作業に加えて、我々はほかの鳥類についても観察、記録を行った。
Al Ansab湿地帯、Al MultaquaのMuscat Municipal(マスカット特別行政区)ゴミ集積場で行った調査では、40種類の鳥類を記録した。
この内訳は、猛禽類4種類、陸生鳥類14種類と水鳥22種類であった。
異なる年代の、ほとんどが成鳥のエジプトハゲワシおよそ300羽とソウゲンワシ3羽を確認した。
限られた時間にも関わらず、本プロジェクトの第1段階は成功裏に終了した。
調査チームは、繁殖地に関して直に経験し、ひな鳥に触れ、送信機の上手な取り付け方を学び、そして何よりも重要なことに、(仮)環境保護局のオマーン人研究者たちとの共同研究を始動した。
プロジェクトの第2段階は、2014年初めに、つまりウスズミハヤブサにとって冬の時期にマダガスカルで行われる。
その際には、(仮)環境保護局の生物学者たちがマダガスカルを訪れ、ウスズミハヤブサに関する現地調査に参加するだろう。
オマーンの(仮)環境保護局とペレグリンファンドのマダガスカル・プロジェクトとの関係は、CMSのサポートのお陰で無事に始動し始めた。
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記事内容と関係のない意見で恐縮ですが,右上の背景画像(蔓に鳥がとまっている)が本文にかかっていて,せっかく翻訳して頂いた文章が読めません.画像をもう少し右の方へずらすか別の画像を使うかなど工夫した方が良いと思います.
投稿: | 2014年7月 7日 (月) 15時08分
コメントいただきありがとうございました。
ご指摘に沿いまして、デザインを変えさせていただきました。
投稿: JWCS | 2014年7月 8日 (火) 10時29分