野生ヤクは遊牧民と共存できるか
翻訳協力:上田 梨紗、校正協力:上仲 淳子
2013年6月26日 SOS News Story
野生ヤクの保護活動家が、地域の遊牧民に野生ヤクの保護に来たことを伝えると、彼らは不信感をあらわにした。
「助ける野生のヤクはすでに法で守られていますが人間は守られていません。ヤクは保護する価値があるのに、地域住民の生活の保護はないじゃありませんか?」。
こうした反応を受け、プロジェクトは地域の人々の考えをより理解することを目的とした調査から始まった。
チベット山岳地域のチャンタン自然保護区では、Garco地域の人々は家畜だけで生計を立てている。
家畜37,000頭のうち、9%がヤクだ。
家畜ヤクは飼育するのに最も利益の高い動物と見なされている一方で、遊牧民にとっても、生態系にとってもやっかいな存在でもある。
主な理由は、家畜ヤクと野生動物との衝突、そしてエサとなる牧草をめぐっての争いだ。
この地域では、Wildlife Conservation Society(WCS:野生生物保護協会)がSOSから資金を得て、チベットの野生ヤクのための保護計画を始めた。
保護計画チームによると、近年の家畜ヤクの増加に伴い、争いや衝突は増えてきているという。
家畜ヤクの数は2012年だけで9.4%も増加し、野生ヤクの3.5倍、Garco地域周辺の野生ヤクの放牧地における個体数の88%を占めている。
その結果として、野生ヤクは周辺の地域に追いやられ、また野生ヤクと家畜ヤクの交雑率の高さから、チベットの純粋な野生ヤク個体群の遺伝的な純粋性が脅かされている。
また調査の結果、地域住民の88%が野生ヤクを問題があるものと見なすなど、その大多数が野生ヤクに対してネガティブな態度を持っていることが分かった。
「野生のヤクは頻繁に私たちの仕事を妨げます。家畜のヤクと交尾し、荒っぽい気性の雑種の子供が誕生します。そして、乳を搾るために自分のヤクに近づくことさえできなくなるのです」と、Garco地域の遊牧民であるChimi Basang氏は言う。
野生の群れに混じろうと逃走を試みる家畜ヤクの存在もまた、人間と野生ヤクとの溝を一層深めているのだ。
しかしながら、保護計画チームは自然保護において地域住民の意識と教育レベルの低さが、この争いのカギであると認識した。
調査によると、アンケート回答者の3/4が野生ヤクの狩猟禁止法および野生ヤクの増加が問題の主因だと考えている。
不適切な遊牧活動や手法、または気候変動による生息環境悪化が影響しているかもしれないと感じている回答者は1人もいなかった。
そのため、10人中1人が、考えられる解決策として遊牧地の調整を提案する一方、ほぼ半分のアンケート回答者は野生ヤクに対して攻撃的な手段を取るべきだと主張していた。
こうした発見を受け、Garco地域での人間と野生ヤクの衝突における深刻さと規模に関し、現地で詳細なアセスメントを行う予定である。
同時に、放牧地の移動に関わる家畜の損失や搾乳減少などの不安、といった懸念や現実的なリスクを緩和するための援助策を探る。
近く、パイロットプロジェクトの提案や緩和策を、地域住民および行政機関と協議する予定である。
それらが実行されれば、野生ヤクは本来の生息地の一部を取り戻す事ができ、同時に人々は環境を壊すことのない地域発展を推進することが可能になる。
「この地球に住む生物-つまり人間や動物は、世界の美しさと繁栄に、それぞれのやり方で貢献するために存在するのです」と、かつてダライ・ラマが言ったように、野生ヤクと人間が共存できうる未来が来るかもしれないのだ。
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