保全のための移動・移植に関するIUCNの新ガイドライン
翻訳協力:戸井田 若菜、校正協力:米倉 あかね
2013年7月12日 IUCN Redlist News Releases
世界の生物多様性は、生息地の消失や外来種、気候変動などの絶え間ない脅威にさらされており、より直接的な保全のための介入を考える必要性が高まっている。
人類はこれまで何千年もの間、自分たちの目的のために生物を移動・移植し、それは人類に利益をもたらしてきたが、中には悲惨な影響が生じたケースもあった。
生物の保全管理におけるこうした複雑な状況に対処すべく、IUCN(国際自然保護連合)内のSpecies Survival Commission(SSC:種の保存委員会)とReintroduction Specialist Group(RSG:再導入専門家グループ)、そしてInvasive Species Specialist Group(ISSG:侵入種専門家グループ)は、IUCN Guidelines for Reintroductions and Other Conservation Translocations((仮)再導入とその他の保全のための移動・移植に関するIUCNガイドライン(改訂版))を発表した。
移動・移植とは、生物をある地域から人為的に移動させ、別の地域に放つことである。
新しいガイドラインは、再導入、補強、保全のための導入などあらゆる種類の移動・移植について、詳細な実施計画を提示している。
また、移動・移植による生物学的、社会的、政治的効果について考察すると共に、移動・移植のリスク評価と実現可能性調査の出発点を示している。
動植物の再導入は、ここ20年以上にわたって非常に増加しており、移動・移植を成功させる上での科学的原理と現実的な問題に関する理解が深まってきた。
1987年に発表された最初のIUCN Position Statement on the Translocation of Living Organisms((仮)生物の移動・移植に関するIUCN基本方針)に続いて、1998年発表のIUCN Guidelines for Reintroduction(再導入のためのIUCNガイドライン)は、そもそも再導入専門家グループが策定したものだ。
これらのガイドラインは、オマーンのArabian Oryx(Oryx leucoryx:アラビアオリックス)、ブラジルのGolden Lion Tamarin(Leontopithecus rosalia:ゴールデンライオンタマリン)、アメリカのRed Wolf(Canis rufus:アメリカアカオオカミ)といった先駆的な再導入のケースをモデルにしたものであった。
新しいガイドラインは、生物種が直面している様々な問題と、その結果生じた必要性、つまり生物種がこれまで生育・生息していた場所で新しい個体群を根付かせたり、生存する少数の個体群を増加させたり、重要な生態系機能を回復させるために、保全のための移動・移植を活用することの必要性に応えたものだ。
また外来種に関する経験を基に、生息条件がより適すると思われる、従来の生息域外の地域に動植物を意図的に移動させる際に、その場所に定着させるための補助の実施に潜む不確実性とリスクについても注意を喚起している。
現代の生物の保全において議論の分かれる問題となっているが、これまでに定着の補助による定着の例はほとんどない。
明確な目的設定やリスクの特定と評価がなされ、実績が測定 されるのであれば、いかなる保全のための移動・移植も正当化されなければならない。
これらのガイドラインは、実例よりも原則に基づいており、徐々に増えつつある保全のための介入について、十分な情報に基づいて決断を下すための基本方針を示していて、あらゆる保全のための動植物の移動・移植案にとって欠くことのできない指針である。
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