IUCN:野生生物に対する気候変動による影響調査を加速
翻訳協力:ジョンソン 雅子、校正協力:川西 恭平
2013年11月18日 IUCN Redlist News Release
地球の気候変動は、人類が取り組むべき最も重要な問題となっているが、気候システムが世界中の生物や生態系にどのように影響を与えるのかはほとんど明確ではなく、また社会や意思決定者がこれらの影響をいかに削減するかは、言うまでもなく全く不透明である。
これに応える形で、IUCN(国際自然保護連合)のSpecies Survival Commission(SSC、種の保存委員会)は近年、生物多様性に対する気候変動の影響に関することに焦点を当てる国際的な専門家のグループを結成した。
IUCNの種プログラム気候変動ユニットのリーダーJamie Carr氏は語る。
「気候変動専門家グループが結成されたことは、気候変動が自然界に及ぼす影響について、我々の知識を結集し、進化させていく上での重要なステップを意味します。近年、素晴らしい科学的調査が世界中で数多く行われていますが、それらの方法と結果は複雑で、お互いに矛盾することもたびたびあります。そのため、調査の成果に基づいて活動する人たちを多少なりとも躊躇させる可能性があります。このような問題に対応するのもこのグループの目的です」。
このグループは、この分野で著名な専門家を世界中から集めて構成されており、彼らは個人で既に重要で、時に驚く研究成果を発表している。
Wendy Foden率いるグループが近年発表した研究は、最大で9%の鳥類、15%の両生類、そして9%のサンゴの種が気候変動によって非常に影響を受けやすく、これらの種は気候変動以外の要因によって既に絶滅に瀕している。
同グループの中で 最大41%、29%そして22%(鳥類、両生類、サンゴの種の順)は、気候変動による影響を受けやすいが、現在、気候変動以外の要因によって絶滅の恐れはないと見なした。
この調査結果は、気候変動の影響を気候変動それ自体と、気候変動とそれ以外の要因との組み合わせの両方で考える必要性があることを浮き彫りにした。
加えて、そのことは現在優先的に保護されていない種についても近い将来、どのように注意していく必要があるのかを明確にしている。
もう一つの最近の研究例は、SSCのメンバーPiero Genovesi博士と彼の同僚による共同研究で、ヨーロッパ、オセアニア、そして北アメリカなど世界中のいくつかの地域で、気候変動が外来種の繁殖による影響を増大させる可能性を指摘している。
侵入種による影響は、ある程度調査が進んでいるテーマであるが、気候変動との相互作用効果についてはほとんど調査が進んでいない。
「侵略的外来種の移入に対する素早い対応と侵入の抑制は、気候変動の影響を緩和させるために、世界的な努力をすべき重要な要素となるでしょう」と、IUCN-SSCの侵入種専門家グループ議長であるPiero Genovesi博士は語った。
気候変動専門家グループの共同議長であるJames Watson博士の研究により、気候変動による影響を明らかにし、その影響に優先順位をつけ、気候変動に最も影響を受け易い地域を特定する斬新な方法が開発された。
予測される将来の気候変動の状況のもとに、現在の生態系の「非損傷度」と「安定度」のデータを使用し、Watson博士と共同研究者たちは、南アジア、東南アジア、西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、南アメリカの東部、そしてオーストラリア南部を最も影響を受けやすい地域として特定した。
Watson博士は次のように言った。
「この研究の解析結果と気候変動の影響を受けやすい場所の地図は、限られた資金で最大限の効果を上げる地域を特定する複雑な決断に、明晰さをもたらす手段です」。
「これから、気候変動は生態系に直接そして間接的に、様々な形で影響を及ぼすことになるでしょう。限られた資金でこれらの問題に対応することは、我々が世界の適応策に賢く投資をする必要があることを意味しています。気候変動が生物多様性に及ぼす影響、その影響に関する豊富な知識を結集し、この知識を利用して対応の方法を明らかにすることは気候変動専門家グループにとっての重要なチャレンジであり、私もそのプロジェクトに誇りを持って取り組んでいる一員です」と、Watson博士は加えた。
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