アクアリウム用の国際的な海洋生物取引の改善への取り組み
翻訳協力:木田 直子、校正協力:桂 康子
2013年7月3日 Yale environment 360 Report by rebecca kessler
家庭向けのアクアリウム市場への供給のために、毎年およそ3千万匹の魚やほかの海洋生物が捕獲されており、これが一部のサンゴ礁の生態系に悪影響を与えている。
保護活動家たちは、枯渇を招くような慣習をなくし、また、養殖を推進することによって、この業界の改善に取り組んでいる。
アクアリウム愛好家が南国の万華鏡のような海の一角を自宅の居間で鑑賞できるのは、世界の危機に瀕したサンゴ礁から、安定して供給される生きた魚や無脊椎動物のおかげである。
これらの生物は、いわゆるコーラル・トライアングルと言われるインドネシアやフィリピンなどの生物多様性破壊地帯から、袋や箱に入れられて空輸される。
しかし扱いが不適切で、捕獲してから日本につくための時間や距離が長いために、輸送中または到着直後に多くの個体が死んでしまうと懸念されている。
海洋生物は被害を受けており、貴重なサンゴ礁の生息環境は、シアン化合物の使用などの破壊的な採集方法によって損傷を受けているのである。
ハワイではこの問題が活発に議論されているが、科学者らによれば、ハワイのアクアリウム産業はほかの多くの地域よりもよく管理されているほうだという。
数年にわたり、活動家らは、訴訟、立法、世論の圧力によってアクアリウム用生物の採集の禁止のために努力してきた。
5月には、反捕鯨の過激な活動で有名なシーシェパード環境保護団体が、ハワイで、最終的にはそのほかの地域でも、採集を恒久的になくすための新しい活動を開始した。
この取り組みの前には、より主流の保護団体、科学者、産業界代表者らが持続可能な方法を導入しようという試みたが失敗に終わっている。
一方、ほかの地域で新しい取り組みが行われており、これには、先進国の愛好家たちを満足させると同時に発展途上国の人々の持続可能な生計を支援できるような取引となるかもしれないという期待が寄せられている。これらの取り組みは、アクアリウム産業専用の養殖設備における魚類やサンゴの養殖と、シアン使用により捕獲された魚を見つけ出すと期待されている手法などである。
「インドネシアやフィリピンでは、アクアリウム産業により起こるサンゴ礁のダメージと魚類の死滅が深刻に懸念されています」と、ワシントン州立大学の海洋生物学者Brian Tissot氏は電子メールで述べている。
Tissot氏が筆頭著者である2010年のMarine Policy誌の論文では、アクアリウム産業のみならず、ジュエリー、インテリア、また乾燥したサンゴや貝殻、タツノオトシゴなどの希少品などのさらに市場規模の大きな産業の改善を、米国が率先して行うよう求めている。
「現状を見ると非常に恐ろしいですし、いうまでもなく生態系への影響のほとんどは分かっていないのです」と、これらの取引によりサンゴ礁から消えていく海洋生物のあまりの多さについてTissot氏は述べている。
「私たちはそれが心配なのです」。
アクアリウム向けの生物は熱帯地域の少なくとも40か国に広がる生息地のサンゴ礁から採集されているが、中でもフィリピンとインドネシアは、世界中のアクアリウム向け魚類のおよそ85%を供給している。
通常、貧しい漁師は捕った生物を1匹数ペニーで、取扱業者や仲介業者からなる複雑なサプライチェーンに売り渡す。
魚やそのほかの海洋生物の半分以上は、世界第1位の輸入国である米国に送られ、以下、ヨーロッパ、日本がそれに続く輸入先となる。
消費者の間でサンゴ礁の生態系を再現する水槽に人気があるため、エビやサンゴ、イソギンチャクなど、捕獲される生物の多様性が増している。
現在、およそ2,000種の魚類、150種のイシサンゴ、500種以上の無脊椎動物が取引されており、その数はサンゴ礁の魚類とほかの生物を合わせて年間でおそらく3000万に上ると、ロードアイランドのロジャー・ウィリアムズ大学とボストンのニューイングランド水族館所属の海洋科学者Andrew Rhyne氏はいう。
Rhyne氏は同僚と共同で、これまでで最も詳細に取引の記録を調査している。
小売価格はさまざまである。
デバスズメダイのような一般的な魚なら数百円で買えるが、ペパーミント・エンゼルフィッシュのような希少種には3万USドル(294万円、1ドル=97.92円 2013年10月17日現在)払うコレクターもいるという。
