野生ネコ科動物の保全に新たな一歩:パナマとパンセラによるジャガー保全に関する歴史的合意が成立
パナマーパンセラ合意でパナマ初の正式なジャガー保護戦略の開始
翻訳協力:北澗 由香、校正協力:石塚 信子
2013年6月28日 Panthera Press Release
今週、パナマ政府と大型ネコ科動物の国際保護団体であるPanthera(パンセラ)の間で、ジャガー保護に関する歴史的合意がなされ、ジャガーの未来にとって意義深い勝利となった。
パナマで開催された有名なSmithsonian Tropical Research Institute(STRI、スミソニアン熱帯研究所)の会議で、Panama's National Environmental Authority(ANAM、パナマ環境庁)のGeneral AdministratorであるSilvano Vergara氏が議長を務める中、パンセラ、環境庁、およびMastozoological Society of Panama(SOMASPA)が了解覚書に署名を行った。
この合意により、パンセラおよびパナマ政府は、パナマの保護地域システム内にあるジャガーとその生息地の保護のためにイニシアチブを遂行し、戦略的に経済発展とパナマ全体でのジャガー生息地保護とのバランスをとり、牧場主とジャガーの小競り合いを緩和し、パナマの人々に対してジャガー保護教育を開始することを約束した。
ベリーズとブラジルと協議中である2つの協定同様に、この了解覚書はパンセラにとって、中南米諸国政府との5つめのジャガー保護合意として、ジャガー保護に向けた飛躍的な一歩を意味する。
今日、合意署名を行う際、パンセラのCEOで著名なジャガー研究者であるAlan Rabinowitz博士は次のように語った。
「パナマとパンセラによるジャガー保護合意の重要性、位置、そのタイミングはまさに歴史的といえます。パナマはJaguar Corridor Initiative((仮)ジャガー回廊計画)生誕の地であり、それからわずか7年で、私たちはジャガーとその生息地をこの先長期にわたり保護するために必要な協定を結び、事業を実施するための完璧な協力関係を形づくったのです」。
Rabinowitz博士はさらに続けた。
「私たちはジャガーが人間の生活の場、すなわち牧場や農園を横切ったり、パナマ運河を泳いでいるのでさえも目にしています。こうした場所を難なく通り抜けていく能力によって、種族の遺伝子的連結性を確保しているのです。回廊は理論上のモデルではなく、現実に即した、機能的で、ジャガーの長期的存続のための一条の光なのです」。
2006年、Rabinowitz博士はSecond Mesoamerica Protected Area Congress((仮)第2回メソアメリカ保護地域会議)において、中米地域の環境大臣たちに加わり、中米地域におけるジャガー個体群の連結性と保護を目的とするMesoamerican Biological Corridor((仮)メソアメリカ生物学的回廊)の有益性について意見の一致をみた。
パナマで開催されたこの会議は、現存する最大の肉食動物保護プログラムである、約600万平方kmの範囲におよぶ、パンセラのJaguar Corridor Initiative(JCI、(仮)ジャガー回廊戦略)の立ち上げを後押しした。
2008年に始まったJCIは、種の遺伝的多様性と存続を確保するため、メキシコからアルゼンチンで生息するジャガーを人間の生活区域内で「結びつけ保護する」ことを目指している。
この回廊内におけるパナマの役割を過小評価してはならない。
野生のジャガーに隠れ場所を提供する中南米諸国18か国のうちの1か国として、パナマはパンセラがジャガーの科学的な保護を実施している13か国のうちの1国でもある。
コスタリカとコロンビアの間を蛇行する細長い地形のパナマ地峡は、重要なジャガーの個体群を含む生物多様性の宝庫であり、中米と南米のジャガーを結ぶ唯一のかけ橋の役割を果たしている。
2008年以降、パンセラはパナマ環境庁と SOMASPAと連携し、パナマの保護区域でのジャガーおよび獲物となる動物の個体群の監視、パナマ各地での人間とジャガーの対立関係の実態調査、上空からの調査によるジャガー生息地の健全性の評価、個体群モニタリング調査、小競り合いの緩和策、保護教育ワークショップを実践する現地スタッフのトレーニングなどに取り組んでいる。
こうした取り組みの大半は、パナマ固有の「コマルカ」と呼ばれる自治区域内にあるジャガー生息地で行われている。
海に挟まれた縦幅が約80kmという細長い地形のため、こうした先住民社会との連携は、ジャガーの各個体群の連結性を維持するには不可欠である。
何か月も協力を仰ぎ続けた結果、最近になってようやく、パンセラはNgobe Bugle(ノベ・ブグレ)先住民族の地域社会から、彼らの領土内にある重要なジャガー回廊での調査実施の許可を得た。
さらに今年初め、パナマ環境庁のGeneral AdministratorであるSilvano Vergara氏らとLightHawk(軽量飛行機の機種名)のフライトに同乗したパンセラのチームは、パナマの北東部に広がるKuna Yala(クナ・ヤラ)とMadugandi(マドゥガンディ)の先住民自治区、およびSoberania(ソベラニア)国立公園とAlto Chagres国立公園の間にある隣接する回廊では、比較的健全なジャガーの生息地が維持されていることを確認した。
今後、パンセラは、パナマ初のジャガー保護戦略を構築するとともに、経済開発とジャガー生息地保護のバランスを積極的にはかっていくつもりである。
パナマ政府と協力して、パナマ運河を含むジャガー回廊内およびその周辺の土地開発を戦略的に進める予定である。
パナマ運河周辺の国々は、世界でも有数の目覚ましい技術発展を遂げた地域の1つとして、人間の手による急速な開発を経験し続けている。
現在、これはパナマのジャガーが直面している主な脅威の一つとなっており、このまま対策が取られなければ、ジャガーにとって深刻な障壁となり得るだろう。
パンセラのジャガープログラムのExecutive Directorを務めるHoward Quigley博士は次のように説明した。
「パナマでの私たちの保護活動の取り組みを通じて、パンセラとそのパートナーたちは驚くべき事実を発見しました。ジャガーは種の存続のために、パナマ運河を数百mも泳いで渡っています。これは、ジャガーという種が逆境に立ち向かう途方もない弾力性を持っていることを示していますが、私たちは、ジャガーの生息地を保護し、そして、この経路がやがて種を存続させる唯一のルートとならないようにするため、今すぐに行動を起こさなければなりません。実現可能な計画を立てれば、ジャガー、運河、牛の放牧を共存させることができるとわかっています」。
牧場主への新たな救済や対立関係を緩和するプロジェクトを実施すると共に、パンセラの研究者たちは、地域のパートナーと継続的に協力し、国内のジャガーの生存と分布や、ジャガーの国内および中南米を移動する際の最も安全な経路を特定して、2013年にパナマの生息地の「地上調査」を終える予定である。
メソアメリカ内のジャガーの他の行動領域はすべて調査し終えたため、パナマとグアテマラは、パンセラの研究者が確認する最後の回廊ということになる。
調印式でパナマ環境庁総務長官の代行を務めたGeneral SecretaryであるGeremias Aguilar氏は、この地域での生物多様性とジャガーを保護する取り組みにおいて、パナマが担う役割をさらに強調してこう述べた。
「ジャガーは環境の健全性にとって極めて重要な哺乳類です。人間の持続不可能な開発によって生物多様性が失われることは、近年において最大の地球環境における脅威の一つです。今回の合意の目的は、パナマにおいて生息地の健全性を表すジャガーという種の生存条件を改善することにあります」。
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