草原性チョウ類の個体数が20年でほぼ半分に
翻訳協力:古澤 陽子、校正協力:アダムス・雅枝
2013年7月23日 UFZ Press Release
1990年から2011年にかけて、草原に生息するチョウ類の個体数が激減した。
集約農業と草原の生態系への適切な管理を怠ったことに起因すると、欧州環境局は報告書にまとめている。
この報告書には、ドイツのButterfly monitoring scheme((仮)チョウ類モニタリング計画)のデータが織り込まれており、Helmholtz Centre for Environmental Research(UFZ、ヘルムホルツ環境研究センター)は欧州環境局を科学面からサポートしている。
UFZの科学者らは、草原性チョウ類の動向解析にも関与した。
報告書によると、草原に生息するチョウ類の個体数の減少が、とりわけ心配されている。
それというのも、これらのチョウ類はほかの陸上昆虫類の増減傾向の指標とされており、その陸上昆虫類とあわせて世界中の生物種数のおよそ2/3を占めている。
つまり、チョウ類は生物学的多様性と生態系の健全さを示す有益な指標なのだ。
「(仮)欧州草原性チョウ類指標:1990-2011」では17種のチョウが調査されたが、これはかなり広範囲に分布する7種と、幼虫の食草が特定の種に限られる10種から成る。
欧州では、17種のうち8種が減少し、2種には変化がなく、1種では増加が見られた。残る6種についての傾向は不明である。
報告書の中で調査されたチョウ類には、激減しているCommon Blue(Polyommatus icarus、イカルスヒメシジミ)、1990年より個体数に変化が見られないOrangetip(Anthocharis cardamines、クモマツマキチョウ)、過去20年間の傾向が不明なLulworth Skipper(Thymelicus acteon、スジグロチャバネセセリ7属の一種)が含まれる。
欧州環境局のHans Bruyninckx事務局長は、「草原性チョウ類の大幅な減少には警鐘を鳴らすべきです。欧州における草原性チョウ類の生息地は全体として失われつつあります。チョウ類の生息地を維持できない場合、これらの種の多くは永遠に失われる可能性もあります。チョウ類やその他の昆虫の重要性が評価されるべきです。なぜなら、これらの昆虫がもたらす受粉は自然の生態系や農業にとって不可欠なのですから」と警告した。
・なぜチョウは消えつつあるのか?
草原性チョウ類の個体数に影響を与える主要な2つの動向として、集約農業と土地の放棄がある。
比較的平坦で栽培に適した土地では農業は集約された一方で、主に欧州東部と南部にある山間や湿地にまたがる広大な草原は放棄された。
この集約農業の成立と草原の放棄は、草原性チョウ類のための生息地の消失や、崩壊に結びついている。
集約農業における土地の均質化は、生物学的な多様性の喪失につながる。
さらに、集約農業では農薬が広く使用されることで、チョウ類は農薬の影響をもろに受けることになる。
農地は社会経済的な理由によって放棄されることが多い。
生産性の低い土地での農業では収益が上がらず、Common Agricultural Policy(CAP、EU共通農業政策)からの支援も乏しいなどの理由で農業経営者は事業を手放し、土地は管理されないまま放置される。
すると草原の草は伸び放題となり、すぐに雑木林や森林へと姿を変えてしまう。
欧州北西部には、道端や鉄道側線、岩地や湿地、市街地や自然保護区において草原性のチョウ類がほとんど見られない地域がある。
伝統的な低投入持続型農業システムを行っている地域は、自然的価値の高い農地(High Nature Value Farmland)と呼ばれ、チョウ類の重要な生息地となっている。
・欧州におけるチョウのモニタリング
前述の報告書は、欧州に生息する草原性チョウ類の指標に基づいており、De Vlinderstichting (Dutch Butterfly Conservation、オランダチョウ類保全協会)と、Butterfly Conservation Europe (ヨーロッパチョウ類保全連合)、さらにStatistics Netherlands(オランダ統計局)により、1990年から2011年までのデータを使用して編集されている。
この指標は、主に欧州連合加盟国である欧州の19カ国の国別の(仮)チョウ類モニタリング計画)から情報をまとめ上げている。
何千もの訓練を受けた専門家とボランティア調査員が、欧州中に点在するおよそ3,500ヶ所の観測地でチョウの個体数を記録している。
このボランティアによる実地調査は、欧州のチョウの状況と傾向を理解するうえで欠かせないものとなっている。
この報告書は1990年から2011年までのデータに基づいているが、留意すべき点は現在のような土地利用の変化が、欧州の多くの地域ではもう1990年以前から始まっているところにある。
つまりこの報告書は、近年のチョウの個体数の半減が、かなり大規模かつ長期にわたって減少の過程をたどる中での、最近の状況である可能性のあることを示唆している。
草原の保全が十分に行われていないことは、EUにおける生物多様性戦略でも認めており、報告もされている。
報告書は、Nature2000の自然保護区やHNV農地のような草原の適切な管理が必要だと述べている。
また同報告書は、EU共通農業政策による新しい支払い制度により、管理の向上を促進することが可能だとしている。
欧州に生息する草原性チョウ類の指標は、農業政策の成功度をはかる尺度としての活用が可能である。
これらのチョウのために持続的に資金を投じることが、一定の政策の批准や改正を促し、ひいては、2020年までに生物多様性の低下を食い止めるという目標の達成を遂行する際に、大きな支えとなるだろう。
« ICCWCがスリランカに野生生物事件の支援チーム(WIST)を派遣 | トップページ | WDC、EU域内の港を経由したナガスクジラ肉の輸送船を監視 »
「23 ヨーロッパ」カテゴリの記事
- 絶滅寸前のヨーロッパウナギが香港のスーパーマーケットに流通(2021.10.26)
- スイス、外国人トロフィーハンターによるアイベックスの狩猟を禁止(2021.10.12)
- 50年以上にわたりタグ装着・再捕獲したサメから得られた最新のサメアトラス(2020.03.17)
- 有機畜産農業が野鳥を増やす(2020.01.31)
- 象牙同盟2024:政治指導者、自然保護活動家、著名人らが共に象牙需要の問題に取り組む(2019.02.19)
「16 昆虫」カテゴリの記事
- エルニーニョがアマゾンに生息する昆虫の急減の一因であることが最新の調査で明らかに(2020.06.16)
- 研究:食料の安全保障を脅かす世界の農業の動向(2020.01.28)
- 巨木林の減少に伴いヨーロッパのクワガタムシの5分の1が絶滅の危機に(2018.03.22)
- 集約農業と野火により欧州のバッタやコオロギの1/4以上が危機に(2018.01.16)
- ヨーロッパに生息する野生ミツバチ類の約10%が絶滅に直面しており、50%以上の状況が不明(2016.02.05)
この記事へのコメントは終了しました。
« ICCWCがスリランカに野生生物事件の支援チーム(WIST)を派遣 | トップページ | WDC、EU域内の港を経由したナガスクジラ肉の輸送船を監視 »
コメント