国連環境計画(UNEP、United Nations Environment Program)の報告によれば、世界では年間3億3千万USドル(およそ323億円)規模の取引が行われているだろうという。
一部の科学者や保護活動家らは、サンゴ礁生態系は、海水温の上昇や酸性化、汚染によって、現在深刻な脅威にさらされており、アクアリウム産業からの影響はさらなる負担になるだろうと懸念している。
アクアリウム産業はコーラルトライアングルに最も深刻な影響を与えているという。
それは、インドネシア、フィリピン、マレーシアの海域を含む、太平洋の広い地域である。
この地域における最大の問題は、漁師が採取場所でサンゴを折ったり、さらには魚を気絶させるためにシアン化合物などの毒物を撒くことによって、サンゴ礁、魚類やそのほかの海洋生物に付随的な損傷を与えることである。
アクアリウム貿易の輸入業者が提出した1年分の申告用紙や請求書を対象にした2012年の分析で、Rhyne氏のチームは、米国が輸入する種のほとんどは広範囲に豊富に生息しており、取引により深刻な被害を受ける可能性は低いと結論付けた。
しかし一方で、研究は十分ではないが、アクアリウム産業により一部の生物種がある地域で枯渇したり事実上絶滅したことが実証されたケースが数多くある、と専門家たちはいう。
一例としては、12番目に人気のある輸入魚のナンヨウハギは、インドネシアで乱獲されているとRhyne氏いう。
小売価格は今でも高く、大きなものなら100USドル(約10,000円)を超えることもある。
ナンヨウハギはディズニーが近日公開するアニメ映画「ファインディング・ドリー」の主役であり、「ファインディング・ニモ」の時のクマノミのように需要が今後急増することは確実だ。
「漁師はさらに遠くまで漁に出なければならなくなるので、さらに取り扱いが難しくなり、ナンヨウハギの死亡率が上昇し、収集熱はさらにヒートアップすることになります」と、Rhyne氏は電子メールで述べている。
生態系に関する懸念に加え、倫理的な問題もある。
シーシェパードの新しい副代表のRobert Wintner氏やとりわけ米国動物愛護協会は、アクアリウムの産業と趣味は残酷で許しておけないものであり、ちっぽけな水槽は野生生物を入れる場所ではないと主張する。
ハワイのサンゴ礁に生息する生物が被っている被害は、シーシェパードの好戦的な活動の焦点となっており、激しい議論を呼んでいる。
シュノーケル・ボブというあだ名を持つWintner氏は長年のこの問題での活動家で、問題は明白であるという。
Wintner氏は、ヤドカリやキイロハギ、ケヤリムシの個体群の惨状や、ケヤリムシを採集するために破壊されたサンゴなどについて、この産業が行った「恐怖の物語」を次々に披露した。
「いやらしい量の魚が捕獲されています」とWintner氏はいう。
「サンゴ礁に”掃除機”をかけているのです」。
Wintner氏は、自らに対する批判の多くをアクアリウム産業への迎合だとして退け、産業改善への取り組みのほとんどはまやかしだと述べる。
しかし、アクアリウム産業の関係者やTissot氏らのような長年ハワイの取引を調査研究してきた科学者らは、シーシェパードの活動の主張はハワイでの影響を著しく誇張するものだという。
彼らによれば、ハワイの業界はコーラルトライアングルよりずっとよく調査および管理されているといい、サプライチェーンはより短く、魚の扱いがより丁寧であるので、捕獲された魚類の生存率は大幅に高くなっている。
アクアリウム産業の改善のためのこれまでの目立った試みは失敗に終わっている。
マリンアクアリウム協議会(Marine Aquarium Council)は、サプライチェーンに連なる採集者やほかの業者を指導して、厳しい自主基準を遵守させようとする10年計画を立てたが、ある分析によればその持続可能性の根拠を実証できなかったために、2009年までにほぼ失敗に終わった。
また、米国向けのサンゴ礁の野生生物について持続可能性の基準を設定すべく、複数の環境団体の要望により起草された法案は、擁護者であるハワイ選出のDaniel Inouye上院議員が去年12月に亡くなったことで消滅した。
批判の声に対して、アクアリウム愛好家と業者の間では、憤りと内省が起こった。
