保護努力がマサイ族のライオン狩りを奨励する可能性
翻訳協力:土屋 悠紀世、校正協力:日原 直子
2013年8月7日 ACF Wildlife News
世間一般の通念では、東アフリカの遊牧民であるマサイ族がライオン狩りをする明らかな理由が二つあると言われている。
家畜を殺すライオンに報復するため、もしくは通過儀礼を行なうためである。
しかしその見方はマサイ語の誤った解釈と、マサイ族の文化的伝統およびマサイ族と野生生物との関係の単純化によるものだ、とコロラド大学ボルダ―校の地理学者が率いる研究者チームは結論付けた。
その上、ライオンを狩猟から守る目的が含まれた保護構想はうまくいっていないか、場合によってはマサイ族を政治的抗議の一形態としてのライオン狩りへとさらに駆り立ててしまったようである、と研究者たちは報告した。
ライオン狩りが行われている理由を社会が正確に把握しない限り、ライオン狩りを規制することは難しいため、理由に関するそのような微妙なニュアンスを捉えることは重要である、と研究者たちは主張している。
アフリカライオンの多くの個体群は個体数が減少しており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、絶滅危惧II類に分類されている。
生活や家畜を守る目的でライオンを排除するためのものでない限り、ライオン狩りはケニアでは禁止されており、タンザニアでは主に狩猟の許可を得た旅行者に限定されている。
それでもなおライオン狩りは両国で繰り返され、たいていは法に反して行われている。
研究を率いたコロラド大学ボルダ―校の地理学者Mara J. Goldman助教授は「マサイ族がライオンを狩猟する本当の理由について誤った表現が用いられていることが分かりました。そして、私たちはそれを正すための民俗学的な背景をたくさん知りました」と語った。
Goldman助教授は、ポルトガルのリスボン工科大学の研究員であるJoana Roque de Pinho博士と、コロラド大学ボルダ―校地理学部の卒業生で現在は同大学で法律を学んでいるJennifer Perry氏と共同研究を行った。
Goldman助教授と特別研究員たちは、2004年から2008年までの間、タンザニアとケニアのマサイ族を対象にした246件の徹底的な聞き取り調査を行った。
マサイ族のライオン狩りには複数の重なり合う理由があることが分かり、その中には家畜の捕食に関連している理由もあれば、関連していないものもあった。
いくつかの場合において、ライオン狩りの理由としてマサイ族が語ったのは、特に家畜を殺した経験があるライオンによって再び家畜が襲われるという、潜在的な危険を回避するためであって、単なる報復ではないということだ。
そして現在も、マサイ族が見事なライオン狩りと、狩猟をする戦士の勇気を称える一方で、その文化的伝統は狩猟の動機としては弱く、むしろ政治的な不満のほうが強いことがありえる。
たとえば、ケニアでは家畜をライオンに殺害された時の損害を金銭的にマサイ族に補償して、マサイ族のライオン狩りを抑制しようとする保護計画がある。
タンザニアでも同様の補償プログラムを始めようとする提案があったが、マサイ族自身、この方策には限界がある理由を説明している。
「補償には同意できません。毎日牛を殺されてはたまらないからです」と、マサイ族の長老は研究者たちに語った。
「金が今日払われたら、明日も払われ、しまいには毎日払われることになります。ライオンは牛がいなくなるまで通い続けるでしょうから。そうなったら、私たちはその金でどうしたらよいのでしょう」。
タンザニアの野生生物の保護のためのトラスト地であるManyara大牧場に隣接する村では、そのような感情が表れていた。
その大牧場内での狩猟は禁止されているが、近隣の村のマサイ族たちがそこの管理を分担することになっていた。
当初、長老たちは戦士たちのライオン狩りを止めさせていたことを研究者たちは知った。
しかし、大牧場の管理におけるマサイ族の代理権が縮小すると、マサイ族の人々は権利を奪われた気持ちになった。
ライオン狩りの頻度と深刻度は増し、もはや長老に止められることもなくなった、と研究者たちは述べた。
「ルールを守る理由は私たちにはありません」と、一人の長老が研究者たちに語った。
Goldman助教授は、タンザニアとケニアにいるマサイ族の人間と環境との関係を調べている。
マサイ族はアフリカの中では最もはっきりと認識できる部族の一つで、その独特で色彩に富んだ衣服と社会慣習によって知られ、また最近はライオン狩りの風習でも知られている。
ライオン狩りをする主な動機が、タンザニアとケニアの間でいくらか異なっていたものの、マサイ族がライオンを狩猟するのには複数の重なり合う理由がある、と研究者たちは強調している。
その理由とは、守り手としての若い戦士たちの役割を再確認するため、戦士のグループから勇敢なリーダーを選ぶ際に役立たせるため、それぞれの戦士が名声を得るのを可能にするため、家畜を捕食するライオンを排除するため、ライオンが家畜を食べることが習慣化しないようにするため、そして時にライオンが人に危害を加えないようにするためである。
これらの複数の理由は、マサイ族のライオン狩りを「文化的な成年男子のための儀式、または報復行為」と説明するのには限界があることを示している、と研究者たちは記している。
「マサイ族の知識を尊重して彼らを保護介入に参加させること、またすべての管理過程に関わらせることが、マサイ族のふるまいを大なり小なり自発的に変化させることにおいて、はるかに良い結果をもたらすと思われます」と、研究チームは述べた。
加えて、「ライオン保護プロジェクトでは、そのように複雑な政治問題に取り組むことはめったにありません」と、付け加えている。
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