「環境面では特定の種や一部の地域が危機にさらされているのかもしれませんが、全世界から見ると影響はゼロです」と、ロサンジェルスを拠点とする水槽生物の卸売業者大手であるQuality Marine社のChris Buerner社長はいう。
Buerner氏は、マリンアクアリウム協議会の委員も務めた人物だが、海で採集されるアクアリウム向けの魚の量は食用としての漁獲量に比べれば微々たるものだという。
とはいうものの、さまざまな調査研究により業界が悪影響の少ない方法を採用する方向に進むのはよいことだと述べ、「アクアリウム産業界が真剣に改善のために取り組むべき点はいくつかありますからね」と付け加えた。
現在、一般公開の水族館、小売業者、それにQuality Marine社などの卸売業者が、これまでの慣習を改善すべく講じている手段は、購入された魚の持続可能性基準の策定と、信頼できない供給元からの購入をなくすために、生物の追跡を可能にできるようにすることなどである、とBuerner氏は明かした。
また、現在開発中のSMARTという名称のアクアリウム産業に利益となる新しいエコラベルシステムが使われるようになれば、漁獲割当量の遵守が必須になる。
また最近の進展としては、魚のシアン化合物を検出する試験が開発され、これは広く歓迎されている。
毒物使用による漁獲はほとんどの国で違法であるのだが、アクアリウム産業に並んで、さらにかなり規模の大きいアジアの食品市場に、サンゴ礁の生きた魚を提供する15か国ほどで今だに行われている、と野生生物保護団体のDefenders of Wildlifeは2012年のレポートで報告している。
開発された試験により、業界はシアン化合物で捕獲された魚を拒否できるようになるだろう。
また、違法に採集された野生生物の輸入を禁止する米国法の適用が可能になるため、最終的にはアクアリウム産業から毒物を排除できる、と専門家たちはいう。
また、養殖は野生の魚を危機から守る助けとなるだろう。
現在、販売される海水魚の95%は野生のものである。
アメリカのSeaWorldの新しい取り組み「Rising Tide Conservation」は、養殖が困難であるとされてきた様々な海水魚を養殖するための「説明書を書く」ためのものだと、この取り組みのリーダーJudy St. Lefer女史はいう。
サンゴの養殖はさらに進んでいる。
たとえば、ほんの数年前、インドネシア人は輸出用に何トンものサンゴを国内のサンゴ礁からたたき切っていた。
Rhyne氏によると、2011年、バリの新しいサンゴ養殖プログラムに助言するためにインドネシアに行ったとき、すでに進んだシステムが確立されているのを見て感銘を受けたという。
昨夏に再訪したときは、さらに多くの種が養殖されていた。
最大の養殖業者のひとつは貝殻とサンゴの輸出業者で、何十年もの間、野生のサンゴを採集してきた。
しかし今ではサンゴ養殖場を所有し、成功させている。
多くの作業者が働くその養殖場は、従来は考えられなかったような場所、セメント工場とフェリーターミナルのある陸地からすぐ近くの海にある。
この地域のサンゴ産業は、野生サンゴの採集から養殖へと急速に変化しつつある、とRhyne氏はいう。
皮肉なことに、米国政府はインドネシアでの養殖を推進してきた一方で、Endangered Species Act(絶滅危惧種保護法)によって66種のサンゴをレッドリストに載せるよう提案している。
このことは、始まったばかりの産業の障害となる可能性があるとRhyne氏はいう。
そうではあるが、Rhyne氏らはアクアリウムという趣味が、サンゴ礁に依存する人間と生物の双方に利益をもたらすようになるためのヒントを、サンゴの養殖に求めている。
漁師から生活の糧を取り上げれば、彼らは家族を養うためにほかの持続可能でない漁獲手段に頼ることになるだろう。
しかし、アクアリウム産業は適切に行われさえすれば、貧困生活を送る人々に収入とサンゴ礁保全の意義の両方を手に入れさせることができるのである。
ただしそれは容易なことではない、とRhyne氏は認める。
「サンゴ礁の生態系を保全したいのなら、そのサプライチェーンに従事する人々に目を向ける必要があります」と、Rhyne氏はいう。
「そうしなければ、保全という目的をかなえることはできないでしょう」。
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